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石綿対策全国連絡会議
第14回総会議案


2000年12月4日 東京・全建総連会議室


はじめに

「アスベスト死」年2千人、5年間で約1万人

2000年2月16日付けの毎日新聞朝刊は一面トップ(一部地域では第3面)で、「『アスベスト死』2,243人、厚生省調査、過去4年間、国内規制立ち遅れ」と報じました。厚生省の人口動態統計(死亡診断書の記載内容に基づく死亡原因調査)によって、「アスベストを原因にする特有のがん」である中皮腫による死亡者数が、1995-1998年の4年間で2,243人にのぼっているとがわかったというもので、これは、「アスベスト対策情報」No.27(2000.2.1)50頁で皆さんに報告したデータです。
昨(1999)年の中皮腫による死亡件数が明らかになりましたが(13頁の表参照)、合計647人と前年比で14%の増加、1995年から5年間で約30%の増加です(1995年500人、1996年576人、1997年597人、1998年570人、1999年647人、5年間の合計2,890人)。恐れていたとおりの増加傾向をしているものと思われます。中皮腫による死亡1件につき、アスベストによる肺がんによる死亡が少なくとも2件以上と言われていますから、中皮腫と肺がんを合わせたアスベストによる死亡者数は、少なくとも、1999年で1,941人=約2千人、この5年間では8,670件=1万人近くにものぼっているものと予測できます。
にもかかわらず、日本のアスベスト輸入量は、1998年は117,143トンという高水準を維持しています。1997年の176,021トンから1998年には120,813トンへとかなり減少したとみえたのは、やはり不況を反映したものにすぎなかったのでしょうか。日本は、いまや世界最大のアスベスト輸入国です。

WTOのパネルが禁止措置を支持する報告

前述の新聞記事は、すでにアスベストの全面禁止を導入している13か国の国名のリストをあげて、EU(欧州連合)が昨年、遅くとも2005年までにアスベストを全面禁止にすることを決定したこと、日本の消費量が今なお約12万トンで、ロシアなどとともに世界トップクラスであることも紹介しています。昨夏のEU決定を日本のマスコミが報道したのもこれが初めてのことです。
また、6月17日付けの日本経済新聞朝刊は、ジュネーブ特派員発で、「世界貿易機関(WTO)の紛争解決処理小委員会(パネル)は、フランスが健康への影響を理由に石綿(アスベスト)輸入禁止措置を導入、カナダと欧州連合の通商摩擦に発展している問題で、EUの主張を認める中間報告を16日までにまとめ紛争当事国に提示した。今後、上訴などにより判断が変わる可能性はあるが、WTOが健康保護を目的に例外的な貿易措置を講じることを認めたことで、通商政策への影響が予想される」と、報じました。
WTOの紛争解決パネルがフランス―EUのアスベスト全面禁止を支持する中間報告をまとめたというニュースは、6月14日のロイター等の報道でも確認され、その日のうちにあっと言う間に世界中をかけめぐり、私たちにところにも届きました(残念ながら同日行った通商産業省交渉には間に合わず、同省もこの情報を入手していませんでした)。
これは、WTOの紛争解決のルールが1995年に開始されてから、そのルールのもとで、貿易を制限する措置をパネルが認めた初めてのケースとして、また、自国民の健康を守るという国家の主権の行使についてWTOがどういう判断を下すのかという点からも国際的に注目を集めていました。
パネルの報告は9月18日に正式に公表され、60日以内に上訴されると上級委員会で審理、報告書がまとめられたうえで採択されることになりますが、先例から考えると決定が覆されることはなさそうと言われています(上級委員会報告書の採択はパネル設置から12か月以内とされていますが、パネル設置から6か月以内とされているパネル報告がすでに大幅に期間を遅れています。パネル設置は1998年11月25日)。なお、カナダは予想どおり10月23日に上訴しました。

