<< Python | main | 練習 2008/11/15 >>

堤未果: ルポ 貧困大国アメリカ



世界随一の大国アメリカ。自由経済主義の象徴とも言えるこの国では自己責任の名の下に貧富の格差が拡大していることはよく知られているが、その現状を自身の取材結果なども交えて記した本。

「自由に競争させれば無駄が排除されて受益者へ還元される」ということは昨今の民営化の議論の中ではしばしば言われることであるが、それも行きすぎるとここまで悲惨な社会を作り出すことなりかねないということを如実に表した本だと思う。

競争というのは、本当に無駄な部分をそぎ落としている間はいいが、無駄がなくなった状態で「もっと競争しろ」と煽るのはかなり危険だ。コストを下げるには最終的にサービスレベルを落とすしか方法はなく、結局受益者にとってメリットは出なくなる。この本でも例としてアメリカの医療保険制度の例が書かれているが、高い保険料を払っておきながらなんだかんだ難癖つけてお金が支払われないというあこぎな商売が横行しているのは本当に恐ろしい。それでいて医療費が信じられないほど高い (急性虫垂炎で1日入院しただけで治療費が100万円を超えるらしい!) というんだから、日本の国民皆保険制度がいかに貴重なものか、この本を読むとよく分かる。

こうしてたった1回の病気で人生が借金漬けになってしまうというのも大変恐ろしいが、もっと恐ろしいのはこのような借金漬けを生むプロセスが医療に限らずそこかしこに転がっていると言うこと。そして弱者はますます弱者になり、一部の富裕層だけが労せず肥えていくというプロセスが出来上がる。

さらに破滅的と思われるのが、貧困層にある若者の将来。日本でもワーキングプアーなどと称されて社会問題になっているが、アメリカのワーキングプアーは想像を絶する。学費が払えず借金漬けになった学生を、お金で軍隊へ入隊させて危険な戦地へ向かわせるという構図が成り立っているらしい。

この本を読むと、アメリカの行きすぎた自由経済主義というのが国民を疲弊させ、若者の将来を閉ざし、戦争なくしては立ちゆかない状況を作り出しているように思う。

やはり国民の安全な生活にとって不可欠な要素は採算云々を議論してはいけないし、その意味で民営化してはいけない部分というのは絶対にあるだろうと思う。

この本で実例として出てくるケースは、おそらく common case でなく worst case なんだろうとは思うし、悪いところばかりを取り上げているのでちょっとアンフェアなところもあるが、それでもこれだけ大変なんだと言うことを知るためにはとてもいい本だと思う。

何でもかんでもアメリカにならっていてはダメだし、日本がアメリカ化することだけは避けたいとこの本を読んで強く感じた。

堤さんの文章も読みやすく、具体的な数値も出しているので説得力がある。かなりおすすめ。

コメント
コメントする







calendar
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< March 2010 >>
コメントリスト