*通産省関連−目次−

通産省質問の論点−まとめ−
 論点の整理(JISについて)

<アスベストを含有する製品をJISに含めることの妥当性>

 アスベストの代替化の方針は、昭和51年の労働省の通達、環境庁「アスベスト排出抑制マニュアル」などにより明らか。通産省が今回代替化の方針を明らかにすれば、建設省を除く3省庁で代替化の方針が確認されたことになる。

 アスベストの代替品はすでに普及しており、各国で禁止されたり、わが国でも東京都などの自治体で使用しない方針をとっていることから、アスベスト製品をJIS製品としてどうしても認めなけばならないと言うことは難しい。

 もし本気で代替化が必要であると考えるなら、JISから除けば済む。
 それをしない理由、できない理由は何なのか、ということがまず論点となる。

 予測される回答は、「建設現場では安価で手軽なアスベスト製品は広く使われているので、これについて規格に含めないとなると、安定した品質の製品供給の妨げになり、市場が混乱する。代替化は別の方法で行って、市場から駆逐される見通しができた段階でJISから外してゆく方がいいと判断している」というもの。

 卵が先か、鶏が先かという議論になるが、問題は、「JISが政策的な意向をどの程度反映させることが可能な規格認定制度であるか」ということになる。
 つまり、JISとはどのような認定制度であることを目指しているのかという問題。

 この議論は、政策に反する規格を認定することが、JISが根拠となっている工業標準法の目的である「取引の単純公正化」「使用または消費の合理化」「公共の福祉の増進に寄与する」に、合致していると言えるのかどうかという問題になる。
 JISの本質にかかわる大変重要な論点になる。


<アスベストを含有する製品と含有しない製品を、同一の規格とすることの妥当性>

 アスベストには、労働法上などをはじめ、数々の法律的な規制がかけられている。

 アスベストの一種であるクロシドライト・アモサイトは、1995年の法改正で輸入・製造などが禁止されている。今使用されているクリソタイルの危険性は、この二つよりも小さいと考えられている傾向はあるものの、肺癌などの発癌性は同じように考えるのが通説的とらえかたといえる。

 使用が禁止されている物質と同様の危険性を持つと考えられているのものを、それを含まない製品と同じ規格に含めることは、適切な規格認定と言えるのか。
 これでは規格の意味がないのではないか(こんなごちゃまぜの規格が規格と言えるの)問題になる。


 JISのこのような認定方法は、現実的に、次の点で労働法上の規定の目的に反しているか、遵守の妨げとなっている。

・労働安全衛生法第57条、表示の義務

 アスベストを1%を超えて含有する物質は、名称、成分、含有率、作用、取扱上の注意などを表示する義務がある。
 アスベストはMSDS(Material Safety Data Sheet 化学物質安全性データシート)でも表示されることになっている(1992年「化学物質等の危険有害性等の表示に関する指針」)

 特に他のものから区別して、ことさらにアスベスト含有であるものを表示さ せ、区別できるようにしているのに、JIS表示がいっしょになっているのはおかしい。
 このような表示は何のためにされているのか。他と区別するためではないの か。

 このような制度まで作って、他の製品と区別することをことさらに求めている製品を、他の製品といっしょに規格認定することがなぜ許されるのか。許されるとしたら、このような表示制度の目的は何なのか、JISとは一体何なのかという問題になる。

・特定化学物質等障害予防規則第38条の10、事前調査

 設計図書など、書類上ではJIS番号によっては判別できなくなり、事前調査を難しくしてしまう可能性が出てくる。事前調査から漏れて、適切な対策が取れないことも多いことを考えると、このような方向を不適切なJISの表示が助長する結果になる。

 ・労働安全衛生法、特定化学物質等障害予防規則の第1条「目的」には、労働者の安全や健康に対する配慮、代替品の使用、有害な物質に暴露される機会をなるべく少なくする事業者の責務などが定められている。

 JISの規格認定は、事業者の、このような取り組みを妨げることにつなが り、この法律などによって求められている目的をないがしろにしている。このような認定方法は、労働安全衛生法や特化則に反しているのではないか。


 わが国の代表的な環境ラベルの一つ、エコマークでは、認定の条件として「アスベストなどの有害な物質を含まない」ことをあげている。

 同じような形で国が指導して行っている認定事業で、特に含有しないことを条件とするものを認定しているばかりか、他の含有しない製品といっしょにして、同一の規格として認定していることは、矛盾がある。

 エコマークとJISとで、このような大きな認定方法の差異が出てくるわけは何なのか?

 「JISは、消費者に環境を守る目的にあった製品を選択させるインセンティブを与えることを目的とするエコマークなどの環境ラベルとは違う、品質表示であり、主に性能の観点から同一の品質であることを示すためのものである」という説明が考えられる。

 しかし「わざわざ一方で除外しているものをいっしょにして認定することが、適切な認定方法と言えるのかどうか」と聞かれた場合、「適切である」というためには、「エコマークなんかただの飾りじゃないか」くらいは言ってもらわないと、なかなか納得することは難しい。


<JISの認定制度自体の問題>

 このような、法律に抵触する恐れすらもあるような規格認定が公然と行われてしまう原因として、JISの認定方法の欠陥を指摘することは不可欠だろう。

 JISは、前に見たように、原案作成委員会の審議を経て作成されるが、事務局で原案作成協力団体になっているのは「スレート協会」。
 委員の構成は、関連官庁からのほか、いわゆる学識経験者と企業関係者からなり、企業関係者にはアスベスト関連企業が名を連ねている。

 アスベストの販売促進に力を入れている業界が、JISの規格認定の原案作成の中心メンバーとなっていることは誰の目から見ても明らか。これでは、公正な規格の認定が期待できるはずはない。
 代替化促進を政策としていながら、このメンバーの選定はどういう意図なの か。
 メンバー選定の基本的な考えとは何かを明らかにしてほしい。

 今後民間団体を含める考えはないか。特に代替化を政策としているなら、政策の実現を援助する意味で、そのような方針を持った民間団体の参加が好ましいと思うが。

 昨年の工業標準法の改正により、民間団体の規格制定が促進されつつあるが、公益法人の作る規格も含まれる方向になっているので、今後、(社)日本石綿協会などの自主的な規格により認定が行われる可能性も出てくると思う。代替化の方針が明らかで、法規制もとられているアスベストの場合、このような方向はどの様な形ですすめられるのか(場合によっては、今以上の野放しになる恐れがある)。


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