
昨年芥川賞を受賞した作家、絲山秋子の短編3作品が収められた本。
最初は表題作「袋小路の男」。主人公は女性。高校生の頃に一目惚れに近い形で好きになった男。女性は男がなかなか心を開いてくれないことに不満を持ちつつも、一途に思い続けている。状況的にはこの男だって彼女に好意を持っていることは明らかなのに、中途半端な反応しかしてくれない男の情けなさ、そしてそんな男なのに好きでいることを止められない女の悲しさが描かれている。
2編目は、1編目を違う角度から書き直した感じ。基本的には男の方の立場からの描写が中心ではあるが、やっぱりこの男の煮え吉良なさが際だっている。とはいえ、1編目よりは女の方にも一杯悪い点があるし、それを男のせいにして逃げている女の卑怯さみたいなのも描かれている。
3編目は全く違うストーリー。清掃工場に勤める中年男性が主人公なのだけど、この話のキーパーソンは姪っ子。中学生という多感な時期にありがちな人間関係とか受験とかいろいろな悩みを、叔父との星にまつわる文通を通してはき出しながら何とかかんとか毎日を過ごしている。と同時に、そんな文通を通して叔父である男性が過去の恋愛のこととか人生のこととかを悩み葛藤する姿が描かれている。
1,2編目と3編目で全然違う話になっているけど、どちらもものすごいソフトな感じでとても読みやすい。話自体はよくよく考えてみると結構重いけど、一つ一つのエピソードはよくある日常の一こまという感じで感情移入しやすいし、それがよりリアリティのあるストーリーに仕上がっている最大の要因なんだろうと思う。
かなり面白かった。
ちょっと軽めの本でも読んでみたいなぁと言うときにはおすすめ。