労働組合の国際的キャンペーンも始動

昨年のEU決定直後の7月27日に、世界第4位のアスベスト生産国(1998年198,000トン)であり、その70%を自国内で使用しているというブラジルの環境大臣が、「アスベスト・ロビーからの強力な抵抗に直面するだろうが、われわれの意向はヨーロッパの決定に続くことである」と表明しました(世界のアスベスト生産国の主要6か国は、ロシア、カナダ、中国、ブラジル、ジンバブエ、カザフスタンで、この6か国で世界の生産量の約93%を占めています―1998年)。
すでに日本より一歩進んだアスベスト禁止措置を導入している国々でも、最近、例えば、オーストラリア(現在の原料アスベストの年間輸入量はわずか1,500トンです)、サウディアラビア等の湾岸諸国、南アフリカ、アンゴラ等のアフリカ諸国やブラジル以外のラテンアメリカ諸国においてもアスベスト全面禁止導入の検討を進めていると伝えられています。
WTOパネル報告の内容が世界をかけめぐった直後、6月15日に、国際自由労連(ICFTU)はそのホームページ上で、「アスベスト: 死のビジネス」という一連のニュース記事を発表、続いて6月28日のオンライン・ニュースで、先週のWTOのニュースを受けて、「世界の労働組合は、アスベスト使用の世界的禁止のためのキャンペーンを開始している」ことを発表しました。
この労働組合による国際的キャンペーンの特徴は、アスベスト禁止によって雇用に影響を受ける可能性のある労働者のための「公正な移行(just transition)」、「アスベストの使用禁止と相対的に安全な物質への代替を提唱している(が、強制はしていない)ILO第162号」の批准を促進しつつ、世界的禁止と代替化について世界労働機関(ILO)・世界貿易機関(WTO)との協議を早急に進めるというものです。(「アスベスト対策情報」No.28(2000.9.30)で関係資料を紹介)
後述する世界アスベスト会議の労働組合からの参加者によるワークショップにおいても、「公正移行」のこと、「アスベスト禁止=雇用喪失か雇用確保か、ではなく、アスベストか安全な仕事か、という選択の問題」であるということが強調されました。
いずれにしろ、EUに続く各国の動き、世界の労働組合によるキャンペーンの開始と、アスベスト全面禁止に向けた世界の潮流はいよいよ確実なものになってきました。

世界アスベスト会議

このような情勢の中で、9月17-20日、長年ブラジルのアスベスト製品製造業のメッカであったオザスコ市(サンパウロの西隣に位置する工業都市)において、「世界アスベスト会議―過去、現在、未来」が開催されました。この世界会議は、科学者、アスベスト疾患被災者、労働者、市民、政府当局者等々、様々な立場の人々が一堂に会し、しかも、アスベストの輸出国と輸入国、いわゆる先進国と開発途上国、すでにアスベストを禁止した国と禁止していない国の代表が顔をそろえて、アスベスト問題の過去と現在を検証し、未来に向けた共通の解決策を探ろうという、初めての画期的な試みでした。
五大陸のすべて35か国以上から、300名をこえる人々が参加しました。日本からも石綿対策全国連絡会議の代表として4名が参加し、全体会議の場で、日本におけるアスベスト問題の現状と石綿対策全国連絡会議の取り組みについて報告しました。くわしくは別途報告される予定ですが、世界的なアスベスト被害の実状と問題点とともに、とりわけアスベスト産業が規制の強化を妨げる一方で規制の少ない国へと生産や消費の場をシフトさせてきている中で、世界的なアスベスト全面禁止こそが唯一の解決の道であること、しかし、禁止は問題解決の第一歩であってその後にも共通して解決していかなければならないこと、などが明らかにされたと思います。
世界会議の名誉議長を務めたオザスコ市長は、同市議会にアスベスト禁止条例を提案することを明らかにして、自分たちはひとつの自治体レベルでしか行動できないが、私たちのとるこのステップは地球規模のアスベスト禁止の闘いを強化し、その流れに統合していくものと信ずると宣言しました。労働組合参加者によるワークショップは、「世界的アスベスト禁止に関する労働組合の声明」をまとめ、そのための労働組合のネットワークを強化していくことを確認しました。

● 行動なしにはなくならない

一方で、まるでこの世界会議に対抗するかのように、11月22-24日にインド・ニューデリーにおいて、「クリソタイル・アスベストに関する国際会議」が計画されています。これは、インドのアスベスト・セメント製造業協会とアスベスト情報センター、国際アスベスト協会(アメリカ)、アスベスト研究所(カナダ)の主催によるもので、「責任ある使用の強化」をテーマに掲げています。
日本も含めたアジア等の市場を守り、拡大しようという国際的なアスベスト産業の決意の表明とも言えるものでしょう。世界の潮流が確実にアスベスト禁止に向かっているからと言って、放っておいても日本も禁止するだろうと楽観するわけにはいかないのです。日本だけが取り残されてしまうという可能性すら、十分に残されているのです。
世界アスベスト会議で得た教訓も生かしながら、2000年度を、日本のアスベスト禁止に向けた正念場と考えて、取り組みを一層強化することが求められています。

