
将棋で前人未踏の7冠を達成した羽生さんの書いた本。
羽生さんというと、10年ほど前は向かうところ敵無しという感じで、棋界での存在感は抜群だった。最近は同い年の森内さんの勢いが強いせいか若干影が薄い気もするが、百戦錬磨の手練れが集まる将棋界において若くして頂点に登ったという意味ではインパクトはかなり大きかった。
棋士というと、何手も先まで読む鋭い洞察力と、パターンを熟知して自分のものとする驚異的な記憶力が必要なイメージがあり、その意味で羽生さんについては若干冷たいイメージがあったのだが、そんな印象はこの本を読んで払拭された。もちろん強固な目的意識や情熱の強さなどは「さすが」と思わせる部分があるが、これはどの分野であってもトップに立つほどの人には共通していることのように思うし、それを除けば羽生さんだっていらいらすることもあるし、後悔することも多いんだということをうかがい知ることが出来たのは自分にとってもプラスだった。
将棋の世界にも情報化の波が押し寄せていて、技術革新が昔とは比べものにならないスピードで進んでいるようだが、それに乗り遅れないように羽生さんもかなり努力しているらしい。いわんや IT 業界をやという感じで、自分たちも変化の波に乗り遅れないよう、自分自身を時代に適合させていく重要性をひしひしと感じた。
一部とりとめのないように感じる部分もあったが、全体的にはとても面白かった。こうしたその世界のトップに君臨する人の考え方などを書いた本というのは、松井さんの「不動心」もそうだったが非常に参考になる。自分が真似できるかというとそうではないかも知れないが、心の片隅には止めておけるようにしたい。