浜岡原発差止裁判に参加して−こんなことがよくわからない−(目次)


(6):非常に何だ?

(2002.10.6)

S1が設計用最強地震に基づく基準地震動で、S2が設計用限界地震に基づく基準地震動・・・などと言うと、こんなことよくわからないと思って自分を責める人がいる。

遺伝的形質とか、高経年化(老化ではない!)とか、そういうことが頭をよぎるためである。・・・自分もそうだからよくわかる。

最強だというのにもっと強い地震があるのだというし、S1が歴史上の地震のことかなと思えば活断層でも評価するのだという。

その上、重要な施設はS1の地震力に耐えられるようにして、特に重要な施設はS2に対して安全機能が保たれるようにするといわれても、些細な箇所が壊れて施設全体が危険な状態になることだってあるんじゃないかとか、結局、一番大きい地震に耐えるようにすればいいんじゃないのとか・・・そんなことが、頭の中をぐるぐると駆け回って、S1だのS2だの、そんなものいいかげんにしてくれと思ってしまうのだ。

でも、それを悲観する必要はない。

今年8月に行われた耐震設計指針検討分科会、地震・地震動ワーキンググループの会合では、参加した10数名の委員たちが、S1、S2をどうとらえるかという問題をめぐって議論していた。

それはあたかも、現在の耐震設計審査指針の解読のようだった。

なぜ解読をしなければならないのかといえば、S1やS2がどうして今のように決められているのか、うまく説明がつけられないからだ。

委員からはこんな意見も出た。 「それでこれは非常に、1978年という時点でとにかく物をつくるために何らかマニュアル化しなければいけないという上では仕方なかったとは思いますけれども、歴史地震学あるいは地震活動、地震発生の研究の立場から見ると、非常にこれは大きな問題を含んでいると思います。」

課長補佐は、「特に活断層からその地震を今2つに分けているというところだけを見てしまいますと、非常に今までもこういうところで議論がありますけれども、そこだけでは非常に何だというような議論もありますし・・・」と話した。

それは、特にこの会合に限ったことでもなかった。

同分科会の会合では、「基準地震動のS1地震動、S2地震動の位置づけというのが、指針の文章から非常に明確には読み取りづらい」、「S1の意味がわからない」、「地震動という観点から考えると、S1とS2は区別できないのではないか。区別する必要がないのではないか」、などの発言が目に付く。

現に、この指針にしたがって耐震性が認められた50機もの原発が動いている。

指針ができてから20年以上もたった今になって、耐震設計の根幹をなすこの指針が何を意味しているのか、大勢の専門家たちが集まって解読しようとしている状況を、私たちはどのように理解したらいいのだろうか。

設計用地震の大きさなどの判断に用いる「村松の式」や「金井の式」などの数式に、理論的な欠陥があることは、すでに了解事項となっているようだ。

それでも、「欠陥」という言葉を打ち消さなければならないわけは、現在の指針の策定やそれ以降の耐震審査に、実際にかかわってきた専門家も交えた議論をしなければならないという限界があるからだろう。

権威や体制や、学者間の複雑な人間関係に縛られたがんじがらめの議論の末に、前と同じ「つぎはぎだらけの指針」が出来上がるのなら、何十年もたってまた解読を繰り返さなければならないことになる。

耐震設計の基礎はこんな形でしかないことを目の当たりにして、自分の脳細胞のせいだけではなかったというささやかな安堵感は、駿河トラフの海底断層あたりに、きれいさっぱりと吹き飛んでしまった。

つづく




*参考:
原子力安全基準専門部会 耐震指針検討分科会 地震・地震動ワーキンググループ 第3回会合速記録
http://nsc.jst.go.jp/senmon/soki/taisinjisin/taisinjisin_so03.htm

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*参考:
ドイツは、以前は、安全地震(SE)と設計地震(AE)の2種類の基準地震を考慮するとしていたが、実際の耐震設計で設計地震によって設計が決定されることはないとして、1990年に安全地震(SE)に相当する基準地震に一本化された。(「耐震指針検討分科会」資料より)



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