堀内都喜子: フィンランド 豊かさのメソッド



フィンランドというと自分の中ではサウナ、ノキア、ミカ・ハッキネンという感じだが、正直日本人からすると北欧の中でも地味な存在であるといえるだろう。しかしそんなフィンランドが子どもの学力調査 (PISA) で世界ナンバーワンになったらしい。もともと北欧の中でも教育や福祉に対して熱心であるという印象はあったが、まさか世界一だったとは知らなかった。そんなフィンランドに魅せられてユヴァスキュラ大学に留学した経験を持つ筆者が、日本とフィンランドを比較しつつ、その魅力について語っている。

フィンランド人は、どちらかというとあまり積極的でないという意味において日本人と似ているらしい。男性も今で言う草食系のような感じらしいし、知り合いといてお互い話さなくてもそれはそれで何とかなってしまうと言うのも他の欧米の各国と比べると親近感があるように思う。

しかしやっぱり何と言っても大きく違うのはその教育制度。学歴が人生を大きく左右する点は日本と変わりないが、日本の学歴が単に学校の序列の高低のみを気にするのに対して、フィンランドでは学歴=仕事をする上での専門的知識を有しているということを意味するため、学校で何を学んだかという点が極めて重要になる。学校のカリキュラムも、日本は子どもを型にはめて画一的な教育を施す傾向があるのに対し、フィンランドでは極めて柔軟かつ自由な教育が提供されている。日本の教育というのは、学習指導要領にあてはめてそこから逸脱することを許さない厳格さに特徴があると思っているが、こういうやり方では子どもが主体的に学びたいことを学ぼうとする姿勢を育むことは出来ない。それにフィンランド方式では、生徒が常に自分のやりたいこと・やるべきことを考えながら自分で進む道を考えていくから、やる気も出るし落ちこぼれも出づらい環境が整っている。日本人の「右にならえ」が好きな国民性的には合いづらい方法ではあると思うが、見習うことは非常に多いように思う。

その一方で、やはりもうひとつ大きく違うのが福祉の充実と税金の高さ。福祉で言うと隣国のスウェーデンの方が有名ではあるが、フィンランドでも同じように充実している。福祉に対する意識というのは日本も決して低くない (アメリカのように健康保険すら完全に自己責任とされる国と比較してと言う意味だが) わけで、その意味で参考にできる部分も少なからずある。ただ、このような制度を維持するには、やはりある程度国の規模が小さくないと難しいだろう。日本は資本主義に走りすぎてしまったきらいがあるし、国の大きさに比較して人口が増えすぎてしまったので、フィンランドのまねが出来るかというとちょっと微妙なところではある。

言葉はかなり難しいようなので、習得は出来ないだろうとは思うが、それでも一度は訪れてみたい国の一つだ。

黒野伸一: 坂本ミキ、14歳。



主人公は中学2年の女子。両親に子供4人、そしておばあちゃんの7人という今時にしては大家族の坂本家。しかし父親はニート、長姉は学生ながら彼氏の家に入り浸って帰ってこない、次姉は精神的にちょっと病んでいる、そして弟はいじめに遭っているというやっかいな家庭環境で一人冷静に物事を判断し、中学生のくせにかなり浮世離れしている主人公。そんな主人公も女子中学生なだけ会って多感な周りのクラスメートに振り回されながらも、たくましく生きている。

いじめとか、若く多感な時期に自分を見失ってしまう様子とか、それを処理しきれない周りの大人への思いなど、こういう中学生に特有の不安定な感情をうまく描写していてかなり感情移入できた。こうしたテーマは重くなりがちだが、なかなかどうして明るい漢字で書かれているのも好感が持てる。文体も読みやすかったのですらすら読めた。

軽い感じではあったけど、なかなか面白かった。

芦原一郎: ビジネスマンのための法務力



だいぶ前に買っておきながら積ん読になっていた本。

タイトルそのまま、ビジネスマンとして身につけておくべき法務的なセンスについて書かれた本。ビジネスにおいては、何気なく取引をしていても常に契約不履行とか法令違反といった法務的な問題に突き当たるリスクがあるわけで、それを正しく認識し、万一の事態に備えておくために必要なスキルを身につけるためにはどうしたらいいか、というような内容が書かれている。

