<< 東野圭吾「予知夢」 | main | 同期飲み >>

藤原正彦「国家の品格」



この本が結構売れているというのは前々から知ってはいたのだが、タイトルだけ見て「どうせ頭の固いオッちゃんが昔はよかった的な主張を繰り広げているだけだろう」的な先入観を持っていて、特に読みたいとは思っていなかった。

が、ふとしたきっかけで、この著者が実は数学者で、しかもアメリカの大学で教えていた経験もあるということを知り、ちょっと興味を持ったので読んでみることにした。

結論から言うと、かなり衝撃的。非常に的を射ていると思う。自分が今まで漠然と思っていたことをきちっと文章で表現してくれたのみならず、自分みたいな凡人にはとても思いつかないような発想を出してくれている。

自分もかねてから、日本が本当の意味で国際的な競争力を持った国を目指すならば、小学校から英語を学ばせるなどと言う小手先だけの教育改革じゃなくて、まずは自分の国の言葉で自分の国の文化を体に染み込ませる教育をすべきであるという考えを持っていたので、この点は藤原さんの主張にとても共感できる。

その上でこの人がすごいのは、論理的思考が偏重されている現状を憂慮していること。数学者でありながら行き過ぎた合理主義に真っ向から立ち向かっている。論理云々じゃない絶対的な善悪の判断がまずベースにないことには、どんなに論理を振りかざしても誤った結論にしか行き着かない (いわゆる「頭でっかち」の状態と自分は理解した) というのはとてもよく分かるし、しかもこれを具体例を挙げて極めて分かりやすく説明してくれている。

もっと日本人は、日本ならではの「情緒」を大事にすべきという点も同意だし、でないと日本が日本たる所以がなくなってしまう。これは極めて重大なことだと思う。

この本を読むと、今の日本が抱える行き場のない閉塞感が非常にもどかしく、何となくくらい気持ちになってしまうが、何とかしなくてはという気にもなるなー。

もちろん、藤原さんの主張に共感できない人もたくさんいるとは思うが、それでも全日本人とはいかないまでも、「このままじゃ日本はダメかも」「何とかしないと」と思っている人には目を通して欲しい本だ。

ちなみに欠点をあげるとすれば、
  • 現在の情報化社会についての考察がない点 ... 自分の必要な情報が必要なときに手にはいることが当たり前になった時代では果たして情緒を復活させることが出来るのか
  • 日本的情緒に基づく政策が外交上必ずしも受け入れられるものではない ... 北朝鮮のように卑怯な国はとても卑怯だし
というあたりかな。このあたりまで考察してくれれば完璧なのだが。(自分で考えろよ、ということだけど…)

コメント
情緒、って何ですか?どういう意味で使っているんだろう。読んでみようかしら。貸してー♪
  • リコ
  • 2006/06/09 7:24 PM
数学者だからこそ根底に公理がなければ方程式もなく、その公理は理屈で説明できるものではない、と考えられているのでは?

私は論理的思考というのは「スパっと切れる包丁」だと思ってます。
世の中を楽しくする便利な道具にもなるし、ひたすら自己防衛に使う人もいるし、残酷に人を追い詰めることもできるものだと思います。
  • だっち
  • 2006/06/09 11:20 PM
> リコさん

ここでいう情緒とは、日本人ならではの美的感覚とかをもっと大事にしようよ、っていうことかと思います。20F にお立ち寄りの際は声をかけて頂ければ本はお貸ししますよー。来週は 20420D あたりにいますので、、、。


> だっち

まさにその通り。論理というのは、「AならばB」「BならばC」という考え方の積み重ねである訳だけど、出発点である A の選び方を間違えれば最後の結論も間違ってしまうはずであり、A を選ぶ基準がしっかりしてないとダメだ、という主張。さらに、論理の切れ味が鋭ければ鋭いほど A の出発点のずれの影響が後々大きく響いてくる、というのが藤原さんの主張。いわゆる「理論武装」というやつで、論理が正しくても社会的に見て全く意味をなさない主張というのはたくさんあるからねー。

  • taishi
  • 2006/06/10 12:18 AM
飛行機の中で読み終えたけど、俺も、似たような感覚を持っているかな。
  • 10403
  • 2006/06/10 8:51 PM
承認待ちのコメントです。
  • -
  • 2006/06/11 12:58 AM
おもしろそうな本だね。興味を持ちました。
同じような視点で「会社の品格」を考えられないかな?
正論を通しているつもりでも、前提の真偽があいまいなためにただの詭弁を弄してるにすぎない会社もしくは上司に心当たりがあるような、ないような。。。
あとは「週刊誌の品格」とか。
  • えんた
  • 2006/06/28 10:15 PM
コメントする







calendar
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
<< March 2010 >>
コメントリスト