1996年10月17日   

静岡県生活・文化部環境局長 様

アスベストについて考える静岡県民の会   

前略

日ごろ、私たちの大切な環境を守るため、ご尽力いただきましてありがとうございます。

私たちは、静岡市丸子の県職員住宅の解体を契機として、今年5月以来、環境保全課等に、 静岡県のアスベスト対策についての説明を求めています。

環境保全課からは、7月初めに、同封させていただきました 『静岡県のアスベスト対策についての 質問とお願い』に基づき、お話を伺いました。

その際には、お忙しいおりにもかかわらず、丁寧に対応していただきまして、誠にありがとうございました。
こちらで理解したその時の説明については、同封の『回答』を参照して下さい。

その際の回答や、今後のアスベスト対策に関し、次のいくつかの点についてお伺いしたいので、お答え下さい。

  1. 7月3日の回答について

    7月以降、静岡県の関係各課や静岡市などから、アスベスト対策についてお話をお伺いしてきました。
    その過程で、環境保全課での回答の中に、いくつか事実と異なる説明があったことがわかってきましたの で、あらかじめお伝えし、それに対する見解を求めます。

    1. アスベストに関する広報活動ついてお伺いした際、昭和62年当時、広報で流している、当時は、 市 の広報などでも流していると思う、とのお話でした。
      その後、昭和62、63年当時の市や県の広報を 探してみましたが、 アスベストに関する記事は見つかりませんでした。

      県の広報課にもお願いして探していただきましたが、該当する記事についてはわからないとのことで す。

      また、アスベストについての調査研究が行われているかどうかお聞きしたところ、 学者の論文や情報 などは調べているということで、持ってきて示して下さったのは、『公害と対策』1989年 NO.14 でした。
      しかし、これは、「浮遊粒子物質をめぐる諸課題と対策動向」というもので、特にアスベスト に関する記事ではありませんでした。

      さらに、この回答は、同封した環境保全課長様宛ての手紙にもありますように、 平成8年 4月25日付けで、環境庁大気規制課から、平成7年度環境庁委託業務結果報告書 『構築物の解体・撤 去等に係わるアスベスト飛散防止対策について』(以下、環境庁報告書という) という報告書が、送付 されているということに全く気づかずになされたものであって、 なぜ今アスベストを問題にしなければ ならないかという問題意識さえもない状況で行われたものでした。

      丁寧に対応していただいたのにもかかわらず、どうしてこのような結果が生じているのか、アスベス ト問題に関する県環境保全課の考え方と、県民からの質問に対する基本的な姿勢について疑問を感じま すが、いかがですか。

    2. アスベスト除去工事について融資制度はあるかどうか質問した際、財政的援助について、 汚染者負担 の原則から、融資制度等はないと説明されました。

      しかし、1995年4月から、特定の条件を満たす建築物については、建築物の維持補修に関する 融 資制度が、吹き付けアスベストの飛散防止工事にも適用されるようになっているのではないでしょうか。 また、神戸では、震災の後、吹き付けアスベスト除去工事は、公費でできるようになったようですし、 東京都では、アスベスト飛散防止のための資金については、公害防止資金融資制度があるということで す。

      多くの人の健康という、より重要な利益を守るためには、汚染者負担の原則が適用されないことは、 この他にも、いろいろな例があるのではないでしょうか。静岡県において、アスベストの除去工事に対 する融資制度がないという説明と、その理由について、汚染者負担の原則をあげることは、この場合、 適切ではないと考えます。

      先ほどあげました、環境庁報告書の96頁にも、「アスベスト除去に係る経費への低利融資や優遇税 制の導入等の支援措置の検討が必要である」とあります。
      アスベストの飛散防止対策の重要な一つとして、特別な融資制度やその他の財政的補助が是非とも必 要であると考えますが、いかがでしょうか。

    3. 丸子職員住宅以外の解体工事について、法令に反して工事が行われている事実がないかどうかという 質問に対して、環境保全課ではわからないと回答され、そのようなことはないと信じるとお答えになっ たように記憶しております。

      ところが、静岡土木事務所で、最近行われた解体工事の工事の内容をお聞きしたところ、同所住宅課 では、アスベスト含有建材について、事前調査などの規定や、届け出等が必要なこと、労働者の安全の ため飛散防止対策が必要であることなどについて、全く知らなかったので、調査や対策は行わなかった と回答しました。

      このような法令に違反する工事によって、現場の労働者が健康を危険にさらされ、周辺の住民が被害 を受ける可能性があること、また、とりわけ、県が法令に反する工事を行うことによって、結果的に大 気汚染や環境の悪化を引き起こしているという問題について、環境保全を目的とし、それによって、我 々の健康を保護しようと努めている局長としては、どのようにお考えですか。

