池上彰: そうだったのか! 現代史パート2



元NHK記者で「週刊こどもニュース」のお父さん役でも有名な池上彰さんが、現代の重大ニュースについて、その背景も含めて解説した本。

扱っている事件は多岐にわたっている。どれもニュースでは耳にしたことがあるが、その背景までは理解して聞いていなかったように思う。この本を読んでみて、改めて自分は何も知らなかったんだなぁと思ったし、非常に興味深く読むことが出来た。何より、複雑に絡み合う問題を非常にシンプルかつわかりやすく解説しており、前提知識があまりなくても大枠が理解できるというのがよい。

特に強く思うのは、世界には悲惨な戦争や民族紛争によりまともな生活を送れない人というのがこれほどまでにたくさんいるのか、ということ。イスラエル、アフガン、イラク、チェチェン、ミャンマー、東ティモールと、いずれも似て非なる事情で人間が人間らしい暮らしを送ることが出来ない状況に措かれている。よく「日本人は平和ぼけしている」と言うけど、確かに我々はこうした国の人たちのことを考えて生活してるわけではないし、普段我々が困ったなぁと思うようなことは、これらの国々の抱える問題からするといかに小さい問題か、ということを考えてしまう。

それと、この本で取り上げられている困難な状況にある国のほとんどで言論の自由が抑制されているという点にも着目しなければならないだろう。日本では言論の自由、報道の自由がきちんと保証されているので、普段の生活では何とも思わないけれど、逆に世界ではいかにこれが貴重なものであるかということはこの本を読むと本当によく分かる。日本ではこうした国で起こっていることをある程度知ることが出来るわけで、それが抑止力となって我々の今の生活が保障されていると言うことにもっと感謝する必要があるだろう。

世界で起こっていることをきちんと理解し、自分の国の発展に役立てるという意味でも、もっと日本人は世界で起こっている問題について理解を深めてもいいのではなかろうか、と思う。

ぜひパート1も読みたいところ。

スティーブン・ロー: 北極の北には何がある? (中山元・訳)



かなり前に買ったまま「積ん読」になっていた本。

副題が「『考える脳』を作る哲学トレーニング19」となっているように、哲学について考える本。実はこの分野は自分の最も苦手とする分野で、センター試験でも大変な苦労を強いられた。が、いつまでも苦手のままじゃいかんよな、と一念発起してこの本を購入してはや2年。。。ようやく読む気になったという次第。

この本を読むまで、「哲学」と「論理学」と「倫理」の違いがいまいちよく分かっていなかった。読後の自分の理解では、
「哲学」とは、物理学では答えを出すことの出来ないあらゆる問題に対する答えを考える学問

「論理学」は命題が真であるか否かを、前提条件から文字通り論理的に判断するものである、哲学的な判断のためのツールとして用いられる

「倫理」は「哲学」と似ているが、哲学が普遍的な真実を追究するのに対して、倫理はその人の個人的・文化的・宗教的な背景から善悪を記したもの

という感じだろうか。倫理観というのは個人によって異なるが、哲学はそんな背景をも超越したフィールドで、正しいか正しくないかという答えを出すことを目的としている。

この本で扱っているテーマも多岐にわたっていて、たとえば

- 宇宙の始まりはどこなのか?
- 人間の「意識」って何を指すんだろう?
- 芸術とは何か?
- 知識とは何か?

等々、興味深いトピックを物語ベースでわかりやすく説明してくれている。しかも、読者に考えることを強いるので、より理解度が増すように工夫されている。

我々は普段、物理学的に正しいことは正しいと信じて生きているわけだけど、それは必ずしも普遍的に正しいことというわけではないという点は、常に心の片隅において生活するというのも重要なのかも。

難しかったけどなかなか面白かった。

絲山秋子: ニート



絲山秋子の短編集。以前読んだ「袋小路の男」がなかなか面白かったので読んでみた。

今回も、恋愛がうまくできない男女が主人公。どうしようもないダメ男の世話を何故か焼いてしまう女性、夫を亡くしたのに以上にサッパリとこれまでの生活を切り捨てて新しい生活を始めようとする女性、家庭生活がうまくいかずふとしたきっかけから遠距離恋愛を始めた男性、そして異常な性癖を持つ男に蹂躙されながらもそれを受け入れてしまう女性。読んでいるとどれもとても胸が締め付けられるような作品だったが、どの作品も、逃げたり突き放したりしたいのにそれが出来ないどうしようもない気持ちが克明に描写されている。

ただ、正直かなりきつかった。。。特に最後の「愛なんていらねー」は何度となく読むのをやめようと思ったほど。精神的に余裕がないときには読まない方がよろしいかと思います。。。

乾くるみ: クラリネット症候群



乾くるみの中編2作を収録した本。

前半の「マリオネット症候群」、後半の「クラリネット症候群」ともひじょーに下らない。。。思わず「しょーもな」とつぶやきたくなる箇所が随所にあるけど、そこは乾くるみ、衝撃の展開が次々と待ちかまえているので読んでいて飽きることがない。

驚き感では「マリオネット症候群」の方が強いが、「クラリネット症候群」もかなり凝っていて感心してしまう。

なかなか面白かった。

# 個人的には、とある人物の名前は絶対「るみ」だろうと思っていたのに、そうきたか、というのが印象的だった。あんまり書いちゃうとネタバレになっちゃうので省略するけど、症候群をうまく使ってだましたなぁ、という感じ。(しかも苦しいなんて。。。)

東国原英夫: 知事の世界



そのまんま東こと東国原英夫・宮崎県知事が知事としての1年を振り返り、自信の業績について述べた本。

東国原知事というと、何と言っても「宮崎県のセールスマン」として TV に登場する姿が印象的だけど、これ以外に県庁改革にもかなり力を入れているようで、だいぶ県職員の意識も変わってきているようだ。

東国原氏のいいと思うところは、知事自身が明確かつ確固たるビジョンを持っていて、しかも人を動かせるという点にあるんだろうと思う。会社という組織でも同じことが言えるが、トップたるもの、実務をこなす力よりも組織を動かす力の方が遥かに重要。これまでは「改革」というと強権的にトップダウンで指示だけ出して自分は高みの見物をしているようなやり方をするケースが目立っていたが、これでは肝心の職員が心から変革しようという気にならない。県庁にいるような職員はもともと頭も切れるしポテンシャルもあるんだから、それをうまく使うのがトップの役目だろう。

自信の業績なので若干手前味噌な感もないことはないが、それでも東京にいても宮崎の変革が伝わってくるんだから、地元の人はそれ以上に変化を感じていることだろう。その意味で、東国原氏はただのタレント知事・落下傘知事ではないというのは疑う余地のないところ。

ただ、財政面についてはちょっと支持できないところもある。宮崎にはお金がないとか交通インフラが弱いというのはよく理解できるが、それをリカバリーするために何が何でもお金を取ろうというの方向の主張は、他県の住民からすると賛成できない。国レベルで見ても歳出を削減していくことは至上命題なだけに、宮崎のためだけに手段を選ばないという感じに取れなくもない氏の主張には矛盾があるような気もする。

ま、でもこうして地方として主張するところはきちんと主張しておくという姿勢もありだとは思うし、各自治体間での調整のベースラインとしては有効なのかな。


政治家たるもの、東国原氏ぐらいの熱い気持ちを持って仕事に取り組んで欲しい。

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