T 1999年度活動報告案


1. 第13回総会・現場報告会

1999年11月19日に、東京・全建総連本部会議室において第13回総会を開催し、引き続いて、この間各地で労働組合、市民が取り組んでいる様々なアスベスト問題についての報告会を開催しました。報告会の内容は、「アスベスト対策情報」No.27(2000年2月1日)でくわしく紹介されていますが、盛りだくさんの内容で、予定していた時間をこえても参加者が熱心に聞き入っていました。

2. 化学物質管理促進法―PRTR制度の対象物質等に関するパブリック・コメント

昨(1999)年、「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律(化学物質管理促進法)」が成立し、来(2001)年度から、新たな化学物質管理手法として、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度が実施されることになりました。PRTR制度は、直接化学物質を規制するものではありませんが、事業者に、環境に有害な化学物質の大気、土壌等への排出量を把握、登録させることによって、その適切な管理を促進しようとするものです。
昨年11月19日に、中央環境審議会等から、対象物質、製品の要件、対象事業者の案が示され、直接広く国民の意見を求めるパブリック・コメント手続が実施されました。石綿対策全国連絡会議では、アスベストは早期に全面禁止することが第一ですが、既存のアスベスト対策を含め、あらゆる化学物質対策において高い優先順位が与えられるべきであるとの立場から、対象物質にアスベストを含めること等の意見を11月15日付けで提出しました(1998年の関係省庁交渉以来要望してきたことです。「アスベスト対策情報」No.27(2000.2.1)に全文掲載)。
結果的に、審議会は私たちの意見を採用して、対象化学物質にアスベスト(石綿)を追加し、また、それに伴って製品の要件においても、石綿を含有する製品であって、取り扱いの過程で精製や切断等の加工が行われるものも対象とするという最終報告をまとめ、そのまま関係政省令に盛り込まれました。
これは、1999年度から政府・全省庁で実施されるようになったパブリック・コメント手続の中でも画期的な成果です。
ただし、建設業や労働者20人以上の事業者は対象外になっており、その部分を含めて報告から漏れる排出源からの排出量は国が推計することとされていることを含めて、今後の制度の運用の実態を監視していく必要があります。また、同法に基づいて策定された「化学物質管理指針」において、「指定化学物質等取扱事業者は、指定化学物質等の使用の合理化に資する代替物質の使用及び物理的手法等の代替技術の導入を図ること」とされていることを、単なる精神条項に終らせない努力も必要です。そして何よりも、管理の強化を今後もアスベストを使用し続ける言い訳にさせてはなりません。

3. 日本産業衛生学会の「許容濃度」の勧告

昨年5月に、石綿対策全国連絡会議は、日本産業衛生学会、同許容濃度委員会、同石綿許容濃度小委員会に対して、「日本におけるアスベスト禁止の実現に向けた要請」を行いました(要請文は、「アスベスト対策情報」No.26(1999.8.1)参照)。ここでは、@日本におけるアスベスト(クリソタイル)禁止の早期実現、Aアスベスト被害の実態の把握・将来予測、B現在なおアスベストに曝露する可能性のある労働者に対する防護措置の一層の強化、のために格段のイニシアティブを発揮していただくよう、要請したところです。
本年4月25日、日本産業衛生学会許容濃度等に関する委員会は、石綿(アスベスト)に関する「許容濃度」を提案しました(「アスベスト対策情報」No.28(2000.9.30)参照。正確には、「発がん物質の過剰発がん生涯リスクレベルに対応する評価値」の「暫定提案」ということになります。「日本人の石綿曝露による肺がんと悪性中皮腫の合計生涯リスク評価値として、曝露がクリソタイルのみのとき、10-3リスクを0.15繊維/ml(10-4 0.015繊維/ml)とすることを勧告する。また曝露がクリソタイル以外の石綿繊維を含むときは、値の単純化も考慮して10-3リスクを0.03繊維/ml(10-4 0.003繊維/ml)を勧告する」としています。1年間、学会員の意見を求め、特段の問題がなければ、来年、正式な評価値に格上げされます。
現在の労働省が定めている作業環境評価基準(管理濃度)は、クリソタイルを含めクロシドライトを除く石綿については2繊維/cm3、クロシドライトについては0.2繊維/cm3です(1995年の労働安全衛生法施行令改正によってアモサイト及びクロシドライトが禁止される以前に製造・輸入されたアモサイト及びクロシドライトについて「従前の例」により適用される場合を含めて)。
これは、じん肺(石綿肺)の生涯リスクのみに着目して、これを10-3(1,000人に1人)に抑えるという観点から定められたものとされています。したがって、同じ10-3(1,000人に1人)リスクレベルでいっても、約10分の1に強化すべきであるという根拠になります。
石綿対策連絡会議では、労働省に対して、アスベストに係る作業環境の管理濃度を0.1繊維/cm3以下に引き下げるように要求してきましたが、今年6月15日の交渉では、日本産業衛生学会の勧告もふまえて、近いうちに見直し作業を開始すると回答しました。この作業を、アスベストの全面禁止の検討も含めたものに拡大することが強く求められています。