    4. 吹き付けアスベストの除去について、県の多くの職員が、県下の公的施設からはすでに撤去済みであ ると回答しています。
      職員厚生課も、他の団体に対して、文書でそのように回答しました。また、丸子職員住宅の説明会でも、 公社の職員の方がそのように説明しました。

      同様に、環境保全課でも、調査の結果報告があったものについて、平成2年頃までに除去済みである 聞いていると回答しています。

      しかし、これについて、県の情報開示請求により、吹き付けアスベストの除去状況についての文書を 求めましたが、環境保全課、教育委員会を含む関係7課より、該当する文書なしの回答を得、吹き付け アスベスト除去に関する資料は、静岡県では、ほとんど存在しないという結論になりました。

      その後、静岡市の情報公開などにより、静岡市では、7市営住宅団地、43棟、ほぼ860戸で、ア スベストを含む吹き付け岩綿が使われていることがわかってきました。
      これについては、平成2年度に工事が行われましたが、その工事は囲い込み工事であって、一応は他の建材で覆われてはいるものの、 今もなお、これらの住宅には、吹き付けられたアスベストを含有する岩綿が残されたままになっており、 さらに、アスベストを含む吹き付けが使用されているすべての住戸について、確実にそのような工事が 行われているのかどうか確認するため、現在、資料などを求めているところです。

      また、静岡市の沼上清掃工場では、平成7年3月まで、1,156uで、アスベスト含有の吹き付けが使 用された建物が使われており、現在も使用されないまま残されております。

      このようなアスベスト含有の吹き付けについては、吹き付けアスベストと同様に考えられるのですが (『既存建築物の吹き付けアスベスト粉じん飛散防止処理技術指針、同解説』1頁参照)、県の施設に ついては、このような調査自体が行なわれていないようです。

      また、県の住宅課でも、今まで、工法などの違いから、吹き付けアスベストは使用していないと回答 してきましたが、最近の説明によって、使用されているのが、吹き付けひる石であることがわかりました。
      これには、高い含有率でアスベストを含む製品があることから、場合によっては、今後しっかりし た調査が必要になってくる可能性も考えられる状況となっており、住宅課に調査をお願いしているとこ ろです。

      さらに、最近、福祉企画課から、以前にお願いしていた、福祉施設における吹き付けアスベストの調 査についての回答がありました。

      昭和52年に、厚生省から調査の依頼を受けて取りまとめたところ、県下の福祉施設にのうち、民営 12、公営2、計14施設から、吹き付けアスベストが使用されているとの報告があったことがわかり ました。

      その後の対策について調べてみたところ、

      除去済み(確認する文書なし。方法等は不明) 5、 封じ込め 1(民営、保育所 454u。薬剤、 現在の状態などは不明)、 囲いこみ 1(倉庫)、 解体 1(工事方法は不明)、 移転改築中 (取り壊し予定、使用中) 1、 当時のまま使用 5(公営 老人福祉センター機械室 1、 県所 有民営 1、 民営 3)

      という結果だったということです。

      このような事実から、環境保全課を含め、県の職員の方たちが何の疑いもなく行っている、県下の公 的施設から吹き付けアスベストがすでに除去済みであるという説明は、全く根拠のない、事実に反する 説明であるということができます。

      アスベスト問題という、重要な環境問題について、環境保全課も含む県の職員が、このように事実と 全く反する説明をしていることについて、環境問題を取りまとめる担当の部署として、局長はどの様に お考えでしょうか。

  2. 静岡県環境基本条例の条文の理解に関して

    7月の説明以来、環境保全課には、大気汚染防止法上義務づけられている、アスベスト製品製造工場等 についての調査結果を教えていただけないかと、再三お願いしてきました。

    これについては、先程の、同課に宛てた手紙に、質問の趣旨とお聞きする 内容を詳しく説明 させていただいておりますので、それをお読み下さい。

    この手紙についての回答は特になく、結局、情報公開で文書開示を請求する以外にはないということで、 担当者の方には、いったんはそのように申し上げたのですが、こちらとしては、そのよう形で文書の公開 を求めることについては、環境基本条例の趣旨から、どうしても疑問があります。

    静岡県が、今年3月に公布した静岡県環境基本条例には、その前文に、「共に力を合わせて、地球的視 野に立った環境の保全と創造を推進するため」とあり、第17条には、「県民や…民間の団体が自発的に 行う…環境保全及び創造に関する活動が促進されるように、技術的な指導又は助言その他の必要な措置を 講ずるものとする」とあります。
    さらに第18条には、「(上記の)活動の促進に資するため…必要な情 報を適切に提供するように努めるものとする」と規定されております。

