A. Cohen and D. Bradford: 影響力の法則



上司に読めと薦められて読んだ本。

影響力とは、自分のして欲しいことを相手にしてもらうために発揮すべき力のこと。一般的に仕事について言うと、上司と部下のような権力差のある関係では上から下へものを頼むのは頼みやすいが、現実には部門横断的に仕事を頼まないとならないケースや、部下から上司へお願い事をするケースも多々ある。そういう場合にどういうやり方で頼めば相手は動いてくれるか、という点についてノウハウをまとめた本。

影響力の基本は、なんと言っても Give and Take の考え方である。つまり、相手が欲しいものをこちらから提示して上げることによって、自分の欲しいものを引き出すというのがベースにあるということ。一見すると相手が欲しがっているものを自分がいつもいつも持っているわけではないとも思えてしまうが、多くの場合「相手はこれが欲しいに違いない」という際には考える側の主観が入るわけで、必ずしも相手の立場に立って考えていないことも多いと著者は主張している。ちょっと見方を変えれば実は相手の欲しいものが意外と提供できるかも知れないし、その「見方の変え方」みたいなもののテクニックが数多く収録されている。

「常日頃から相手と良い関係を築いておきなさい」とか、非常に日本的とも思える主張が随所に出てくるのにはちょっと驚いた。アメリカでもこういうやり方が必要となるんだというのは新しい発見だった。

仕事をしていると、「あの部署が動いてくれないから…」とか「この人がもっとこうしてくれたらいいのに」と思うことは非常に多いが、そうした場合にでも自分の努力次第で何とかなるというのはある意味勇気をもらったような気がする。今後仕事を進めていく上でも参考にしたいと思う。(とはいえ実践するのはなかなか難しいが。。。)

池上彰: そうだったのか! 日本現代史



池上さんによる現代史シリーズ第3弾。これまでの2作では第2次大戦後に世界で起こった重大ニュースをとりあげていたが、今回は日本の現代史に特化した解説となっている。

戦後60年。この間に日本人の生活様式は大きく変わったように思えるが、根本に流れるものは実はあまり変わっていないんじゃないか、と言うのがこの本を読んでの率直な感想。誤解を恐れずにいえば、日本人の無責任なところや目先のことにとらわれすぎるところというのは昔から何一つ変わっていないんだ、ということを目の当たりにさせられたような気がする。安保闘争しかり、全共闘しかり、政治しかり、公害しかり、そしてバブルもまたしかり。もちろんこの中には日本人だからと言うわけではなく人間としての悲しい性という部分も多く含まれるだろう。が、とかく日本人に見られがちな事なかれ主義が事態を悪化させたようにも思えるし、それが長い日本の低迷の根幹であるような気がしてならない。

ま、何はともあれ、日本を再生する第一歩を踏み出すにはまず過去をよく知りその反省を活かすことが重要だろう。その意味では、この本は日本国民みんなに読んでもらいたいぐらいだ。

解説は相変わらず非常に平易な文となっているし、戦後60年分の重大な出来事がコンパクトにまとまっているのでこれを読むだけで何となく戦後の流れが一度に分かってしまう。このシリーズは今後もぜひ継続して欲しい。

羽生善治: 決断力



将棋で前人未踏の7冠を達成した羽生さんの書いた本。

羽生さんというと、10年ほど前は向かうところ敵無しという感じで、棋界での存在感は抜群だった。最近は同い年の森内さんの勢いが強いせいか若干影が薄い気もするが、百戦錬磨の手練れが集まる将棋界において若くして頂点に登ったという意味ではインパクトはかなり大きかった。

棋士というと、何手も先まで読む鋭い洞察力と、パターンを熟知して自分のものとする驚異的な記憶力が必要なイメージがあり、その意味で羽生さんについては若干冷たいイメージがあったのだが、そんな印象はこの本を読んで払拭された。もちろん強固な目的意識や情熱の強さなどは「さすが」と思わせる部分があるが、これはどの分野であってもトップに立つほどの人には共通していることのように思うし、それを除けば羽生さんだっていらいらすることもあるし、後悔することも多いんだということをうかがい知ることが出来たのは自分にとってもプラスだった。

将棋の世界にも情報化の波が押し寄せていて、技術革新が昔とは比べものにならないスピードで進んでいるようだが、それに乗り遅れないように羽生さんもかなり努力しているらしい。いわんや IT 業界をやという感じで、自分たちも変化の波に乗り遅れないよう、自分自身を時代に適合させていく重要性をひしひしと感じた。

一部とりとめのないように感じる部分もあったが、全体的にはとても面白かった。こうしたその世界のトップに君臨する人の考え方などを書いた本というのは、松井さんの「不動心」もそうだったが非常に参考になる。自分が真似できるかというとそうではないかも知れないが、心の片隅には止めておけるようにしたい。

中山マコト: お客様は神様か?



