恩田陸: ユージニア



恩田陸のサスペンスもの。

地方都市で起こった凄惨な一家毒殺事件。その真相や犯人の考えていたことを突き詰めようとする人々の話。

ある章は第三者が当事者にインタビューするスタイル、またある章はごく普通の推理小説のように刑事の視点で事件を追うスタイル、そして別の章ではメモ書きや資料の寄せ集めのようなスタイルと、章ごとに描写のスタイルが違うというのがなかなか斬新でよい。

犯人といわれる人間が必ずしも犯人ではなく、それでいて裏で糸を引いていたと思われる人間が必ずしも黒幕ではないという点が興味深い。事件というのは決して一つの視点からだけでは説明が出来ず、常に多面性があり、普遍的な真実というのはどこにも存在しないんだというメッセージを含んだ作品であるように思えた。章ごとに変わるスタイルも、こうした混沌を表現する道具としてうまく機能していたと思う。

あんまりすっきりとした終わり方ではない (満貴子の気持ちが結局理解できなかった) けれど、緋沙子を追いつめようとする勢力が表情豊かに表現されているので、全体的にはなかなか楽しめたかな。

# しかし恩田さんの本はこういうすっきりしない終わり方が多いなぁ。

群ようこ: かもめ食堂



群ようこの小説は今まで読んだことがなかったが、この作品は映画化されたこともあって気になっていた。それがこの度文庫化されたので手にしてみた。

とにかく登場人物がみんな味があってよい。主人公のサチエの生き方もすごいと思うが、ミドリとかマサコとか、ヘルシンキまでやってきてしまうってのもすごいよなぁと思う。そうした「世間ずれ」した感覚が不快かというとそうではなく、むしろほほえましくすら思えてくるのは、やっぱりサチエの一生懸命さと群さんのソフトな語り口が影響しているんだろう。

思った以上に面白かった。3人+トンミ+近所のおばちゃん達の今後もとても気になるところ。

ちなみに、本を読み終わった後に改めて映画版のキャスティングを調べてみたんだけど、サチエは小林聡美だったんだね。これは小説のイメージともぴったりで、まさに適役。ミドリの片桐はいりとか、マサコのもたいまさこもイメージにあっていてよい。ま、この映画のために書き下ろしたようなので、もしかしたら既にキャストがあって小説を書いたのかも知れないけどね、、、。

武田邦彦: 偽善エコロジー



世間ではエコブームであるが、いわゆる環境によいとされる行動が必ずしも環境によいわけではないということを、著者が独自に調べたデータを元に解説した本。タイトルからしてちょっとひねくれていて、自分の考えと相容れないだろうとは思ったが、いろんな角度から見るのも重要だと思い、読んでみた。

読んでみると、確かに我々が環境のためと思ってやっていることが必ずしも効果を生んでいないというのはよく分かった。たとえば家電やペットボトルのリサイクルとかも、法律で義務づけられているのは「回収」であって「再利用」ではないという点はこれまで気づかなかった部分だ。その結果、せっかく回収された資源が海外へ流出しているという事実もあるし、またたとえ資源化されたとしても不純物の影響で資材としての質が落ちたり、再資源化の過程で有害物質が多量に出てくる可能性もあるのもやはり事実だろう。また、CO2 削減に躍起になっているのは日本だけで、他の国に追随する気が全くないことを日本だけ頑張っても、結果として地球上の CO2 濃度が下がることはないだろう、というのもまあ分からなくはない。

ただ、だからといって「今やっていることは全部無駄だからやるのをやめなさい」というのはあまりにも乱暴な言い方だと思う。リサイクルがちゃんとできていないのであればそちらを正すのが筋であって、拗ねて反抗しているだけでは何も進まない。

