ダン・ブラウン: 天使と悪魔



最近映画も公開されたこの作品だが、あえて原作の方を読んでみた。

めまぐるしく変わる場面展開。派手な仕掛けもありながら実は知的で緻密なトリック。そしてどんでん返しに次ぐどんでん返し。まさにハリウッド映画を地でいくようなスペクタクル。

エンタテインメントとしての演出も非常に秀逸なのに、ヴァチカンに関する記述とか芸術作品に関する描写など、非常に勉強になる部分もあったし、非常に興味のそそられるストーリー展開なので、訳本ではあるけどかなりいいペースで読めた。

殺人が起こる場面ではちょっとグロテスクすぎる感じもしないでもないが、まあ許容範囲かな。

映画ではおそらく実際の美術作品とか舞台となった建物なんかも出てくるだろうし、本とは違った意味で楽しめそうな気もするので、本を読んだ後でも映画を見たいなぁという気になった。

ダ・ヴィンチ・コードもそのうち読んでみたい。

柳井正: 一勝九敗



ファーストリテイリング (ユニクロ) の会長である柳井さんが、父親の始めた小郡商事を継いでからはじめたユニクロを、ここまで大きな一大ブランドにまで育て上げた経緯や、柳井さんの経営哲学などについて記した本。

ユニクロが、まさにカジュアル衣料品に革命を起こした存在であるというところは誰もが認めるところだろう。特に、ユニクロというと中国で安く生産したものを輸入してきて非常に安い価格帯で販売しているにもかかわらず、そこそこの良い製品を提供し続けることが出来ているという点で他を圧倒していると思う。一時期「ユニバレ」なんて言葉が流行ったこともあったように、どちらかというと最大公約数的なデザインと商品展開が多いように思うが、それでも、ともすると安かろう悪かろうに陥りがちな大衆向けカジュアル洋品業界において、これだけの品質と魅力を維持しているというのは驚異的ですらある。

こうした背景には、やはり柳井さんの考える会社という組織の運営の仕方が強く影響しているだろう。ファーストリテイリングでは、働く個々人の能力を最大限活用することを最重要視している。ひとりひとりが責任を持ち、自分の持つ力を最大限発揮し、そしてしっかりと意見をぶつけ合いながら出来るだけ短い時間で課題を解決していくという企業文化ができあがっているようだ。そして、組織が硬直化しないように常に気を配っているからこそ、売れる商品をタイムリーに展開することも出来るし、これだけの急成長にも耐えられてきたんだろうと思う。特に「経営陣の手足としか働けないような人はいらない」というのは旧態依然とした日本企業にはない考え方だろう。手足としてしか働けない人は、その人が押し出されて経営陣に昇進したとしても手足としての発想しか出来ず、経営に行き詰まっていくだろうというのは自分も共感できるし、自分の頭で考えて実行に移せる力というのは自分もどんどん磨いていかなければいけないスキルだと思っている。

この本は2003年ぐらいに書かれた本なので、失敗に終わった野菜事業についてはあまり書かれていないけど、柳井さんのことだから、失敗した原因なんかについては十分に分析していて、今後の活動に大いに活かしていることだろう。

この前読んだドトールの鳥羽さんと共通しているのは、自分には特別な才能はなくて、自分より優秀な人に支えてもらっているからこそ会社が成り立っているんだという点と、組織の人間が自活できてこそ初めて会社が成長できるということを強調している点。裸一貫から始めた鳥羽さんと、親の家業を継いだ柳井さんという、生い立ちに関していえば全く正反対ともいうべき2人の経営哲学にこれだけ類似している点があるというのも、何とも興味深いところ。

ちょっととりとめのない感じもするけど、読み物としては大変面白かった。

鳥羽博道: ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記



ドトールコーヒーの創業者である鳥羽博道氏が、氏の半生と、ドトールコーヒーという企業の沿革に触れながら、氏がどういう考え方を持ってビジネスに取り組んできたかということを記した本。

自分では「誰にでもできることしかしていない」と謙遜しているけど、氏の歩んだ道のりというのは凡人には真似できないだろう。高校を中退し、まさに裸一貫で始めた社会人生活。そして高い志の元に若くして創業したものの、幾度も危機を迎えつつも徐々に成功していく過程というのは、やはり氏のハングリー精神とかあきらめずに続けていく力がなした業といえよう。