筆者の考える法務力とは、
- リスクがあることに気づく「センサー能力」
- リスクに気づいた後に何らかの対応をとる「コントロール能力」
の2種類があり、それぞれについて例題を出しながらどういう考え方をすればいいかというレクチャーをしてくれている。

「センサー能力」「コントロール能力」という考え方は非常に明快でわかりやすい。法的リスクに備えるには、何も六法全書を暗記していればいいと言うわけではなく、やはりまずビジネスをきっちりと理解し、リスクをいかに最小限に抑えるかという観点で対策を打つことが必要なわけで、その意味で企業の法務部門に任せきりではなくてビジネスを行う担当者レベルで対策を取ることが非常に有効であるという点は納得できる。

いろんなリスクを取り上げたかったからだと思うが、例題にちょっと無理がある点が多々あったのが残念。読んでいて途中でサンプルケースに興味を持てなくなってしまった分、自分の中での理解もあまり深まらなかったように思う。

ただ、今までたとえば会社の法務部門とやりとりしたことがないような人は、今後のために入門の意味で読んでおいて損はないだろう。

石田衣良: 40 翼ふたたび



IWGP 以外の石田衣良を読むのは久しぶりだな。最近の石田さんは甘ったるかったり無駄なエロティシズムに走りすぎたりとあんまり好きではなかったんだけど、この作品はなかなか面白かった。

広告代理店を辞めて独立した40男が、事業の足しになればと思って始めた「なんでもプロデュース」に運び込まれる様々な依頼を解決していくというストーリーなんだけど、まあ端的に言うと IWGP のおっさん版という感じ。ただやはり IWGP と違うのは、登場人物が軒並みアラフォーと言うことで、IWGP のような若くてみずみずしい姿の代わりに、リストラとか、銀行での出世戦争とか、はたまた癌で余命幾ばくもない男の話とか、どちらかというと暗い話題が多かったように思う。しかし、そんな暗い状況にも負けずに何とか少しでも頑張って欲しいという筆者の思いは伝わってきたし、この本で勇気づけられる人もいるんじゃないだろうかと思う。

相変わらずちょっと甘いと思うところもあるが、まあこれはこれで楽しめたしよかった。やはり石田衣良はこういう作品の方があっているのでは。

安部芳裕: 金融のしくみは全部ロスチャイルドが作った



18世紀に巨額の富を築いたのがロスチャイルド家。現代にはびこる市場原理主義による社会の歪みを、彼らが考案した金融のシステムに根本原因があるとしてそのからくりを説くとともに、それを支え続けた一派の陰謀という切り口で糾弾している本。

まあ、何というか、この本をまともに鵜呑みにすれば非常に空恐ろしいことが起こっていると言わざるを得ない。が、読めば読むほど筆者の誇大妄想なんじゃないかという気がしてきてしまう。怪しげな文献を根拠に陰謀説を唱えたり、非常に細い線をたどってたどってようやくたどり着くような関係を見て「ロスチャイルドの息がかかっている」と指摘したりと、まともに信じるには論拠が薄いところがいくつかある。特にケネディの演説のくだりなんかは、読みようによってはどうとでも取れる内容を、彼の主張にとって都合のいいように解説していて、本当にこの本を信じていいの?というような気になってしまう。

とはいえ、資本主義が基本的に強者が弱者から搾取することによって成り立っているという主張については同意出来るし、そこから抜け出すための施策の一部については納得できる。むしろ、それが言いたいがために、半ば強引におどろおどろしい陰謀説のようなセンセーショナルな話題を取り上げたのかも知れない。そのためには今の金融の仕組みに頼らずに自分の身を守る方法についても考えておかなければならないだろうなぁ、とは思う。

それなりに読み応えはある内容だが、読んでると暗い気持ちにもなるので、あんまりおすすめは出来ないかな。

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