4. 行政への働きかけ

今年度も関係省庁との交渉を、今年6月5-15日にかけて、6つの省庁と実施しました。(くわしい報告は、「アスベスト対策情報」No.28(2000.9.30)を参照してください。)

@ 共通要請事項
全省庁共通の要請事項は、「アスベスト禁止に向けた国際的な情勢を踏まえ、日本においてもクリソタイルを含めたアスベストの輸入・製造・使用等の禁止を早期に実現するようイニシアティブを発揮されたい。国際的な情勢に関する貴省としての認識もお聞かせ願いたい」というもの。
労働省は、「ご指摘のとおり、クリソタイルの使用禁止を行う国が増えているということは承知しているので、今後とも国際動向を踏まえて可能な限り情報収集等を行って、その結果をふまえたうえで今後の検討をしていきたいと考えている」。聞こえはよいが、典型的な官僚答弁と言ってよいでしょう。
国際情勢と規制強化の必要性をそれなりに認識している環境庁は、禁止については、「当庁には何ら権限が与えられていない問題なので、無理」。
通産省も主に関係業界からの情報によって情勢はよくつかんでいます。ブラジルの環境大臣が禁止の意向を表明したことについても、「業界の方からそう言う動きがありそうだという話があった」とのこと。しかし、「EUの後に他の国がどこも続くという状況でもない」という発言もあり、通産省としては(これまでどおり)、「関係法令に基づく適正な管理を進めていくという立場。今般、PRTR法によって管理が一層強化された」。しかし、「積極的に代替化は進めていく」という立場です。
昨年、「市場の選択に委ねる」と最悪の回答だった建設省は、今年は、「ノン・アスベストの促進はやるべきだ」と明言しました。(ただし、「建築材料として通常使用される状態での顕著な有害性は確認されていないと思うので、建築基準法で禁止することが必要な状況という認識にはいたっていない」。)
昨年、「クリソタイルというタイルにはアスベストが入っているのですか?」という担当者の発言に驚かされた厚生省ですが、今回はそのような無知ぶりはさらけ出さなかったものの、どうも、学校の吹き付けアスベストが社会問題になった当時、昭和63年に通知を出したことで自らの仕事は終っているという認識をくずしたくないようです。中皮腫による死亡者が4年間で2,243人にものぼっているという事実に対しても、「アスベストと密接に関係しているということは言われている」としたものの、実態の把握や将来予測を含めて、何らかのアクションをとるとは最後まで言いませんでした。

A 厚生省
前述のとおり、国民の健康に対する重大な脅威になりつつあると考えられる石綿関連疾患について、何ら前向きの姿勢を示そうとしないことには納得できません。
具体的に成果があったのは、国立大阪南病院の建て替え工事に関する情報の開示について、地元から当該関係者も参加して、保険医療局国立病院部の担当者と、情報は特定機関だけに限定せずに関係者に開示する、これは当該病院についてだけでなく国立病院部の方針と名言、同病院の件についても後日実行したということです。
文京区さしがや保育園の事件の教訓を全国化して、実効性ある再発防止対策をとること、特定の建築物の衛生管理基準(浮遊粉じん、CO、CO2)や環境衛生監視員による立入検査等をアスベスト対策に活用すること、水道用アスベスト・セメント管のノン・アス水道管への取り替えの状況、アスベスト廃棄物および廃棄物処分場の問題等についてやりとりしました。
今年、廃棄物処理法が排出業者責任の強化という観点から改正されたものの、アスベスト廃棄物(廃石綿)がどれくらい産廃処分場に持ち込まれているのかという実態すら把握しようとせず、新たに制定された建設リサイクル法との連携についても検討されていないようです。

