絲山秋子: 絲的メイソウ



久々の書評。

実はずっと読んでいる本があるのだが、これが考えながら読まないと全く意味のない種類の本で、通勤の電車の中だけではちっとも進まないので若干やる気をなくしていた。ということで、ちょっとしたリハビリもかねて軽いエッセイでも読みたいなぁと思っていたところ、最近ちょっといいなと思っていた絲山秋子のエッセイがあったので、手に取ってみた。

絲山秋子の作品というと、やはり初めて読んだ「袋小路の男」のイメージが強烈で、恋愛小説なんだけどなんかとてもやるせない感じの作品を書く人というイメージがあったが、このエッセイではそうした雰囲気の作品を書くに至った作者のキャラクターが全開。ちょっとひねくれすぎている感じは否めないが、シニカルなネタでもかなりテンション高く明るく書いているので、シリアスなのにどこかのほほんとしている。こうしたひねた感じをある意味自分でも受け入れて、それを開き直ってぶちまけまくっているからこうした明るさが出るんだろう。

とはいえ、他人の価値観を受け入れないような器の狭いところもあって、若干ムカムカするのもまた事実。まあ、みんながみんな善意で動いているわけではなく、きれい事や性善説だけでは世界は動いていないんだと言うことを意識する上では有意義だったけど、、、。

湊かなえ: 告白



Jasmine さんに借りて読んだ本。

おおまかにいうと少年犯罪を扱ったミステリー小説、という感じかな。とある中学校に勤務している女性教諭の娘が教え子に殺害されるという悲惨な事件と、事件の背景、さらに事件後に闇を抱えた関係者の結末などがリアルに描かれている。基本的には、タイトルにもあるように、事件の関係者が自分の思いを1人称で告白するという形でストーリーが展開していく。これを6章に渡って続けていくことで、事件をいろいろな当事者の目から説明して全貌を描きつつ、事件前・事件・事件後という時間軸をきれいに整理して書いているのはさすがという感じ。一度章を読み出すと、結局この告白の結末がどこにあるのかと気になってしまう。話の展開もうまいし、この手の事件で想像しがちなドロドロ感を過不足なく表現している気がして、頭にすーっと入っていく感じだった。

最初の章を見る限りは少年法に関するアンチテーゼというような論調なのかと思ったけど、氏の論調はそのレベルを超越していて、たとえば人が人を私的に裁くことの是非とか、自身の心の黒い部分といかに折り合いをつけてうまく生きていくかとか、また行き過ぎた偏愛に対する警鐘とか、現代社会に巣食う闇を一気に表現しており、非常に考えさせられる作品であると言える。

結末がちょっとあっけな過ぎるかなという気もするし、森口先生だけがちょっと飛び過ぎちゃっている気もしないでもないが、全体を通して振り返るとかなり面白かった。これがデビュー作とはとても思えない。

小さい子供を持つ親はちょっと読むのがつらいかも知れないし、どろどろした暗い話なので精神的に余裕があるときに読むことをおすすめします。。。

石田衣良: Gボーイズ冬戦争 池袋ウエストゲートパークVII



池袋ウエストゲートパークもこれで7作目。

相変わらず池袋で若者が起こす数々の問題を主人公のマコトが解決していくといったもの。扱っている内容も時事ネタが豊富に取り入れられているし、リアリティもあって面白い。このシリーズだけはずっと読み続けているんだけど、7作目もなかなかよかった。

ちなみにこのシリーズはほぼ1年に1作のペースで出ていて、春、夏、秋、冬と1冊の中で1年が回っていくので、都合7年分話が進んでいる訳なんだけど、まあそこはサザエさんと一緒で基本的にあまり年をとらないようにできている。とはいえそれでもマコトは20代半ばにさしかかろうとする年代になってきており、そろそろ現場との乖離が大きくなっちゃっているんじゃないだろうかと心配している。ハードカバーではもうすでに9作目も出ているが、はたしてどういう方向に進んでいくのか、推移を見守りたいと思う。。。

香山リカ: しがみつかない生き方



精神科医でTVのコメンテーターなどでもおなじみの香山リカさんの本。かなり売れているらしい。

精神科の臨床に身を置く香山さんがここ10年ぐらいで感じているのが、一見普通に幸せに見えるにも関わらず自分が幸せでないことに悩んでいる人が多いということ。そうした患者さんの1つの傾向として、がむしゃらに頑張らないと幸せを手に入れることができないんだという強迫観念にとらわれすぎて頑張りすぎてしまうことがあるとしている。さらに頑張った結果成功を収めた人を周囲が賞賛しすぎるあまり、成功できない自分にまるで生きる価値がないかのような錯覚を覚えてしまうような風潮があるということも問題であると筆者は述べている。その典型例として、香山さんは最近の「勝間和代ブーム」に警鐘を鳴らしている。みんながみんな勝間さんのような生き方をしなければならないというわけでもないし、そんな能力のある人なんてごく一部であるというのに、勝間さんの考え方をまねしないと成功できないんだと思い込んではいけない、というのが香山さんの主張らしい。

過ぎたるはなお及ばざるがごとしという言葉があるように、何でもいきすぎというのはよろしくない。この本に書かれているような、たとえば恋愛に依存しすぎたりだとか、きらびやかな成功を追い求めすぎないとか、そういうことは世知辛い世の中を生き抜いていく上では必要な考え方だろうと思う。

もっとも、全く頑張らなければ何も改善されない。ちょっと頑張るけど自分の身の丈以上には頑張らない、そしてそういうありのままの自分を受け入れることができる人間というのが、結局は幸せな人生を送れるのではないだろうか。たとえ社会的に大成功を収めてなかったとしても。

精神科医としての立場で書かれているだけに、ちょっと偏った見方をしている部分もあるとは思うけど、ふと息を抜いて読むにはちょうどいい本だと思う。

伊坂幸太郎: 陽気なギャングの日常と襲撃



自分が初めて伊坂幸太郎を読んだのが「陽気なギャングが地球を回す」で、それ以来伊坂幸太郎がとても好きになったんだけど、その思い出の作品の続編がようやく文庫化。

相変わらず強盗を続けている4人組だけど、前半は強盗と全然関係ない日常の話が続く。作品も半ばにさしかかったところでようやく強盗事件を起こすのだけど、実は同時に強盗と全く関係のない誘拐事件が起こっていたことを知って、攫われた娘を助け出しにいくというのが大まかな話の筋。

後書きを読むと、前半は最初は全く独立した短編集として書かれていたようだけど、お互いに絡み合っているし、かつ強盗事件の伏線にもなっていてこれはこれでなかなか面白い。カジノに乗り込んでから結末までがやけにあっけなかった気はするけど、さすがに伊坂さんだけあってまさにあっというような裏をかいてくれてとても清々しかった。

伊坂さんはユーモアあふれるキャラクターとハードボイルドな感じの作風の融合という一見して取り合わせが悪く思えそうな要素を見事に融合して、こういうコメディ的なミステリーを作るのが本当にうまいよなぁ、と思う。またほかの作品も読んでみたい。

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