
田中康夫のデビュー作にして代表作。
田中さんは8月末で長野県知事を退任した訳だが、そもそも彼のことはワイドショーで報じられている程度しか知らないし、作家としての田中康夫のことをちっとも知らなかったということもあり、いい機会なので読んでみた。
今から約25年前の大学生の男女の日常を描いた作品。2006年の現在の目線で読むと、当時の世俗が分かってとても面白い。何でもない日常。今の幸せを精一杯楽しむ傍らで、この幸せが10年後も続いているのかという一抹の不安を抱えながら生きている日常。
25年前という時代にこうした生き方は若干軌道を外れていると捉えられていたのだろうと思うが、この作品が爆発的にヒットしたということが、戦後の日本を分ける一つのターニングポイントになってのではないだろうかとさえ思う。25年たっても変わらない部分もあるし、「神田川」「フォークソング」的な青春との対比からも、「ポスト団塊世代」の到来を表わす作品であるとも言えるだろう。
この当時のこの作品に対する生の反応も気になるところ。
作品の技巧的な観点からは、
- ブランド名の連呼
- 艶めかしい性的描写
- 出てくる単語単語への注釈
というあたりにも触れなければならないのだろうが、これらはどれも表面的なものであって、1つ1つを取り上げて「奇をてらっている」とか「小説として不適切」いう評価を下すのはナンセンスだと思う。確かにこういう形態の本は珍しいが、個人的にはどれも自然に捉えて読み進めることが出来たしね。
一橋大学という、どちらかというと堅い学生が多い大学に在籍し、遊び歩きながらもしっかり観察をし、世俗を描写できるというのが、田中康夫の頭の良さを表していると思うし、この本を読んでちょっとだけ田中康夫に対する評価が上がったかな。
ちなみに、余談ながら、この本に出てくる早苗の彼氏は、わが母校の建築学科という設定らしい。今でも少ないのに、この当時にそんなしゃれた人間がわが母校にいたのかなぁ、、、。