
自民党の衆議院議員・与謝野馨さんが自分の考えや反省について綴った本。
与謝野さんというのは、自民党の中でも好きな政治家の1人。人気取りで自分が目立とうとするのではなく、大事なことを真剣に伝えようとしている感じが官房長官の時にも出ていたし、金融・経済関連に強いこういう人にもっと頑張ってもらいたいと常々思っている。
この本に書かれているのは、政治家というのは国の行く末を真剣に考えて、周りに迎合することなく正しい判断を下すのが仕事であるという、与謝野さんの政治に対する姿勢が中心。とにかく今の政治は、表面的に国民受けするような政策 (というか選挙対策) ばかりが横行して、本当に必要なものが議論されないという異常事態に陥っていると思っている。完全に「衆愚政治」といってもいいだろう。そんな状況において、きちんと正しいことを見極めて決断を下すのは非常に大変なことであるが、政治家でしかも国を動かそうと言う人はそれなりの資質を持っていて欲しいと思う。与謝野さんにそれができるのかは分からないけど、少なくともそういう心構えで普段から仕事をしているんだなぁと言うのは十分に伝わった。
与謝野さんの主張で「市場原理主義」という言葉が出てくるのだが、これは自分も共感できる部分。何でもかんでも資本主義、経済主義というのでは、世の中は成り立たない。そもそも人民の政治を豊かにするはずの経済活動が、結果として人民を圧迫しているのではないかというのはここ数年思ってきたこと。会社は株主のためにあるというが、実際に働く人間がいなければ会社が成り立たないわけで、ここを無視した経済活動というのは本来あり得ないはず。昨今問題になっている原油価格の高騰も、原油先物取引市場への資金の流入過多が一因となっているようだし (影響は少ないと言われてはいるが)、現実の生活を無視した過度の市場優先主義はむしろ害ですらないと思う。
まとめとして、与謝野さんは消費税の引き上げが必要不可欠であるということを言っているが、これもある程度納得できる。今の日本の財政というのはちょっと無駄を削減するぐらいでは焼け石に水の状態になっている。それは奇しくも今日、大阪の橋下府知事が発表した歳出削減策で、出来る限り無駄を減らしたにもかかわらず結果的に府債の発行をせざるを得なかったことからも明らかだろう。公務員を減らすとか、公共工事を減らすとか、確かに無駄を減らす方策はたくさんあるだろうが、それが抜本的な対策にはならない。将来にツケを回さず、今の段階で手を打つには結局は税収を上げなければならないのは仕方ないところだろう。残念ながら消費税の引き上げによる消費の冷え込みと、それによる税収の低下の影響について書かれてはいないが、これはこれでやむを得ない政策であるというのは疑いの余地のないことだろう。
安倍さんの本の熱さとか、麻生さんの本の奔放さと比べるとパンチがないような気もするけど、真面目度合いではこの本が一番かも知れないな。