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横見浩彦「JR全線全駅途中下車の旅」



JR の全ての駅で下車するという偉業 (奇行?) をなしとげた横見さんが、その経験をエッセイ的につづった本。

この本の著者で根っからの鉄道オタクの横見さんという人が、鉄道には全く興味のない漫画家の菊池直恵さんと電車でいろんなところを回るという企画がスピリッツの増刊号に連載されており、これがなかなか下らなくて面白いのだが、その横見さんが有名 (って知らなかったけど) になった原点ともいうべきの本を本屋で偶然見つけたので衝動買い。

JR の全ての路線に乗車する (乗りつぶしというらしい) というのは実は鉄オタさんの中では比較的知られた道楽のようで、かなり達成者もいるらしいし、実際何年前だったか関口宏の息子がオカリナ吹きながら回る様子を NHK で特集していた記憶もある。まあ、ど素人の自分から見るとそれだけでも「ようやるよなぁ」という感じなのに、それに飽き足らず、全ての駅で下車しようというようなことを思いついて実践してしまうというのは、何というか、あきれてものも言えないというか、鉄オタのパワーを象徴しているような気もする。

とはいうものの、実際にはその陰で様々なドラマが繰り広げられたり、人知れず苦労しているところも勿論あり、オタクの道楽と切り捨ててしまうには忍びない程面白い紀行文であった。

特に、電車が1日1本しか止まらない駅を訪れたときのことや、電車の本数が少ないので隣駅まで10kmも歩いていったエピソードなんかは、読んでるときは馬鹿馬鹿しかったが、ついに全駅を達成するというところまで行くとなんだかこっちまで「大変だったよなぁ」とつい感情移入してしまう。

この本から学ぶべき点は多い。はたから見てあまり意味のないと思えるような事でも、またゴールまでの道のりが果てしなく思えるときでも、信じて続けて行けばいつか達成できる。もっといえば「達成するという事実」でなく「達成する過程」にこそ意味があるのだと思わせてくれる。

そもそも旅行も乗り物も結構好きだし、こういう下らないことをした人のことを読むのは好きなので、とても面白かった。
ところで、話の方向はがらっと変わるが、この本を読んでいると地方の電車がいかに廃れていっているのかというのがよく分かる。しかも、かつてはイケイケドンドンンで線路が引かれていったのに、国鉄の分割民営化を境に不採算路線はどんどんなくなっていっている。こうした状況を読みながら、いま無理矢理作ろうとしている高速道路や整備新幹線、さらにはもうすぐ開港の神戸空港、北九州空港、静岡空港なんかも同じ道を辿るのではないかと危惧している。特に高速道路なんて、全然車が通らないことが分かっているのに、赤地になるのが分かっているのにそれでも建設しなければならないというのは何とも納得し難い。いずれこの本に出て来る駅舎も壊されて板切れのホームしかない無人駅のようなサービスエリアなんかも出て来るんじゃないだろうか。作ると決まってしまったものが今さら覆るとは到底思えないが、せめて「まあ作った意味はあったよね」とのちのち評価されるよう、運営でカバーしてもらえればなぁ、と切に思う。

というか、↑、長いな。。。

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