副題は「売れない時代の新しい接客・サービス」となっていて、今の時代にものを売るにはどういう接客をすればいいのか、という点について議論した本。

「お客様は神様です」という姿勢は、戦後日本の成長とともに日本国民の中に浸透してきたものである。かつて客が店を選ぶことが出来なかった時代というのは、客が店に足を運ぶのはあくまで「購買」が目的であった訳で、「客が来る」=「お金が入る」という構図が成り立った時代ではお客様は神様だっただろう。が、逆に店側が顧客に選ばれるような時代にあって、こうした高度成長期の考え方を引きずって踏襲しても売り上げにはつながらないだろうというのは自分も同意するところ。

ただ、正直この考え方と、この本で挙げている例とが全然リンクしていないように見えたのはかなり残念だった。

筆者は「お客様は神様である」という姿勢を捨てろといいながら、これからの時代に求められているやり方として説明しているのは、(小手先のテクニックに関する部分を別にすれば) 客をさらに上のレイヤに押し上げるような接客態度のように思う。

それと、経営者はもっと現場のことを知るべきだといいながら、著者自身が庶民の生活とか庶民向けの店の仕組みについて全く理解していないというのも何とも読んでいて歯がゆいところだった。大衆向けの安居酒屋チェーンと、至れり尽くせりのサービスを期待する高級料亭では、顧客の期待度も違うというのに、チェーン居酒屋で料亭のサービスをしろというのは無理な気がする。

とはいえ、じゃあ安ければサービスはおざなりでいいのかというとそういうわけでもないだろうし、とにかく安さばかりに目がいってしまうというのは必ずしもいい傾向ではないように思う。今の世相がそういう方向へ後押ししているのは間違いないが、何となく自己破滅に向かっているような気がしてならないのは自分だけだろうか。

… だいぶ脱線してしまったけど、サービス業に携わるものとしては肝に銘じておくべきポイントもいくつかあるので、決して無駄ではないと思う。

もうちょっとサービス業に関する本もたくさん読みたいところ。

トルーマン・カポーティ: ティファニーで朝食を (村上春樹:訳)



昨年目標に掲げた「古典を読む」の一環としてはちょっと時代が新しすぎる感もあるが、以前から村上春樹の新訳には興味があったので、読んでみた。

「ティファニーで朝食を」というと、小説よりもオードリー・ヘップバーンの映画の方が有名だろうと思うが、何を隠そう、自分はこの映画を全く見たことがない。そんな前提知識ゼロの状態で読んだわけだが、結論から言うとまっさらな状態で読んで良かったと思う。

話はご存じの方も多いと思うが簡単に要約を。第2次世界大戦中のニューヨークを舞台とし、作家志望の若者がほのかに思いを寄せる女優の卵である女性との日々について書きつづったというストーリー。主人公はどこか田舎臭さを残すような青年ではあるが、そんな彼が可憐ではあるが自由奔放な彼女に振り回されつつも、最後に訪れる悲しい結末が何とも胸を打つ。いかにもアメリカの恋愛小説という感じではあるけど、なかなか面白かった。

ちなみに、村上春樹が後書きで書いているように、原作だけ読んでホリーの役としてオードリー・ヘップバーンを思い浮かべる人は非常に少ないだろう。「僕」役のジョージ・ペパードという人は自分は残念ながら存じ上げない (そもそも洋画の俳優さんをほとんど知らないというのもあるが) のだけど、ググって写真を見る限りはやはり男前で、「僕」の持つ繊細さや田舎っぽさは全く感じられない。小説と映画は全く別物であると考えるべきだろうけど、それにしてももうちょっと良い配役があったのではないかとも思ってしまう。

本書には表題の話以外にも3点の短編が収録されている。どれも60年ほど前の若者の淡い恋の話になっていて、その当時の時代背景なども読み取ることが出来てとても興味深かった。

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