    私たちは、阪神・淡路大震災の後で生じてきた深刻なアスベスト問題や、今年5月の大気汚染防止法の 改正を挙げるまでもなく、アスベスト問題は、私たちの健康に重大な影響を与え得る、大切な環境問題の 一つであり、その重要性は、今後、ますます大きくなってゆくものと考えております。今の環境を、より よい状態で今後の世代に引き継いでゆくためにも、今後のアスベストの被害をできるだけ少なくするため にも、私たちが今やらなければならないことは何かを考えることは、大変重要な課題であると考えます。
    この調査は、法令によって義務づけられた調査であるため、法的な根拠が明らかなので、本来ならば、 環境白書や広報などで公開してしかるべき情報とも考えられます。
    このような情報について、県民から再 三提供を求められながら、公表していただけないのは、 どのような理由に基づくのでしょうか。

    改めて、これらの環境基本条例の規定の内容について、お尋ねしたいと思います。

    <また、私たちの要求が、この規定の趣旨に合致しない理由があるとすれば、それは何なのか教えて下さい。

    私達は、静岡県が、上記の内容を定めた環境基本条例がありながら、県民のこのような質問に対して、 十分な説明をせず、情報公開の請求をさせることは、これらの条文の規定に反しているので、間違ってい ると考えています。

    県環境保全課自身が、環境基本条例の趣旨に反し、その規定を実行しないようなことが、ありうるとは 考えられないので、納得できる説明を求めたいと思います。

    アスベスト製品製造工場等に関する調査について、具体的な名称以外の今までのすべての調査結果を教 えて下さい。

  3. 今後のアスベスト対策について

    これについては、『質問とお願い』で詳しく対策を求めているわけですが、 この回答は、先 ほどあげましたように、環境庁からの報告書に気づかずに行われた回答であるため、 アスベスト対策の持 つ必要性と今日的意味について、十分考慮されていなかったので、環境保全課には 改めて回答していただ く必要があると考えておりますが、差し当たって、今の時点ですぐに可能であると 思われる次の7点につ いて、検討していただきたいのでお願い致します。

    1. 来年度から、アスベスト濃度の測定を、環境モニタリングの一つの項目として加えて、常時監視して行く体制を作って下さい。(環境庁からの報告書にも、一般環境モニタリングの必要性について、書かれていました。)

    2. 大気汚染防止法の改正に伴い、住民に改正内容を知らせる過程において、アスベストの危険性や、飛 散防止対策の重要性について、環境保護の立場から丁寧に説明して、注意を喚起するように努め、それ によって、アスベストによる県民の健康被害を、できる限り少なくするように努力して下さい。

      静岡市では、私たちの質問に対して、市の対策などについて、文書で回答して下さるということにな っており、改正については、3千部のパンフレットを作成する予定と承っております。)

    3. 吹き付けアスベストの除去問題について、静岡県の職員が、事実とは全く異なる内容の説明をして、 結果的に、県民に対して、アスベストによる健康被害を防止する必要性を感じないようにさせている、 という事実を重視して、環境教育の一環として、県職員に対して、アスベストについての講習会を行い、 注意を喚起して下さい。

      もし、それが難しいとしたら、文書で、県民の健康を損なう恐れのある、このような間違った発言は 今後は決してしないように、職員に指導して下さい。

    4. 阪神・淡路大震災の際のアスベスト問題について、なぜこのような問題が生じるに至ったのか、 十分に調査して下さい。
      また、地震の際に同様な事態が発生するのを防ぐために、今の時点でどのような対策が可能であるのか という点について、地震対策課や、建築課などと協議し、アスベストの使用状況などについて早急に調査し、 アスベストの飛散を防止するための指導指針などの作成を検討して下さい。
      これに関連して、東京都の『アスベスト対策大綱』『公害防止条例』等(関連する平成6年の告示等を含む)、 神戸市の『震災に伴う家屋解体・撤去工事におけるアスベスト粉塵対策に係る基本方針』、 兵庫県『阪神・淡路大震災における民間倒壊建物の解体撤去工事に関する指針』、横浜市『アスベスト 使用建築物の改修・解体工事指針』等について、その内容を調査し、参考にして下さい。

    5. 環境保護と、県民の健康保護の目的から、アスベスト製品の不使用を、県全体の方針として明確に示 し、県内の市町村や民間に対して、同様の方針を取るように、強く働きかけて下さい。

    6. 県の行う法令に反する工事によって、労働者や住民が、アスベストによる健康被害を受けることがな いように、関係各課に対して、法令を守り、アスベストの飛散を防ぐためできる限りの対策を行うよう に指導して下さい。

