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矢作俊彦「ららら科學の子」



学生紛争の頃公安当局に追われて中国へ逃亡していて30数年ぶりに日本へ帰国した男が、様々なギャップにとまどいながらも自分にとって大切なものを思い出す、というお話。

この作品のテーマとしてはやはり「ギャップ」という単語がキーワードになると思うが、作品中では大きく2種類のギャップに焦点が当たっている。

1つは30年前の日本と今の日本というギャップ。はじめは「今の日本には安保闘争をしてた頃の気概がない」的な主張をしたいのかと思ったのだが、どうもそうではなかったようだ。時代が違えばイデオロギーが違うのは当たり前。ともすれば自分の若かりし頃の理想と30年後の現実のギャップから「最近の若い者は」的な批判をしがちだが、どちらがいいということではなく、客観的にギャップを捉えているところが面白い。特に、空白の30年を主人公の彼が少しずつ自分の理解へと消化していく過程はとてもリアルに描かれているし、うまい対比の仕方をしているなぁ、と思う。

もう1つのギャップが「社会主義中国」と「民主主義日本」の対比。主人公の彼が中国に渡ってからの波瀾万丈というのは一見信じられない状況ではあるが、とはいえ日本だって一昔前 (戦前とか) だったら普通にあり得たはず。理想を持って中国に来たにもかかわらずとてもあっさり裏切られてしまう姿は何とも切ないのだが、それを淡々と受け入れる主人公もまたいいキャラしていると思う。

とにかく、イデオロギーの対立とか、貧富の差とか、家族の大切さとか、いろいろと考えさせられる作品だったし、なかなか面白かった。

ただ、東京の地理 (特に駒場、渋谷、六本木、白金界隈) をよく知ってないとおもしろさは半減するかもな、、、。

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