氏が一貫して主張しているのは、仕事には本当に情熱を持って取り組まなければ成功はあり得ないということ。強い信念を持っていればこそ、困難な状況に陥っても頑張れる訳で、そうした自分が生涯をかけて打ち込んでいけるような理念がないとだめなんだろう。

理念と実際は別ということもあるだろうし、氏がこの本に書かれていることを完璧に実行していたわけでもないだろうとは思うが、それでも考え方は非常に参考になる。

個人的にもドトールは好きなお店の1つなのだが、それがこうやって出来たのか、ということを知るだけでも大変面白かった。


品川ヒロシ: ドロップ



いわずとしれたこの作品。いまさら感はあるけど、文庫版が出ていたので呼んでみた。

不良中学生のヒロシが仲間とつるんで悪さや喧嘩ばかりに明け暮れていた毎日の話。これ、舞台が狛江・調布なんだね。行ってた中学の名前とか喧嘩相手の中学の名前なんかは変えてあるし、必ずしも実話ではないので勝手な想像をすると怒られそうだけど、モデルがどこかってのは何となくわかってしまう。。。

一見すると品川の自伝的にも思えるけど、実は品川自身は不良でも何でもなかったらしい (出典: Wikipedia)。なので、この主人公はあくまで信濃川ヒロシという架空の人物ということか。。。

友情みたいなものをちょっときれいに書きすぎている嫌いはあるが、当時の不良の様子をリアルに描いていると思うし、アウトロー的な作品としては悪くないと思う。

基本的に起こったことをだらだら書いているだけなので、思い起こしてみると中盤まではちょっとだるかったようにも思うが、すらすら読める感じなので、読んでる途中ではその点はあまり気にならなかったかな。むしろ、最後の急展開が急すぎてちょっとびっくりだし、終わり方もちょっと唐突かなぁというのが残念なところ。

これはこれでなかなか面白かったが、芸人本としては、劇団ひとりの方が上かなぁ、、、。

ポール・クルーグマン: 良い経済学 悪い経済学



著者のクルーグマンは国際経済学者で、ともすると国際的競争力を保つために保護主義に走りそうになっていた90年代前半のアメリカの政治において、確固たる経済理論を用いてその危険さを説き、そうした活動が認められて2008年にノーベル経済学賞も受賞している。この本はその当時に発表された氏の文書や講演を1つの本にまとめたものであり、1998年に出版されたものが昨年文庫で再発売されたものとなっている。

クルーグマンの主張は首尾一貫している。当時アメリカではびこっていた考え方は、アジア各国をはじめとする発展途上国へ資本が移動し、それに伴って特に製造業の雇用が深刻な打撃を受けているとした上で、国内の雇用を守るためには途上国からの輸入に制限をかけて自国を保護すべきであるという考え方である。が、この考え方のよりどころとして当時もてはやされていたバックグラウンドは、クルーグマンに言わせれば経済学の初歩の理論を使うだけでただちに間違いだとわかるような代物であるし、また輸入超過が国民の生活水準に与える影響は、国内総生産との比率を考えてみてもきわめて限定的であるので、大騒ぎするようなものではないとしている。

特に、1950年代に驚異的な経済成長を見せた東欧諸国と、1990年代にやはり急激な成長を遂げたアジアの状況を比較し、構造的には実はほとんど同じであるとした論調には、アジアの成長が止まってきている2009年に改めて振り返ってみても当たっていると思うし、当時の潮流に抗ってこうした主張を繰り広げていたクルーグマンはすごいと思う。

よくよく考えてみると、収入とは経済活動を通して得られる付加価値に対する対価であり、この構造は今も昔も変わらない。付加価値とはすなわち自分にはできない何かを他者が成し遂げてくれることに対する対価であり、その意味で貿易はお互いに足りないものを補う意味で双方にとって利益を生む行為である。その貿易を国策によって制限するということは、すなわち付加価値を提供する相手が限定されることに他ならない。その意味で、保護主義的政策が国内の不況への対策にはならないだろうというのは直感的にもわかりやすい。

しかし経済学についてほとんど知識のない自分が読むにはかなりつらい本だった。。。クルーグマンも言っているとおり、経済について語るのであれば最低限基礎の経済学ぐらいは理解していないと、思わぬ方向にいってしまうということなんだろう。正直今の自分が読むにはあまりにレベルが高くて、クルーグマンの説いている主張の本質までは全く理解できていないだろうと思われる。やっぱりちゃんと勉強しないとだめだな。。。

最近経済学には非常に興味が出てきているだけに、今度はもうちょっと基本的なところから理解できるような本にトライしてみたい。

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