池上彰: そうだったのか! 現代史



以前読んだ池上彰さんのニュース解説本「そうだったのか!現代史パート2」の第1作目。「パート2」の方を読んで大変ためになったし勉強になったので、パート1も読みたいなぁと思っていたのが、なにぶん旧作なのであまり置いている書店がなく、やっとのことで探し出した本。

パート2は現代史の中でも比較的近い時代の話が多く、どちらかというと冷戦以後のトピックが多かった気がするが、パート1はさすがに「現代史」と銘打っているだけあって第2次世界大戦後の主要トピックが網羅されている。取り上げられているニュースも長期にわたる経緯を説明せざるを得ないだけに、パート2よりは深く解説できていない気がするが、それでも戦後世界でどんなことが起こっていたのかを一気に理解することが出来るし、これも間違いなく良書だろう。

順番的にパート2から読んでしまったわけだけど、やっぱりまずはパート1を読んで基礎を作ってからパート2へ進んだ方がより理解度は増したのではないかなと思うので、そこだけがちょっと残念。ま、でもこの本をより深く理解するには何度も読み返した方がいいと思うので、またパート2も読み直してみたい。

しかしこうして改めて戦後を振り返ってみると、冷戦の落とした影がいかに大きいかと言うことを改めて実感させられる。アメリカとソ連という巨大な国同士が互いに牽制し合い、周辺諸国を巻き込んで引っかき回した挙げ句、自分たちの体力がなくなるとさっさと逃げてしまい、残された国では混迷の一途をたどるという構図がいかに多いことか。特にベトナム戦争でアメリカが取った戦略とか、カンボジアでポルポトがしてきたことなどを考えると、改めて日本の平和のありがたさが身に染みてくる。日本で自衛官が1人負傷しただけで大騒ぎしている一方で、たとえばベトナム戦争では5万人ものアメリカ兵が戦死している事実とか、カンボジアでは100万人もの民間人が惨殺されていたことを考えると、日本人はもっと世界で起きていることをしっかり認識し、そこから学ぶ姿勢をもたなければならないと思う。

それと、既に世界が見てきているように、こうして戦後60年を1冊でまとめて把握してみると、社会主義に対する限界というのが改めて浮き彫りになっていると思う。もともと社会主義というのは、資本主義における富裕層と労働層の格差をなくし、労働層による統治と分配による資本の画一化をはかるという理想のものに成り立っているわけだけど、これまでに存在した社会主義国家の例を見るとこれがあくまで理想論でしかないというのがよく分かる。本来社会主義では富裕層はなくなり社会全体の生産性も上がるはずなのだが、実際には競争がなくなって生産性が落ちて貧困が広がるだけでなく、社会に腐敗が広がり共産党幹部や権力者に富が集中するという事態に陥る。富裕層を弾圧して格差を解消した側が結局は私腹を肥やすようになるというのは何とも皮肉だ。為政者に理想があっても肝心の地方の担当者にまで理念が伝わらなかったり、時には為政者自身が理想を忘れて自分の好き勝手にやるということが頻繁に起こっている。いずれも社会主義化を性急に進めようとするあまり権力の一極集中が起こるというのが原因ではあるのだが、社会主義国家ではいずれこういうことが起こるというのは自明だし、その意味で理想論でなく practical に築き上げてきた資本主義というのは、完全ではないにしても次善的な意味で極めて優秀なイデオロギーだと言えるだろう。最近の不況の中で「格差」が生じることが悪であるかのような報道がなされることがあるが、競争の生まない社会がどのような道をたどるのかという点においては先例がたくさんあるわけだし、もっと歴史に学びつつ資本主義を受け入れた上で、より建設的な改善策が見いだす必要があるのではないかと思う。

