PRTR意見1−アスベストを対象物質に (アスベストについて考える会)
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<該当個所>
「「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に係る対象化学物質(案)について」の「別表1 第1種指 定化学物質」に
<理由>CAS番号 12001-29-5
物質名 クリソタイル
別名 白石綿
発ガン性クラス1 *を加えること。
1 クリソタイル(白石綿)は、わが国で現在使用が認められているアスベスト(石綿)である。
2 クリソタイルの発がん性について
・クリソタイルを含むアスベストの発がん性についての評価は、IARC(国際がん研究機関)で1(人に対して発ガン性がある)、NTP(米国毒性プログラム)でa(人に対する発がんの十分な証拠がある)、日本産業衛生学会で1(人に対して発がん性のある物質)となっており、発がん性の評価についてはほとんど確定している。したがって、クリソタイルは、案において、「発がん性クラス1」に該当する物質である。
3 諸外国の動向とわが国のクリソタイルの輸入量について・別の種類のアスベストであるクロシドライト(青石綿)とアモサイト(茶石綿)は、日本では1995年に輸入、使用などが禁止され、現在では原則的に使用されていない。
・使用禁止とされたクロシドライト(青石綿)およびアモサイト(茶石綿)と、クリソタイル(白石綿)との発がん性の違いについては、特定のがんに対する発がん性について若干の違いがある可能性が指摘されているが、発がん性についての違いを認めていない見解が一般的で、そのような見解に立つならば、クリソタイルは、日本ですでに禁止されているこの2種類のアスベストと同様の発がん性を持つ物質と考えられる。
・クリソタイルは、日本では現在も使用が認められているが、ヨーロッパ諸国では、1880年代から使用を禁止する国が増え、最近でも、ベルギー、イギリス、EUなどで相次いで使用が禁止されている。
4 大気汚染防止法による規制と環境への影響について・クリソタイルは、減少傾向にあるものの、現在もわが国で年間10万トン以上が輸入されており、この輸入量は、ほとんどが使用禁止となったヨーロッパ諸国や、使用が禁止されてはいないが、使用量が数万トン以下に減少しているといわれるアメリカなどと比べ、世界でも多い輸入量となっている。
・アスベストは、大気環境への汚染を防止する観点から、1989年の改正によって「特定粉じん」とされ、アスベストを飛散させる施設等に対する規制が行われている。
5 アスベストによる被害者数について・この規制に基づいて自主測定や、各自治体等による立入検査等が行われているが、個々の調査によっては、必ずしも信頼できる調査が行われているとはいえない実態もある。
・大気汚染防止法では、有害大気汚染物質について、「事業者は、その事業活動に伴う有害大気汚染物質の大気中への排出又は飛散の状況を把握するとともに、当該排出又は飛散を抑制するために必要な措置を講ずるようにしなければならない。」と規定している。アスベストは、この 条項で定義されている「有害大気汚染物質」には含まれていないが、大気汚染防止法により、それ以前より発がん性のある大気汚染物質として規制対象とされていることからすれば、この条項を類推して解するべきと考えられる。
・アスベストは環境蓄積性があることから、1997年の大気汚染防止法の改正により、建築物の解体による飛散防止を目的として規制が強化された。
・国際化学物質安全性カードInternational Chemical Safety Cards(ICSC)でも「この物質は環境にとって危険であると思われる;大気汚染への影響に特に注意すること。」とされている。
・1997年にフランスでアスベストが禁止された際、フランスのアスベストによる死者は年間2000人とも3000人とも報道された。イギリスでは、アスベストによる死者は現在年間3000人と見積もられており、現在でも増加中で、今後、年間の死者が10000人になることもありうるとされて いる。
6 クリソタイルに関する情報の得難さの現状について
(Asbestos-related diseases already kill an estimated 3000 people each year in the UK. This number is expected to go on rising well into the next century. It may reach almost 10 000 deaths each year. −イギリスHSE ホームページ"Asbestos dust :thehidden killer! Are you at risk? "より引用)・アメリカで、アスベストを原因とする数多くの集団訴訟が提起され、主要なアスベスト製造会社であったマンビル社が倒産したことは有名である。
・わが国の被害者数は現在のところ明らかとされていないが、現在もなお継続して使用されつづけていることや、増加傾向にある悪性中皮種の数から見て、今後増加することが予測されている。
・発がん性、有害性が認められ、大気汚染防止法等で規制が強化されていながら、現在、クリソタイルの輸入量(原綿以外のものの輸入量)、国内生産量、生産、使用の実態、流通過程、輸出量等の情報を得ることは困難で、国内における生産過程から廃棄処理の過程に至る動向や、使用量、リサイクル量、廃棄処理量、環境中への排出量に関連する情報を得ることはきわめて難しくなっている。
7 代替化の促進について・日常的に得られる情報が極端に少ないため、現在でもアスベストが使用されていることや、その危険性についての認識が社会の中に定着しておらず、自分自身が取り扱っているものがアスベストであることを知らずに取り扱っていたり、危険性についての関心がいままに安易に解体工事を行い、周辺環境や利用者の健康を危険にさらしてしまう事態が多く発生している。
・1997年に、大気汚染防止法が改正され、解体工事に伴うアスベストの飛散を防止するための条項が加えられたにもかかわらず、このような情 報と危険性の認識の欠如によって、実効ある対策が立てられずに解体工事を行っている場合もあり、それによる環境汚染を引き起こしているこ とも考えられる。
・クリソタイルが対象物質として認定されることによって、このような情報の不足を補うための情報が直接に社会に提供されるわけではないが、ある程度の使用の実態が明らかにされたり、情報提供がすすめられることによって、アスベストに対する社会の関心を高め、現状を把握することに役に立つことが考えられ、その結果、情報が極端に少ないことによってもたらされている、環境や健康に対する危険性や被害を防止す ることが期待できる。
・労働安全衛生法等によって、アスベストはできるだけ代替物質に移行するように求められているが、現実には、生産、使用の実態がほとんど不明であることから、代替化がどのようにしたら促進されるのかという方法を探るための基礎となる情報がほとんど得にくい状況が続いている。
・クリソタイルが対象物質となることによって、国内での動向を把握するための情報が得られるようになり、ある程度の情報の提供が行われるようになれば、使用者の側にも、代替化を促進しようとする意欲が生じ、結果的に代替化の促進につながることが期待される。代替化の促進は、環境保全という目的のためにも有益である。
(1999.12.18)