伊坂幸太郎: 魔王



久々に衝撃を受ける作品に出会った。

どうにも今の日本人は自分の頭で考えずに、「会社が悪い」「国が悪い」「社会が悪い」と人のせいにして逃げていることが多いのではないかという気がしていて、そのことが日本を停滞させている最も大きな要因になっているんじゃないかと思うことが多いのだけど、さらに先の未来を考えた場合にそれが余計に顕著になってくるものと危惧している。とはいうものの、具体的にどうなることを危惧しているかと言われるとうまく表現できないもどかしさがあったのだが、この作品で描かれている世界が一つの形であると気づいたときには空恐ろしくなった。

文庫版後書きで作者が「ファシズムとか憲法改正とかがテーマではない」とコメントしているけど、それでも1つの可能性としてこういう世界を描こうという明確な意志があったことは確かだし、逆に反響が大きすぎて敢えて calm down させる意図でこのコメントを書いたような気すらしている。

とにかく、安藤の口癖である「考えろ考えろ」が作者からのメッセージなんだと思うし、自分の頭で考えずに人にどこかに連れて行ってもらえればいいという姿勢では、どこに連れて行かれるか分からないよ、ということなんだろう。

ファシズムの話とかを抜きにして、純粋にファンタジックなフィクションとしてもとても秀逸。

とにかくびっくり。

扱っているテーマがテーマなので好き嫌いはかなり分かれると思うが、絶対に一読する価値はあると思う。

# といいつつ、自分も伊坂幸太郎に流されている気もするなぁ、、、。

さくらももこ: さくらえび



さくらももこのエッセイ集。2000年から2002年ぐらいにかけて発行されていた「富士山」という雑誌からの選りすぐり。

さくらももこは本当に下らないことを下らなく書く (もちろんイイ意味でね) のがうまいよなぁ、と思う。どのエッセイを見ても、何でもないようなことを独自の視点と独自の言い回しでおもしろおかしく表現している。ちびまるこちゃんの台詞もかなり独特ではあるが、普段からこういう言い回しで物事を考えてるんだろうな、というのがエッセイを読むとよく分かる。

総じて面白かったのだが、子育てに関するところはちょっといただけないかな。さくらももこ、我が子に甘すぎ。コンビニで欲しがったお菓子はすぐに買い与えたり、何かにつけて保育園をお休みさせたり、子供のわがままに負けている姿ばかりが目立ってちょっと気になる。まあ、人の家の躾のことに口を出すのもどうかとは思うけど (しかも子供もいない人間に言われたくないとも思うが)。

まあでも、さくらももこの本は気合いを入れずに読めるので、ちょっと疲れたときなんかにはちょうどいいと思う。

東野圭吾: 嘘をもうひとつだけ



東野圭吾としては珍しい短編集。ただ、ガリレオシリーズと同じく、こちらも連作という形になっている。この本での主人公は練馬署の刑事である加賀。

すべての作品で、読み始めるとすぐに犯人が分かる構成になっているのだが、あえて犯人をほのめかしつつ加賀がそれを追いつめていくという展開はなかなか面白い。倒錯型かつ一対一の対決という意味では、古畑任三郎にも近いような気がする。どの犯人もそんなに緻密でないという点も似てるかな。

トリック自体はあまり緻密でないものが多いが、加賀がいかにして疑念を持つようになり、証拠となるべきものを1つ1つ地道につぶしていっているかという点が非常に精巧に書かれている。

非常に面白かった。

五十嵐貴久: Fake



しがない探偵・宮本のもとに訪れたカンニングによって息子を大学に受からせて欲しいという男。その要望に応えるべく実行に移すもののあえなく失敗。が、実はこれが罠であることが分かり、今度はポーカーゲームでいかさまを仕掛けて一泡吹かせようとする、というストーリー。

前半のカンニングを仕掛けるあたりはテンポもよく、仕掛けも巧妙でかなり面白かった。それと、ラストのどんでん返しはかなり強烈。途中から加奈や昌史の動きがあまり見えなくなったので何かあるんだろうとは思っていたが、ここまで大きな仕掛けは想定していなかった。これだけでも読む価値は十分にあるかも。

逆にポーカーの仕掛けのあたりになるとちょっと現実味がない上に、だらだらとした感じもしてちょっと残念。あと、最後の色恋沙汰は特にいらなかったような気もしないでもない。

ま、でも非常によく練られた作品で、完成度はかなり高い。映画にしたら面白いんじゃないだろうかと思う。

海堂尊: ナイチンゲールの沈黙



「このミス」大賞を取った「チームバチスタの栄光」の続編。

前回は (ある意味故意の) 医療過誤というテーマであったが、今回は小児医療と殺人事件がテーマ。

お医者さんが書いているだけあって、実際の医療の現場の描写がとても細かい。自分は全く門外漢なので何とも言えないけど、やっぱり医療現場ならではの雰囲気がうまく描かれているような気がする。

が、、、。正直言って今回の作品はほとんどいいところがなかった。

だいたい出てくる現象はどれもこれもオカルト過ぎる。「ロジカルモンスター」なんていう人物が出てくる一方で核心の部分でオカルトに頼るようでは、そもそも物語として成り立っていないのではないか。しかもその白鳥が登場してからは話がひっちゃかめっちゃかで全く持ってついて行けない。真面目な医療問題を扱いたいのか、サスペンスがやりたいのか、ただのドタバタコメディーが書きたいのか、芯がぶれすぎていてかなり疲れる。

「チームバチスタ」はそれなりに面白かったが、やはり二匹目のどじょうとはいかなかったようだ。第3弾もあるみたいだけど、たぶん読まないだろう。


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