〜 有害物質を排出する側の責任−情報提供という責任−について考える 〜


二つの異議申立て

保護される法人情報-法規制の意味とは


 相談の結果、大気汚染防止法の適用を受ける、アスベスト関連の事業所名などを公開しないことを決めた県の担当者たちが、開示したら「企業に迷惑がかかるかもしれない」と考えた時、具体的にどのような問題が出ることを想定したのかはわからない。

 ただ漠然と、過剰反応が起こることによって企業活動に妨げになるかもしれないということを心配したようだ。しかし公開するかどうかという問題は、はたして本当にこういう問題なのだろうか。
 影響の大きさや反応を考える前に、その情報が公開されるべき情報であるかどうかという点が真剣に議論されたのだろうか。

 大気汚染防止法の規制を受けているアスベスト関連の工場等(「特定粉じん発生施設」を所有する事業所など)を、大気汚染防止法が規制対象に含めている理由は、発癌物質であるアスベストが大気中に漏れ出すことによって、大気中のアスベスト濃度が上がり、住民や環境に悪影響を及ぼすかもしれないということを恐れるからである。

 ずさんなアスベストの管理によって、工場の周辺を中心にアスベスト濃度が高くなり、住民の健康に影響を及ぼすことが懸念されていた状況を踏まえ、1989年の大気汚染防止法の改正によって、アスベストは「特定粉じん」とされ、アスベストを大気中に拡散する恐れのある一定の施設を所有する工場等が規制対象になった。その結果、都道府県などに、このような施設に対して立ち入り調査をする権限など、一定の監視する役割が与えられたのである。

 監視する役割が住民に与えられているわけではないが、立ち入り検査の根拠になっている大気汚染防止法の規制の意味するところは、まさに住民の健康保護のため監視しようとしたことにあったはずなのだ。
 アスベストを排出する工場に対して、行政機関がどのように監視する役割を果たしているかどうか、確認することは、住民にとって必要なことであるばかりか、大気汚染防止法上も意味のあることだろう。

 その結果、ずさんな管理が問題になって、もし万が一、心配しているような騒ぎが起こったにしても、そういった騒ぎが、住民や企業の、アスベストに対する知識の向上や意識を高めるために役に立つことを考えれば、そのことが悪い結果に結びつくと決め付ける必要もないはずだ。

 県の条例では、今回の非開示の理由となった「法人の社会的な地位が損なわれると認められる場合」であっても、人の生命や健康を保護するためなど、「開示することが公益上必要であると認められる」情報は、非開示情報からは除外されている。
 今回、事業所名などの法人情報が非開示とされたのは、この除外事例にはあたらないと判断されたということになる。言いかえればそれは、大気汚染防止法によって規制対象にされているということが、この「公益上必要であると認められる理由」には不十分だと判断されたということを意味する。それでは、わざわざ改正によって「特定粉じん」として規制対象に加えた意味は十分に生かされることになるのだろうか。

 しかし、ともかく県は、この法人情報を非開示にすることを決めた。  そうすることによって、私たちの知らないところで、アスベストを使っている企業が、住民に知られないまま企業活動ができるように、県はあたたかく保護する結果になってしまった。

 大気汚染防止法による規制は「公益」にもあたらなかった・・・そういう意味なのである。

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