B 運輸省
運輸省については、昨年同様、海上技術安全局と、船舶のアスベスト対策にしぼってやりとりをしました。国際海事機関(IMO)における、船舶へのアスベスト使用を原則禁止するという国際海上人命安全(SOLAS)条約の改正作業は順調に進行中で、2002年7月から発効する見込み。現存船に使われているアスベスト管理のガイドライン作りも進行中、廃船舶に使われているアスベストが有害廃棄物の国境移動規制に関するバーゼル条約の対象になるかどうかの検討作業も行われるということでした。

C 環境庁
大気汚染防止法が1996年に改正され、建築物解体等に係るアスベスト防止対策が盛り込まれて以来、環境庁では毎年同対策に関連した施策を講じてきており、最近は積極的に私たちの意見や提案を求めようとする姿勢がうかがわれます。1998年度施策では、『建築物解体等に係るアスベスト飛散防止対策マニュアル』のリニューアルが行われましたが、出版前に私たちの意見を聞く機会をつくり、意見のほとんどが取り入れられています。
同年度は他にも2つのことを実施しており、ひとつは、「海外における石綿規制の動向」と「石綿製品の代替化の動向」に関する委託調査。前者についてはその不十分さを指摘、後者は建材製造事業者(団体)・建設事業者(団体)に対するアンケート調査でしたが、充実・発展させてほしいと要望しました。環境庁も1999年度施策として、騒音・振動関係の届出の窓口になっている自治体を通じた周知実態等の調査を行っているとのことでした。もうひとつは、札幌市と千葉市の協力を得て実施した「石綿使用建築物事前把握手法等調査」で、報告書を提供していただきました。これも重要な課題であり、ぜひ、全国の自治体等に示せる「事前把握手法」を開発するよう要請しました(私たちの側からの積極的な提案が必要です)。
同法による解体等作業の届出が必要な建物の要件、対象石綿製品の範囲の拡大や一般環境中のアスベスト濃度のモニタリングのあり方などについても議論しました。

D 通商産業省
今回、通産省においても毎年、「石綿含有率低減化製品等調査研究委託事業」として様々な調査が行われているほか、アスベスト製品製造企業等に対するヒアリングも毎年実施してきていることが明らかになりました。
フランスのアスベスト禁止措置が技術的貿易障壁だとするカナダの世界貿易機関(WTO)に対する提訴については、交渉当日(6月14日)に紛争解決パネルがカナダの訴えを退ける報告をまとめたという情報が流布されたのですが、交渉の時点では私たちも通産省も情報を入手できていませんでした。
化学物質管理促進法や労働安全衛生法によるMSDS(安全データシート)は一般消費者を対象にしていないことを問題にしました。一般消費者への情報提供としては家庭用品品質表示法があるということのようですが、同法によってはアスベストの含有の有無・含有率や危険性に関する一般消費者への情報提供は実現できていません。
新たに制定された化学物質管理促進法については、共管の通産省、環境庁、厚生省に要請を行いましたが、とくにPRTR制度の運用(環境への排出量の把握方法等)の具体的検討は、これからということのようでした。

E 建設省
約50年ぶりの建築基準法改正の細目を定める政省令、告示等が定められましたが、結局、耐火・準耐火構造、防火構造、不燃材量等を定める告示等に、アスベスト含有建材の記述が残ってしまいました。パブリックコメント段階での意見提出も行われたのですが、「未だ、国内においては、工場等で石綿制のものが成形されており、多く使用されているという実情を踏まえ、従来どおりの規定とした」というものです。
今年新たに制定された建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律、一部通産省も共管)は、主目的はリサイクル(再資源化)ですが、再資源化のための分別解体等の実施(省令で「分別基準」が示される予定)、新たに創設されることになる解体工事業者の登録制度や、再資源化できない建設資材としてのアスベスト建材の取り扱い等々が問題になってきます。今年5月31日公布で、解体工事業者の登録等については1年以内、分別解体・再資源化の義務等については2年以内の施行とされています。
なお、建設省では、1998年12月に改正した建設副産物適正処理推進要綱により、廃棄物処理法で特別管理産業廃棄物とされていない石綿セメント板、ビニール床タイル(Pタイル)、珪酸カルシウム板、ロックウール化粧吸音板等の「非飛散性」アスベストも、「粉砕することによってアスベスト粉じんが飛散するおそれがあるので、粉砕しないように解体するとともに、安易に破砕して粉じん飛散を起こさないよう、できるだけ直接埋立処分することが望ましい」と行政指導しています(建設省自身の直轄工事では契約事項として遵守を求めているとのこと)。

