
角田光代の直木賞受賞作が待望の文庫化。
時間軸の違う2つのストーリーが並行して進んでいく。一方は小夜子と葵の話、もう一方は20年近く前の葵と魚子の話。
簡単にまとめると女性の友情について女性の視点から書かれた作品、ということになるのだけど、この作品にはいろいろな要素が詰まっていると思う。
一つは女性特有の固定された小グループでの行動パターン。男性の目から見ると「大変だなぁ」と思うだけだけど、この行動様式になじめない女性はやっぱり本当に大変な思いをするのだろう。いわゆる「浮いている」状態というのは、男でも女でもまああり得る訳なんだけど、よく言われているように女の場合は男と比べて陰険なような気がする。こうした歪んだ陰険さというのがとてもリアルに描かれている。
それと、もう1つ。どんなに仲がよくても、一旦離れて再会すると奇妙な違和感を覚えることがあるけど、離れる前の仲がよければよい程感じる違和感が大きくなるということかな。変わった相手を見たくない、あるいは変わっていない自分を見られたくない、というので逢えなくなってしまうのは何とも寂しい。
興味深かったのは、魚子が葵に対して見せていた振る舞いを、今度は立場が変わって葵が小夜子に見せようとしていたところかな。がむしゃらに走ってきて、ふとあの頃の自分と重ね合わてしまうよう人との出会いによって、もしかしたら葵も自分の人生をやり直そうしていたのかも知れない。
最初はじめじめしていて読むのが辛かったけど、全体的にはさすが直木賞を取っただけあって面白かった。男性が読んでも面白く読めるんじゃないかと。