瀬尾まいこ: 見えない誰かと



瀬尾まいこのエッセイ集。

瀬尾さんの本は結構読んでいるが、エッセイというのはこれが初めて。瀬尾さんは中学校の先生をしながら小説を書いているらしいが、そうした日常の中で感じたことなんかをざっくばらんに書き綴っている。

文体が相変わらずの瀬尾さんスタイルなので、とても読みやすいし、何でもないようなことをちょっと面白く表現できるのはさすが。

エッセイなので仕方ないけど、ちょっととりとめない感じがするのが残念。でも瀬尾さんの人となりとか、瀬尾さんという人を構成する要素なんかがちょっと分かった気がして、今まで以上に親近感を持つことが出来てよかった。

伊藤真: なりたくない人のための裁判員入門



タイトル通り、裁判員制度に必ずしも賛成でない立場を取る筆者が、裁判に対する歴史や考え方の変遷をふまえて、なぜ裁判員制度が導入されるに至ったかという点や、筆者が裁判員制度に賛成しない理由についてを記した本。

裁判員制度の是否について考えるには、そもそも裁判とは何で、どうして裁判制度が必要なのかをきちんと理解する必要がある。現代日本の刑事事件の裁判という制度が犯罪の抑止効果や犯罪者の更正を目的として実施されているというのは、漠然とは分かっていたものの、きちんと整理して解説してくれていてとてもためになった。刑事裁判は、被害者やその遺族の怨念を晴らすためにあるわけではないという点は、ともすると「被害者感情」の議論に終始しがちな最近のマスコミの報道姿勢ばかりを見ていると見失いがちで、誤解のないように常に気をつける必要があると感じた。

以前のエントリーでも書いたように、日本人の裁判に対する関心や参加意識を向上するためにまず制度から変えていこうというやり方が本末転倒であるというのは、筆者とも相通じるところがあったし、裁判員制度について自分が疑問に感じていることに答えてくれていて非常にためになった。

総じて筋は通っていたように思うが、いまの裁判員制度に反対するあまり、最後の方では言いがかりっぽく聞こえる主張を多くされていたのは残念 (「推定無罪」の話をしておきながら自身が完璧な論証を出来ていないのを見るのは何とも歯がゆい)。

法学部とかで裁判制度とか法律について勉強した人から見れば初歩過ぎて面白くないとは思うが、自分のようなど素人には大変良い本だと思う。裁判員制度についてちょっと考えてみたいという人にはお勧め。

池上彰: そうだったのか! アメリカ



池上さんの「そうだったのか!」シリーズ。過去に読んだのは現代史だったけど、こちらはアメリカという国についていろいろな視点から解説をしてくれている。

相変わらずわかりやすい文章に加え、具体的な例を挙げて説明してくれているので興味を持ち続けながら読み進めることが出来る。個人的にはアメリカという国は、自由の国という側面を持ちながら自分たちだけが唯一の正義であると信じているような、ある種矛盾したイデオロギーを持った変わった国であるというように見ていたが、そうなるに至った経緯をうかがい知ることが出来て非常に参考になった。偏狭な押しつけ主義に終始したブッシュ前大統領と、変化を訴えて当選したオバマ大統領。この2人を比較するだけでもアメリカという国の性質が女実に分かるというものだろう。

著者が冒頭で
「私はアメリカが嫌いです。私はアメリカが大好きです。そんな矛盾した気持ちにどう折り合いをつければいいのか。そんなことを考えながらこの本を書きました」
と書いているように、おそらく多くの人がアメリカという国にある種の憧れを抱きながらも、どこかで反発する気持ちを持っている。今は経済的に不安要素が多くてちょっと疲弊している感じがするアメリカだけど、いずれ自浄作用が働いてまた成長していくんだろうし、日本もこうした自浄作用が働くと良いのになぁ、と思った。

これまでの現代史シリーズと比べるとターゲットを絞っている分、どうして内容の濃さに物足りなさを感じるが、それでもアメリカという国をよく知るためには非常に良い本だと思う。

布施直春: わかる! 使える! 労働基準法



普段あまり気にすることのない労働基準法だが、やはり社会人たるもの自分の身を守る意味でも知っておいて損はないし、興味もあったので読んでみた。

会社の就業規則は必ず労働基準法を満たすように作られなければならないわけで、その意味で就業規則を理解していれば会社で生きていくための必要最低限の知識は得られる。しかし、もととなっている原理原則とか、その制度が導入されている背景とかはやはりちゃんと勉強しないと分からないので、非常に参考になった。

特に、自分はフレックスタイムなのであまり気にしていなかったけど、法律的に残業時間というものがどう定義されているのかとか、内定や試用期間の法的な扱いなんかは、漠然としかり介していなかったので勉強になった。

自分の会社の就業規則とか労働協約とかと対比させて読むと面白いかも。

三浦しをん: 風が強く吹いている



東京郊外の大学近くにあるボロアパート竹青荘。ここの生活を取り仕切っている主人公の清瀬が、アパートの住人と駅伝チームを作り、箱根駅伝を目指すというスポ根ストーリー。

そもそも設定があり得ないのだが、それを感じさせないほど爽快で感動的な話に仕上がっている。我々が正月に箱根駅伝を見て学生たちの真摯な姿に心を打たれ、そして実況で彼らの裏側にあるストーリーを聞いて感動を受けるというスポーツ観戦の楽しみを小説の中で見事に再現している。本当の箱根駅伝はそんなに甘いものというのは百も承知だが、そもそもスポーツもののフィクションでは多かれ少なかれ設定に頼っている部分もあるだろうし、こうしたありえなさを逆手にとってコミカルさを演出しているのもなかなかよいと思う。

走る姿とか練習風景でなく、走っている間の選手の感情を中心に描かれているため、よけいに感情移入しやすい。マラソンをやっている人にはこのありえなさが受け入れられない可能性もあるが、読後感も非常に良いし、エンターテインメントとしては非常に良い出来だと思う。

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