関係6省庁交渉の記録
今回は、全省庁に共通の要請事項として、日本におけるクリソタイルを含めたアスベストの
輸入・製造・使用等の早期禁止の実現および国際情勢に関する認識を質しましたが、省庁に
よってまったく認識がバラバラであることがあらためて浮き彫りになっています。
「世界の流れは禁止に向かっている。日本でも規制が必要と考えるが、うちには権限がな
い」という環境庁から、IMO(国際海事機関)の場で日本政府として船舶への新たなアスベスト
使用禁止に賛成しているという運輸省(ただし、IMO以外の世界の動きは御存知ないようです)。
国際的な動向もそれなりに入手しながら、「@安全な管理のもとで使用すれば基本的に問
題なし、しかし、A代替品の開発、アスベスト含有量の低減化は促進する」という通産省。
建設省は@は通産省と同じですが、Aの代替化の促進に関しては、毎年担当者によって
ニュアンスが異なる感じ。今年は、防火性能と経済性等、市場の選択に委ねる、と最悪でした。
厚生省とは数年ぶりの交渉でした、学校等の吹き付けアスベストが問題となった1980年代
後半以来、厚生省としての役割は終わっているというばかりの認識にはあきれてしまいました。
労働省は、「可能な限り情報収集に努めたうえで、総合的に判断し、適切に対応してまいり
たい」との官僚答弁に終始し、真意はつかみどころがありません。
そのような中で、目新しいこととしては、厚生省関係で、人口動態統計による死亡データの
中皮腫の件数が、平成7年度以降把握できるようになったことが判明したことです。平成7年
度―326件、平成8、9年度は403件(11頁、10年度分は9月に判明)。欧米諸国よりは遅
れているものの(13頁を参照してください)、やはりかなりの件数が出ているということだと思い
ます。労働省のデータによれば、中皮腫だけでなく肺がんも含めた労災認定件数は、ここの
ところ20件台で推移していますから(それでも職業がんとしては最大件数)、数十分の1くらい
しか労災補償を受けていないということが言えそうです。
環境庁とのやりとりでは、改正大気汚染防止法の施行に関連した施策として、昨年度、「建
築物解体等に係るアスベスト飛散防止対策マニュアル」のリニューアルと出版(昨年8月6日
付けの石綿対策全国連の修正要求はほとんど取り入れましたが、重要な点で取り入れなかっ
たものも残っています―29頁参照)のほか、札幌市と千葉市の協力を得て石綿の事前使用
把握調査事業を実施し、札幌市では石綿使用建築物のマップが作成されたとのこと。
また、通産・環境の所管で立法化されたPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度の対象
物質にアスベストを含めよという3年越しの要請に対して、昨年の後ろ向きの姿勢から変わっ
て適用される可能性が出てきているようで、さらにプッシュしていきたいと思います。
また、建設・通産両省によって、次期通常国会めざして、建築物解体・リサイクル制度の立
法化が検討されており、これをどう活かしていくかも今後の課題です。
1999年5月
各省庁大臣・長官殿
アスベスト(クリソタイル)の早期禁止の実現および
アスベスト対策の一層の強化に向けた要請
日頃の貴職の御活躍に敬意を表します。
4月12日に世界労働機関(ILO)が、世界の労働災害の発生状況に関する推計を発表しましたが、
「110万件の死亡という労働現場における犠牲者は、交通事故(999,000)、戦争(502,000)、暴力
(563,000)およびHIV/AIDS(312,000)による毎年平均の死亡を上回っている」としています。そして、
「アスベストだけで、毎年、10万名以上の労働者を殺している」とも言っています。
これだけでも恐るべきことですが、アスベストが人々の身の回りの建築物に大量に使用されてきた/
続けていること等から、その環境上の影響も考慮すれば、アスベストが最悪のインダストリアル・キラー
のひとつであることは疑問の余地がありません。
アスベストの職業上および環境上の危険に関する証拠が確実に増大し、その認識がいきわたるに
連れて、国際的にアスベスト(現在の焦点はクリソタイル(白)アスベストについてです)の流通・使用等
の禁止に向けた動きが加速し、いままさにホットな話題になっています。
ヨーロッパでは、オーストリア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スウェー
デン、スイスに続き、フランスが1997年1月1日からアスベストの禁止に踏み切りました。次いで1998年
2月にはベルギーが禁止し、8月にはイギリスが禁止の提案を行いました。イギリスを含めると、EU加
盟15か国中10か国がアスベストの禁止を決定したことになります。
ヨーロッパ全体=EU(欧州連合)としてアスベストを禁止すること(EU指令76/769/EECの改正)が検
討されており、2005年までに(わずかな例外を除き)クリソタイル・アスベストをも禁止するという決定が
明日にも行われようという見通しです。そうなれば、昨年8月に禁止の提案を行ったイギリスも、今年中
にも禁止の実施に踏み切ると伝えられています。
ポーランド、サウジアラビア、シリア、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアといった国々でも禁
止または禁止に向けた動きが進んでいます。世界最大の使用量(1970年代に約80万トン)を誇ったア
メリカでは、EPA(環境保護庁)によるアスベスト禁止の導入が手続の不備を理由に失敗したにもかか
わらず、すでに年間約2万トン程度にまで激減しています。
これに対して、アスベスト産出・輸出国は、規制のない/弱い開発途上諸国に販路を拡大しようとして
おり、その障害にならないようにという理由で、すでに市場としては価値の低いヨーロッパにおける禁止
の動きを妨害しようと躍起になっています。1998年5月にカナダが、フランスのアスベスト禁止措置を非
関税貿易障害であるとして世界貿易機関に提訴したのもその現われです。
このような中で、1998年には前年比3割減少したというもののいまだに年間120,813トン(1998年)も
輸入し続けている日本は、孤立無縁のアスベスト使用大国となっています(1997年は176,021トンで同
年の世界のクリソタイル産出量192万トンの1割弱を占めています)。国際的な禁止の流れの中で日本
だけが取り残され、日本におけるアスベスト被害を長期間持続・拡大させるばかりでなく、欧米で体験済
みの被害を世界中に拡散することにつながる開発途上国への販路拡大を下支えする「イチジクの葉」
の役割を果たさせられるという懸念が増大しています。
私たちはこれまで、日本において、発がん物質アスベストの危険性の啓蒙、アスベストによる健康被
害の掘り起こし、すでに使用されているアスベストに対する労働・環境対策の確立・強化、そして、何よ
りも日本におけるアスベスト禁止の早期実現に向けて、様々な取り組みを進めてきました(石綿対策全
国連絡会議は、そのような目的のために、1987年11月14日に労働組合や市民団体および関心をも
つ個人によって設立された団体です)。
このような状況を踏まえて、日本においてもクリソタイルを含めたアスベストの輸入・製造・使用等の
禁止を早期に実現するとともに、アスベスト対策の一層の強化に向けて、下記の要望事項の実現に向
けてご尽力を賜りますよう、要請いたします。
なお、同様の趣旨の要望を、通商産業大臣、運輸大臣、労働大臣、建設大臣、環境庁長官宛てに
行っておりますことを申し添えます。
厚生省/運輸省/建設省/環境庁/労働省/通産省
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