それと、自分が一番相容れないと思うのが、エコに対する活動の意味。たとえば冷房の設定温度を上げるという活動に対して、これがCO2 削減という最終的な目標に対して貢献するかと言われると No であるのは確かだろう。もっと CO2 をたくさん排出している国が積極的に行動してくれないと、いくら日本が頑張っても焼け石に水だというのはよく分かる。しかしこの活動の目的が直接的に CO2 削減をすることなのではなくて、人々に CO2 を削減しなければという気持ちを植え付けることにあるんだとすれば、これは非常に重要な行動であるといえるだろう。本当に CO2 を削減しなければならないのであれば全世界的に行動しなければならないというのは分かるが、60億の人間を巻き込む行動が一朝一夕で実現できる訳はない。どんな活動もはじめは小さなところからはじまって徐々に拡大していくことで全体的なムーブメントにつながっていく訳で、いまみんなが取り組んでいる活動というのはそのための一歩にすぎない、と個人的には考えている。小さなことでも気をつけていく気持ちを常に持ち続けていなければ、より大きな範囲での活動を進めていこうという機運にはならないだろうから、冷房の設定温度自身が効果を生むものではなくても、こうした活動を続けていくことで世間の意識が上向いていくことを期待したいし、その気持ちをくじくような主張については賛成しかねる、というのが正直なところ。

データについては興味深いものもあるが、説明がかなり短絡的なので、データから導き出される結論についてはちょっと懐疑的な箇所がいくつかある。たとえば p.193 ではリサイクル開始前のペットボトル消費量が年間15万トンだったのに対し開始後は55万トンに増加しているため、リサイクルがペットボトルの消費を加速されたというような主張をしているが、開始前と開始後それぞれいつの時点のデータで比較しているのかが不明である。1年で4倍近くになったのであれば問題としてもいいかもしれないが、おそらくこれは何年もかけて達成された数値だろう。ペットボトル業者やリサイクル業者の悪徳を猛烈に批判しておきながら、説明を骨抜きにして議論を自分の有利な方向に持って行こうとするのは片手落ちだし、ちょっと卑怯な気すらしないでもない。

事実を認識することは非常に重要であるが、この問題に関しては感情論ではなく論理的に正しい結論を導き出す必要があるだろう。実際に結論を遂行するには感情に訴えかけることも必要だけど、それ以前のステージであるにもかかわらず著者の個人的感情が前に出すぎている感がするので、その意味でこの本の主張も話半分ぐらいに考えておいた方がいいのかな。

ま、でも環境問題を別の視点から眺めるという当初の目的は達成できたのでその点はよかった。

東野圭吾: 容疑者Xの献身



東野圭吾の直木賞受賞作。

ガリレオシリーズ3作目となるが、前作、前々作が短編集だったのに対してこちらは長編。つい勢いで前夫を殺してしまった女性 (靖子) を救おうとする隣人の数学教師の石神。靖子を最重要人物として捜査するも、石神の仕掛ける巧妙なカモフラージュに次第に行き詰まる警察。しかしこの事件に湯川が興味を持ったことから、やがて石神との論理バトルが繰り広げられ、最後には衝撃の結末が、という内容。

石神の仕掛ける内容の多彩さには目を見張るものがある。こうしたをトリックを次々と繰り出していく東野圭吾の発想力は改めてすごいと思う。最後のシーンも印象的だし、石神の純粋な気持ちというのがとてもきれいで美しい。作者が単なる偏愛ではないきれいさを描きたかったというのが伝わってくる、よい作品だった。

個人的に1点だけ残念なのは、物語の前半で根幹をなすトリックにちょっとだけ気づいてしまったこと。なので最後にネタ明かしをされた時に「ああ、やっぱり」と思ってしまったのはちょっと残念。それでも重要な部分 (あんまり書くとネタバレになっちゃうけど "ずらし" に関するところ) は最後の最後まで分からなかったし、こういうやり方もあるのか、と素直に感心した。

相変わらず読みやすいので、3時間ぐらいで読み切ることが出来た。


宮部みゆき: とり残されて



宮部みゆきの比較的初期の短編集。

この本では一貫して不思議な現象を扱っている。超常現象あり、SFあり、そして不思議な話と見せかけて実はトリックのある話など、バラエティに富んでいる。初期ながら、宮部みゆきの読みやすさは健在だし、それぞれをとても面白く読めた。特に最後の「たった一人」は、最も長い (100ページぐらい) というのもあるがとにかく内容が秀逸。盛り上がりもあるし、メッセージ性も高い。

宮部といえば、時代ものではよく不思議現象を扱ったりするが、現代物でもこういう作品を書いていたんだなぁ、とちょっと意外に思った。が、舞台が現代なだけで、宮部らしいタッチは相変わらずなので、すんなりと受け入れることが出来た。

これもなかなか面白かった。

# いつも書いているが、ほんとに宮部作品には外れらしい外れはないよなぁ。

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