
ファーストリテイリング (ユニクロ) の会長である柳井さんが、父親の始めた小郡商事を継いでからはじめたユニクロを、ここまで大きな一大ブランドにまで育て上げた経緯や、柳井さんの経営哲学などについて記した本。
ユニクロが、まさにカジュアル衣料品に革命を起こした存在であるというところは誰もが認めるところだろう。特に、ユニクロというと中国で安く生産したものを輸入してきて非常に安い価格帯で販売しているにもかかわらず、そこそこの良い製品を提供し続けることが出来ているという点で他を圧倒していると思う。一時期「ユニバレ」なんて言葉が流行ったこともあったように、どちらかというと最大公約数的なデザインと商品展開が多いように思うが、それでも、ともすると安かろう悪かろうに陥りがちな大衆向けカジュアル洋品業界において、これだけの品質と魅力を維持しているというのは驚異的ですらある。
こうした背景には、やはり柳井さんの考える会社という組織の運営の仕方が強く影響しているだろう。ファーストリテイリングでは、働く個々人の能力を最大限活用することを最重要視している。ひとりひとりが責任を持ち、自分の持つ力を最大限発揮し、そしてしっかりと意見をぶつけ合いながら出来るだけ短い時間で課題を解決していくという企業文化ができあがっているようだ。そして、組織が硬直化しないように常に気を配っているからこそ、売れる商品をタイムリーに展開することも出来るし、これだけの急成長にも耐えられてきたんだろうと思う。特に「経営陣の手足としか働けないような人はいらない」というのは旧態依然とした日本企業にはない考え方だろう。手足としてしか働けない人は、その人が押し出されて経営陣に昇進したとしても手足としての発想しか出来ず、経営に行き詰まっていくだろうというのは自分も共感できるし、自分の頭で考えて実行に移せる力というのは自分もどんどん磨いていかなければいけないスキルだと思っている。
この本は2003年ぐらいに書かれた本なので、失敗に終わった野菜事業についてはあまり書かれていないけど、柳井さんのことだから、失敗した原因なんかについては十分に分析していて、今後の活動に大いに活かしていることだろう。
この前読んだドトールの鳥羽さんと共通しているのは、自分には特別な才能はなくて、自分より優秀な人に支えてもらっているからこそ会社が成り立っているんだという点と、組織の人間が自活できてこそ初めて会社が成長できるということを強調している点。裸一貫から始めた鳥羽さんと、親の家業を継いだ柳井さんという、生い立ちに関していえば全く正反対ともいうべき2人の経営哲学にこれだけ類似している点があるというのも、何とも興味深いところ。
ちょっととりとめのない感じもするけど、読み物としては大変面白かった。