
「若者はなぜ3年で辞めるのか」がベストセラーとなった著者の続編とも言うべき作品。「他人が何故3年で辞めるのか」には興味がなかったので「若者はなぜ…」の方は読んでないけど、辞めた若者がどうしているのかという点には興味があるので、読んでみた。
スタンスとしては、優良企業に就職しておきながら速くして会社を辞め、自分の道を探して成し遂げた若者への取材によって構成されている。ただ「なぜ辞めて違う道に進んだのか」という点に多くのページが割かれているので、どちらかというとむしろこちらに「なぜ3年で辞めるのか」というタイトルを付けた方がいいんじゃないかという感じ。読む前に期待していた内容とはちょっと違ったのは事実だけど、しかしそれを上回る内容の濃さだった。
筆者の一貫した主張は、年功序列の賃金体系こそが現在の日本の閉塞感を生み出しており、これを職務制賃金体系にすることが重要という点。バブルの頃までは、経済成長がいつまでも持続するという仮定の下にすべてが計画されていたが、この仮定が間違っていたというのは現在の少子・高齢化や不況の様子を見れば一目瞭然だろう。昭和的な考え方によれば、個人が滅私奉公することで会社を大きくすることに最大の目標が置かれ、若い頃安月給でこき使われていようとも、年を重ねるにつれて地位も上がり、何もしなくても給料があがっていくというシステムになっていたわけだが、このシステム自体が崩壊しているにもかかわらず、未だに考え方を変えることの出来ない体制こそが、若くて優秀な人材のやる気をそいでおり、そのしわ寄せで非正規雇用の増加に代表される社会構造のゆがみが生じている、というのが筆者の主張。
現在の globalization の流れを見ると、個人の能力や成果に従って評価をする仕組みにしていかないと日本は取り残されてしまうという主張には非常に賛同できる。「社員に手厚い」とされる企業だって、要は若い社員とか非正規雇用の労働者から搾取したお金を年長者に分配しているに過ぎないというのはなるほどなぁと思うし、「自分が年長者になったら還元されるんだから」とは言っても20年後、30年後に会社が生き残っていない可能性だってあるわけだから、こうした会社に「滅私」して「方向」することの危険性というのは確かに大きいように思う。もっと言うと、いやがおうにも「滅私」させられている先輩社員を見て果たして有望な若者が会社に入りたいと思うかどうか。特に昔と違って今は就活にあたって自己分析をするようなことは当たり前に行われているだけに、いざ会社に入ってみてギャップや嫌悪感を感じてしまうのはある意味当然だろう。
この矛盾は遅かれ早かれ取り除かれなければならないし、若者が日本的企業を選ばないということによりある意味自浄作用が働いてよい方向に向かうと言うことは考えられなくはない。ただ、ではいきなりパラダイムシフトが起きるのかというと、個人的には懐疑的だ。理由はいくつかあって、
- 結局いつまでも抵抗勢力が尽きることはないだろうと言うこと
- 年長者を敬うという姿勢が日本人の考え方の根本であること
- 若い世代が闘争することに対しあきらめてしまっていること
といったあたりを鑑みると、結局このままずるずるとじり貧の一途をたどるしかないのかな、という印象を受ける。
個人的には仕事を通じて自己実現したいというような高尚な目標もないし、かといって会社に盲目的に従っているつもりもない。それでも仕事は仕事として一生懸命努力しているし、それなりの評価ももらっているとは思う。その意味で自分の立場というのは世間的に見ればとても恵まれたものなんだろうなぁ、とこの本を読んで感じた。
いわゆる昭和的なレールから脱線した人を扱うとは言いながら、結局脱線して成功した例しか挙げていないような気もしないでもないが、いろいろと考えさせられる本だし、大変ためになった。
これから就職活動をしようとしている人や、伝統的な日本企業に勤めている人は一度読んでみるといいかも。