      なお、県の工事においては、アスベストの有無にかかわらず、解体工事の作業員に対しては、防塵マ スクの使用を義務づけるように、担当する課に連絡してください。

      (静岡土木事務所では、解体工事の作業員は、以前からマスクを使用することになっていると説明して いますが、丸子の解体工事で見たときは、マスクをしている作業者は見当たりませんでした。この点を お願いする理由は、防塵マスクがアスベスト以外の粉じんによる作業員の健康被害を防ぐために有効で あるばかりではなく、事前調査が十分でない解体現場では、アスベスト含有建材の破砕によるアスベス トの飛散を防ぐことは難しく、なおかつ、作業者が防塵マスクを普段からしていなかったことが、地震 の後の解体現場で、危険なアスベストが使われている場合でも、即座に対応できなかった大きな原因と なったことがわかっているからです。)

    7. 子供たちに、自分の健康は自分で守ってゆくために必要な知識を与え、アスベスト問題をつうじて環 境問題を身近な問題として考えるようにするため、また、地震の際にあわてて対策を取る必要がないよ うにするため、アスベストについて十分な知識を与えてあげて下さい。

      (神戸では、ボランティアの方たちの努力によって、防塵マスクが子供たちにも配布され、学校でもア スベストについての教育が行われたと聞いております。しかし、このように緊急時の対応では、大勢の 子供たちに、十分な知識を持たせ、理解を深めるには限界があり、また、非常に困難を伴います。普段から、十分に基本的知識として教えておけば、災害時にあわてる必要はないと思います。)

  4. このようなお願いをする理由について

    アスベストの危険性については、すでに、以前から国際的にも認められており、欧米諸国等では、使用禁止などの措置が取られたり、使用されなくなってきています。

    日本においては、以前と大差なく、大量に使用されているのにもかかわらず、アスベストによる一般環 境での被害を防ぐための法規制が遅れているという事情から、住民が、アスベストから身を守るため、有 効な対策を求めることが難しい状況にあります。また、労働者をアスベストによる被害から守るために定 められている、労働安全衛生法などの規定も、県の工事で見られるように、公的機関でも知られてすらい ないのが実情です。

    そのような行政の立ち遅れから、アスベストの製造や使用により、今なお新たな潜在的被害者を発生さ せており、このような事態が許されている社会的背景についてみると、我々も国民の一人一人として、真 剣に、自分たちの責任を問いなおしてゆかなければならないと考えます。

    一方、このような国レベルの政策的な遅れを是正するため、他のいくつかの地方自治体においては、自 主的に何らかの方針を定め、飛散防止対策や、使用制限などを住民に働きかけ、被害者を一人でも少なく するための努力がなされています。

    静岡県の場合、すぐにでも大地震が起こる可能性があると心配されているのにもかかわらず、アスベス トによる被害を防ぐために必要な対策が取られていないばかりではなく、先程から申し上げているとおり、 職員や各課の対応から明らかなように、アスベストの問題全般に関して、県全体の関心は低く、アスベス トについてもほとんど知られてすらいない状況です。 阪神・淡路大震災で、大勢の貴重な生命が失われ、その犠牲の上に立って、アスベスト問題が社会問題 として取り上げられてきた事実を考える時、その犠牲の結果として得られた貴重な教訓を全く生かすこと ができず、なんら対策も考えられずにいることに怒りを感じます。

    被災地では、アスベストについての人体実験が行われているという声もあり、今後の呼吸器系の発癌率 に、大きな影響を与えるのではないかと心配されています。

    その中で、このような被害を生じさせている原因として、行政の対応が十分でなかったことがあげられ、 特に、兵庫県の対応については、将来の被害者の発生に対する直接の責任を問うような、強い批判もなさ れてきています。

    突発的に起こった予想もされなかった地震に対して、アスベストの被害を防止する対応ができなかった ことに、そのように強い批判があるのであれば、今の時点で、地震の現実的な恐れがあるといわれながら、 住民からの強い要望があって、それでもなお何ら対策が取られない今の静岡県の状況は、将来において、 批判を受けないで済むとは考えられません。

    社会的にも、薬害AIDSの問題を初め、行政の不作為による責任は、今日厳しく糾弾されています。 今までのところ、日本の場合には、アスベストによる被害は、その多くが表面化していないため、一般的 には明らかになってはいないものの、今後、被害の実態が次第に明らかになってくれば、フランスなど他 の国でみられるように、行政の責任が厳しく追及されることが考えられます。

    そのような事態を避けるためにも、今できることは何か真剣に考え、できる限りの対策を講じて行くの は、行政を担う地方公共団体としての責任であるばかりではなく、それを求めてゆくことは、住民一人一 人の義務であると考えます。

    もう一度、十分に検討して、今できることは何かを考え、対策を立てて下さい。

以上ですが、これらについては、できれば、お話をお伺いする機会を作っていただきたいのですが、 それができないようでしたら、文書でご回答をお願いしたいと思います。 お忙しいところ、申し訳ありませんが、是非とも、ご理解いただき、検討していただけますように、 どうぞよろしくお願い申し上げます。


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