久米信行: 「認められる!」技術



何となくポジティブになれるような自己啓発本を読みたい気分になり、買ってみた。

「認められたい」という欲望は誰にでもあるものだが、得てして「目立つ人ばかりが認められる」みたいに悲観してしまいがちなもの。目立つ人には生まれつき備わった能力みたいなものがあると思うが、そうじゃない人でも自分の心がけ次第で尊敬する人から認められるようになる、という話が書いてある。要はその人次第と言うこと。

おそらく学生とか社会人1年生をターゲットとして書かれているんだろうと思う。その意味では自分でも既にある程度実践できていることが多かったし、出来ていない部分はもうちょっとがんばらないとという風に気づけたので、これはこれで無駄ではなかった。

ただ、新入社員の方々に言いたいのは、この人の真似だけしても、きっとうまくいかないだろうということ。作者の久米さんはかなりアクの強い人のよう感じなので、真っ白な新人がこの人の真似をしても途中で嫌気がさしちゃうと思う。やっぱり自分にあったやり方を身につける方が大事だと思う。

瀬尾まいこ: 強運の持ち主



久しぶりの瀬尾まいこ。今回の作品は、サラリーマンを早々にやめて占い師としての才能を発揮しだした女性が主人公。

占いというのは、占星術あり手相ありと手段は様々だけど、結局のところ悩める相談者の抱える問題を理解し、それを占い結果と結びつけてポジティブな方向に転がすことが本質であり、占い師のそういう割り切った姿をいきなり初めの方で見せられるというのが何とも瀬尾さんらしい。とても現実的なんだけどどこかほのぼのとしていて、しかもユーモアにあふれているところはほかの作品とも通じるし、なかなかよかった。

以前の作品と比べると重さはないけれど、その分読みやすくもあり、また親近感も覚えたので、非常に面白かった。

また瀬尾さんの作品を読みたいなぁ。

藤巻健史: 100年に1度のチャンスを掴め!



かつてモルガン銀行東京支店長をもつとめた藤巻さんが、現在のサブプライムローン問題に端を発する金融危機の「その後」について独自の見方を綴った本。

この1年で世界各国の景気が悪くなったのは今更議論の余地はないだろう。特にサブプライム問題の本場 (?) アメリカでは、リーマンは破綻、あの GM ですら立ち行かなくなってしまったというニュースを見ると、今回の危機がいかに大きかったのかをいうことを感じざるを得ない。

アメリカでは急激な勢いで再生のための政策が打ち立てられ、それなりの効果が出てきているようだが、日本では残念ながら効果的な政策が出されていない。そればかりか、赤字国債を連発するばかりで財政を真剣に立て直そうという気すら感じられない。氏がこの本で主張するように、借金の棒引きの手段として急激なインフレが日本を襲うというシナリオは避けられないように思うし、そのために自分も何らかの対策は打っておかなければならないと痛切に感じた。

ただ、景気が回復するための政策として、資産価値を回復させる政策が有効であるとする論理には賛成しかねる。確かに今麻生内閣がせっせと行っている消費刺激策が有効でないというのには賛同するが、資産価値が上がることによって日本経済を浮上させるだけの効果が得られるとは到底思えない。もちろん、資産価値が継続的に上がれば海外から資金が流入してきて国としての経常収支が一時的に上向くのは間違いない。しかし、屋台骨である実体経済が立ち直らない限り、日本という国が元気になるはずはない。藤巻さんは日本は物作りの国から投資立国にシフトしろという主張をしているようだが、そんなことが果たして出来るのか。今ですら金融資産の形成が苦手な日本人が、そんな世界に果たしてついて行けるのか。その世界で生き残るには金融商品で他の国にはない差別化要因を打ち出して付加価値をつける以外にすべはないが、それは現実的だろうか。大事なのは、金融で生き残っていくと言うことではなく、日本人が得意とする分野で他の国には出来ない「何か」を売り出していくというところにあり、こうした分野を創造することこそ、今のこの時期の政策としてもっとも期待されるところだろうと自分は思う。

景気の予測というのは、誤解を恐れずに言えば競馬の予想と何ら変わりないと思っている。その意味で、専門家である藤巻さんの意見も、1つの可能性として頭に入れておく程度の理解で良いのかも知れない。

奥田英朗: ガール



奥田英朗の短編集。

5本の作品が収録されているが、主人公はいずれも30代の働く女性。同じ年代の女性とはいえ、周囲の環境も違えば与えられた境遇も大きく違うが、女性というだけで苦労することが多いというのは共通したテーマ。そんな苦労の姿をリアルに描いた作品に仕上がっている。

中でも最初の「ヒロ君」はかなり強烈だった。過程では旦那よりも稼ぎが多いという悩みを持ちながら、会社では男尊女卑きわまりない年上の部下を持つようになったという苦労を抱えるというのは本当に大変だろう。こうしたシチュエーションは古典的な日本企業では十分にあり得るだろうし、読んでいるだけで胸が痛くなる。でもそんなダブルに悩ましい状況を乗り越えていく姿を見るとちょっとだけすかっとした気分になった。

ほかの作品もそれぞれ印象的で、大変面白かった。まえまえから読みたいと思っていた作品ではあるが、予想よりも良かったと思う。

中村俊輔: 察知力



サッカー日本代表の中村俊輔が昨年出した本。

中村俊輔というと、どちらかというと物静かな感じだし、テレビなどで報道されている「あまりほかの選手と遊んだりしない」的なイメージが先行していて、自分の中では孤高の天才というふうに捕らえていた。

しかし、彼が中学時代に味わった挫折がこうしたストイックなまでの自分に対する追い込みを課しているきっかけとなったというのを読んで、ちょっと彼に対する見方が変わった。

小さい頃からサッカーの天才の名を欲しいままにしていた彼が、個人プレーに走りすぎるあまりチームから外され、あげくユース行きも断念して入った高校では当然のように球拾い。ユースと比べて天と地とも差があるような境遇に陥って初めて、サッカーでは周りとあわせることが非常に重要であると気づき、そして彼のいう「察知力」を高めていくことが大事だという信念を持つに至ったというのは大変興味深い。

監督が自分に求めていること、チームが自分に求めていること、そしてチームメイトがどうしたいのか、というようなことを一生懸命考え、それに経験を加えていくことで人より一歩でも先に動く。こうしたたゆまぬ努力こそが彼をトップ選手にさせているゆえんでもあろう。

「壁は多ければ多いほど欠点に気づけて良い」なんて、なかなかいえることではないし、それを実践するのは並大抵ではない。それでも自分を高めていくためには困難な状況すらも前向きに捉える考え方が重要であるというのを俊輔に教わった気がする。

また、代表で当時中田英寿とポジションがかぶったりして、トルシエからは冷遇されていた頃、よく中田と比べられたようだが、そうした場合にも「人と比べても仕方ない。自分は自分の出来ることを精一杯やるだけ」という思いで冷静に対処したというのもなかなかすごいと思う。このあたりは以前読んだ松井秀喜の「不動心」とも通じるところがあるように思う。

自分は恥ずかしながらサッカーについてはあまり詳しくないにも関わらず、彼のいっていることは十分に理解できてとてもためになった。サッカーが好きな人だったらもっと面白く読めるかも知れない。

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