<規制緩和>
行政による市場への介入を極力少なくして、市場を自由な経済活動に任せ、市場経済の活性化を促そうとする動き。
市場開放問題苦情処理体制(OTO:市場開放についての苦情や意見などを受け付け、審議して改善を図るなどを主な業務とする。
経済企画庁にOTO推進会議や事務局がある)は、15年前に発足しているが、平成に入ってからの苦情、問題提起の中でも、規格、基準に関連するものが3分の1以上を占めるなど、規格・基準が市場へのアクセスを妨げ、自由な経済活動に対する妨げになっているという認識が強まってきている。
OTOは、事業者からの問題提起を受けて、平成4年度から年1回、「基準・認証制度に係る市場開放問題についての意見」をまとめている。
アスベストについての今回の改訂も、規格制定の要件に「今回の見直しでは使用目的が同様の製品の規格はできるだけ整理統合して、規格の簡素化を図ることを目的に」とあるように、このような規制緩和の要請を強く反映している。
<国際整合化>
ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機
構)など、国際的な規格にJISを適合させてゆこうとする動き。
特に、平成7年に発効したWTO(国際貿易機構)のTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)による要請をうけ、急速に進められている。
ISOは、科学技術及び工業における標準規格の国際的統一を推進する民間団体。1カ国につき1機関の参加が認められている。
日本では、日本工業標準調査会が1952年に参加。
WTOは、それまで国際協定にとどまっていたGATT(ガット)が、1995年に正式な国際機関として発足したもの。権限や強制力が、ガットに比べて各段に強まり、自由な貿易に反する国内政策に対して厳しい措置が可能となった。WTOの前では、国内法優先という考え方は通用しなくなったといわれる。
TBT協定の目的は、基準・規格などの認証制度が、貿易の障害とならないような制度的枠組みを整備することとされ、政府の技術的規制や任意規格の制定にあたっては、国際規格を基礎として使用することなどが要請されている。
JIS A5430「繊維強化セメント板」にも、「ISOを参考として検討することとした」とあり、この用語もISOのfiber-reinfocedcementの翻訳に
なっているようだ。(しかし、ISOでは、fiber-reinfocedcementとasbestosreinfoced cementの両方の規格番号があることから、ISOでも、日本のJISと同じく、fiber-reinfocedcementに、アスベスト含有の建材も混ぜて規格を決めているのかどうかは疑問)。
TBT協定など、国際整合化とは、規格認定を自由貿易を推進する目的に沿ったものにするために、国際的規格に国内の規格を合わせることを目指すものだから、本質的に、国内法規や、国内の環境問題や労働環境に関連する、その国固有の状況を反映させないシステムを作ろうとしているともいえる。
例えば、もし仮に、アスベストは、国内では代替化の方針を政策とされているが、国際整合化を理由に国内の規格に反映されないとしてもやむを得ないという説明が、TBT協定を根拠にすると可能になってしまうことになる。
ここに、自由貿易に絶対的価値を認めている、WTOやTBT協定自体の問題点がある。
これについては、自由貿易の弊害という問題とも併せて批判がある
ものの、市場開放というアメリカなどからの強い国際的な圧力の中で、かき消されてしまっている。
国内で代替化の方針が出され、エコマークでも特に使用しないことを条件とされているアスベストを、JISの規定から外すべきであると主張する場合、このような国際的な大きな流れに対抗する意味にもなっていることを確認しておく必要がある(その意味では、地球環境問題や、遺伝子組み替えなどの農産物の市場独占などの問題とも共通する問題になる)。
今回の会合では、担当者はJISが、規制緩和と国際的な規格の整合化の流れの中で改訂されていることを説明することになるだろう。
そこでは当然のことのように「国際整合化」は至上命令のように説明されるだろうが、私たちは、「国際整合化」自体の持つ問題点(つまり、自由貿易自体の持つ欠陥と、それが生み出している矛盾という側面)を認識しておく必要があると思う。
<性能規格>
JISについては、以前より、「規格の認定にあたって、素材・仕様を詳細に規定する仕様規格は明確だが、他方、同様の性能を持っていても規定されている以外のものは排除されてしまうことから、仕様規格・基準を性能規格・基準に改めることが必要である」(OTOの意見 平成9年6月)という指摘がされてきた。
「多くの基準・認証制度において、仕様規格・基準がなお用いられている現状においては、今後更に一層、性能規格・基準に改めることが必要である」(同上)という強い要請がある。
アスベストについての規格改訂が、このような要請に基づく改訂であるということも言える。前回送っている「原料について細かく規定することは現状にそぐわない」という説明も、このような流れの中で出てきていると考えられる。
しかし、このような流れを推し進めてゆけば、環境によくない原料でも、他のものと同様に規格品として認定されてゆくことは十分考えられる。
工業標準化法の目的には、「使用または消費の合理化」「公共の福祉の増進」という言葉も示されているが、「規格」というものが、消費者のためのものなのか、売り手のためのものなのか、このような流れを見るとよくわかる。
ではこれでいいのか、JISが環境政策を反映する視点を持っていない規格であるのかと尋ねたとき、どう答えるのか。
仮に国際整合化が確実に行われるとすれば、JIS自体の存在価値もなくなってきてしまうことになる。
規制緩和や、認証制度の民間への開放の波の中で、国際整合化を強く求められながら、なおかつJIS自体の存在価値を示してゆかなければならないジレンマは、推進する側にとっても大きなことだろう。
環境問題についての意識も高まり、エコマークやグリーンマークなど、環境に配慮したマークもいろいろと作られてきている中で、「ISOとエコマークがあればもうJISなんかいらないんじゃないのか」と言われるのが、担当者としては一番つらいところのような気がする。
そう言われないように、国内の規範や政策を反映した規格作りの必要性を訴えることになるだろう。環境問題や労働問題も反映させるような形でJISを変えてゆくべきだという視点も持っているはずだから、今まさに、民間団体の意見を聞くという体制に変化しつつある認定制度に、アスベスト反対の観点からどの様な形で介入してゆけるのかが、今後の課題になる。