パート1とパート2で現代史についてはかなりカバーされたとは思うが、今後も5年スパンぐらいでまとめ本を出して欲しいなぁ。

石持浅海: セリヌンティウスの舟



石持浅海を読むのはこれが2冊目。

ダイビングに出たものの海が大時化になり、辛うじて生き延びたダイバー6人。それまで特に深い知り合いではなかった6人が、この事件をきっかけにお互いを深く理解し合うようになる。そんな中、ダイビングに行った帰りに、メンバーの1人の家で飲み明かした6人。そのうちの1人が青酸カリで自殺することになるのだが、そこには少々不可解な点が、、、。しかしそれでもメンバーを信じ合い、そこに悪意のはいる余地がなかったことを信じ込もうとする5人。論理と論理が激しくぶつかり合った末に出た結論とは、、、。

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かなりきれい事ばっかり言っている上に登場人物がみんな論理的すぎる。お互いを信じ合えるからこその美しさを描きたかったというのはよく分かるんだけど、まるで現実味がない。そりゃ、これだけの経験をすればこういう状況に陥るのかも知れないけど、発想が突飛すぎて想像の域にすら入ってこない。絵に描いた餅というのはまさにこのことだろう。最後の結論に至る所はまあよかったが、そこに至るまでもまどろっこしすぎて読んでいてちょっと苦痛 (もっともこのまどろっこしさがなければそもそもこの作品は成立しない訳なんだけど)。

想像していた内容とも全然違ったし、かなり期待はずれ。がっかり。

瀬尾まいこ: 優しい音楽



瀬尾まいこ短編集。文庫本としては4冊目。

これまでの作品では、ほのぼのとした語り口で悲しく辛い物語を綴っていくというスタイルが多かった気がするが、この作品ではとげとげしいところがあまりなく、全体としてほんわかと雰囲気でまとまっている。

最近の作品になるにつけてちょっと現実から乖離しすぎているような気はしないでもないが、物語の展開は悪くないし、なにより瀬尾まいこ独特の語り口は相変わらず素晴らしい。

瀬尾ファンは読んでおくべきかも。

伊坂幸太郎: ラッシュライフ



久々の伊坂幸太郎。

初期の名作であり、これでブレイクしたと言っても過言ではない。

伊坂作品は、複数の物語が交互に描かれながら最終的に1つにつながっていくというパターンが多いけど、この作品では実に5つもの物語が互いに関連し合いながら進んでいく。しかも5つの物語の1つ1つのシーンすべてが別の話のどこかのシーンとつながっていて、どこか1つでも欠けてしまえば話が成立しなくなると言う極めて複雑で緻密な仕掛けが埋め込まれている。話が進んで徐々に関連が見えてくるときに得られる快感は、この作品ならではだろう。

特に金で何でも解決できると思っている画商の結末とか、自分を過信しているカウンセラーの行く末とか、またこれとは逆にすべてを見通してしまう高橋の存在とかを考えると、この作品で作者が言いたかったことというのは、背伸びしないで自分の出来ることを出来る範囲でやればいいじゃん、ということなのかも知れない。

非常に面白かった。

三浦しをん: 私が語りはじめた彼は



直木賞作家、三浦しをんさんの連作長編小説。

この本の主人公は大学教授の村川融だが、本人は一切出てこない。村川の弟子、妻、愛人、愛人の夫、愛人の娘、息子と、村川を取り巻く人間の視点から村川の人となりが描かれている。

率直に言って、村川は研究者としては有能かも知れないが人間としてはダメ人間。その純粋だが幼稚すぎる考え方が周りの人をどれだけ傷つけているのか全く理解できていないし、そのくせ自分の本能や直感には決して逆らわないというのは、ある意味ではうらやましいが、こうなってはいけないという見本でもあるように思う。

でも、一番の被害者は「水葬」の村川綾子だろう。もしかしたらこの物語で人として一番最低なのは、綾子の母親・太田晴美かも知れない。綾子もしかり、最後の話もしかり、とにかく疑心暗鬼にとらわれている姿はあまりも自分勝手で腹が立つ。

ま、しかし村川みたいな人、普通の人間の枠にはめちゃいけないんだろうなー。こういう浮世離れした人ってたまーにいるけど、下手に関わると (特に男女の関係として) 偉い目に遭うという感じかな。

なかなか面白かった。

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