
歌人である枡野浩一氏が、石川啄木の作品集「一握の砂」に収録されている短歌の中からピックアップして解説するとともに、文語と口語の混ざった啄木の短歌を現代語版に書き直して披露している本。
自分は石川啄木というと教科書レベルの知識しかないが、たとえば
はたらけど
はたらけど猶わが生活楽にならざり
ぢつと手を見る
に代表されるように清貧の人というイメージがあった。
が、この本を読んでそんなイメージは完全に吹き飛んでしまった。
とにかく啄木という人は我慢が出来ない人だったようだ。自分の能力を過信し、人と折り合いが付かなくなるとすぐに逃げ出してしまう。確かに才能があったからこそ、金田一京助や与謝野鉄幹らも支援してくれたんだろうけど、その好意に甘えまくっている。しかも金も全くなく妻子がいるというのに遊郭で遊びほうけている。「ぢつと手を見る」ほど働いてないじゃん!と思わず突っ込まずにはいられない。
そんな啄木を「石川くん」と呼んで、ちゃかして馬鹿にしたような解説を載せているのがこの本の特徴といえる。もともと「ほぼ日」で連載していたものを単行本化したということのようなので、その分キャッチーでくだけた文章になっているんだろう。
石川啄木の今まで知らなかった面を知ることが出来てとても有意義だったが、いくらパロディーとはいえ、正直ちょっとふざけ過ぎな点は残念だった。特に啄木ではなく岩手県民全体をばかにしているような書き方は如何なものかと思うし、最後の数ページは啄木の顔に落書きしているのだけど、これもいくら啄木の人間性が優れないとはいえ、やりすぎだし死者に対する冒涜だろう。啄木の人間性云々を問う前に、まず枡野氏自身が読者の心をおもんばかる必要があるのではないだろうか。