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カフカ「変身/掟の前で 他2編」 (丘澤静也・訳)



年頭に予告したとおり、古典的な作品にチャレンジしてみた。

ちょっと堅めでそんなに重たくなさそうなところからということで、まずはカフカから。

この本は、昨年巷を賑わしたドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」と同じ新訳本シリーズのもので、カフカの作品4編を新たに焼き直したものが収録されている。

1編目は人を裏切りることにより築き上げた栄華について悩む主人公を独自の視点で書き上げた「判決」。結局自我の崩壊により幕を閉じるわけだけど、主人公のお父さんが息子を非難する姿というのは、お父さんの自戒もこもっている感じがしてとてもいい味を出している。

2編目の「変身」はカフカを代表する作品。ある日目が覚めたら虫になっていたという何ともシュールな展開で幕を開けるが、仕事中毒とも言うべき主人公の姿は現代社会にも通じるものがあるし、自分がよかれと思ってやったことが必ずしも自分にプラスとして返ってくるものではないというのは、見返りを期待してはいけないという教訓にも似た感覚を抱かせる。

3編目の「アカデミーで報告する」はさらにシュール。アフリカでサーカス用に捉えられた猿が、人間のまねをするうちに本当に人間になってしまい、その経過をアカデミーでスピーチする、というもの。ただ、シュールではあるが、所詮人間なんてたいしたものではないという点をうまく描写していてなかなか面白い。

最後の「掟の前で」はたった4ページの作品。短いが内容はかなり濃い。人生の目的なんてきっと死ぬまで分からない、というカフカの人生観的なものを窺い知ることができた。

基本的には短編であっさり読めてしまうのだが、これがなかなか奥が深い。4作品ともいろいろな見方が出来る本であり、後書きで訳者の丘澤さんが引用している

「解釈で明らかになるのは、カフカの本質ではなく、解釈社の性格である」

という表現は、ほんとに言い得て妙。

特にうまい表現とか展開を駆使しているわけではないのに、心に響いてくるものが多かった。さすがに長い間読み継がれているだけのことはある。自分としても大変有意義だった。

今後も1月に1作品ぐらいのペースで古典にも手を出していきたい。

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