F 労働省
前述のとおり日本産業衛生学会の許容濃度委員会がアスベストの「許容濃度」を勧告したことも踏まえて、かねてから要請してきた、すべてのアスベストの作業環境管理濃度を早急に0.1繊維/cm3以下に引き下げるよう求めましたが、結果的には、「近いうちに見直しを行う」と明言しました。
ILO石綿条約の批准については目途を示しませんでしたが、現在法律で義務づけられていない建設現場等の屋外における作業環境測定についても、日本作業環境測定協会による試行の取り組みが進められており、労働省としての対応も必要になってくるものと思われます。
私たちは、これらの作業をアスベスト全面禁止の導入を含めた検討にするよう強く求めています。
通産省、環境庁、厚生省所管の化学物質管理促進法ではMSDS(安全データシート)の対象を発がん物質については0.1質量%以上含有するものとしていますが、労働安全衛生法によるMSDSは1%以上含有としているので、0.1%にそろえるようにという要請に対しては、他所の省庁のことは知らないという縦割り行政の弊害丸出しの対応でした。
アスベスト関連疾患の労災補償やアスベスト使用建築物の解体工事等対策、とくに建設工事の注文者の義務の確保などについても議論しました。

G 東京都
6省庁交渉に先立ち、3月22日には、アスネットによる東京都環境保全局大気規制課との交渉が行われ、石綿対策全国連絡会議の代表も参加しました。東京都では、1990年3月に「建築物等の工事に伴うアスベスト飛散防止対策要綱」を策定し、1994年7月にはこれを 「東京都公害防止条例」に組み入れました。この内容を周知するための「建築物等の解体等によるアスベスト飛散防止対策マニュアル」(2000年3月、A4版67頁)が作成されました。
区市町村の環境担当部署等に配布する予定とのことでしたが、文京区さしがや保育園の事件の経験から、営繕課や都市計画課が内容を承知していることが大事と指摘すると、そのアイディアは使わせていただきたいとのことでした。ただし、同事件に直接関連した対応では、昨年9月に区市町村の環境担当部署宛に一片の「飛散防止対策の徹底について(依頼)」という通知を出しただけで、まったく不十分です。
環境中のアスベスト濃度のモニタリングのあり方についても、一定の議論を行いました。

5. 6.23 アスベスト問題を考える会の開催

今年6月23日に、東京・全建総連会議室において、「アスベスト問題を考える集い」を約50名の参加で開催しました。内容はおふたかたの最新情報を踏まえた講演を中心としたものです。
帝京大学医学部公衆衛生学教室の矢野栄二教授は、3.項でふれた日本産業衛生学会の石綿許容濃度小委員会の委員長でもあり、「アスベストによる健康リスク―許容濃度の考え方」というテーマで、リスクアセスメントの基本的考え方から、今回の学会の石綿評価値を導き出すプロセスまで解説していただきました。
産業医科大学環境疫学教室の高橋謙教授は、フィンランドで開催されたばかりの国際専門家会議の内容を紹介。これは、放射線診断学と石綿関連のスクリーニングに関する最新の知見に焦点を当てたものです。また、国際会議がアスベストは世界的に漸次廃止されるべきという明確なスタンスをとっていること、日本における疫学研究があまりにも少ないことなどを指摘しました。「アスベスト対策情報」No.27でも紹介した石綿消費量と中皮腫発生の相関関係についての最新データを紹介していただきました。

6. 9.17-20 国際アスベスト会議への代表派遣

「はじめに」でもふれたように、9月17-20日、ブラジル・オザスコ市において、「国際アスベスト会議―過去、現在、未来」が開催されました。この会議には、日本からも石綿対策全国連絡会議を代表して、事務局長の古谷杉郎(全国安全センター)、運営委員の永倉冬史(アスネット)、名取雄司(労働者住民医療機関連絡会議)、大阪・環境監視研究所の中地重晴さんの4名が参加しました。
くわしい報告は第13回総会の場で行い、別途「アスベスト対策情報」でもご報告する予定です。

7. 被災者、市民団体等の取り組みの支援

@ アスベスト被災者支援等の取り組み
1998年度のアスベストによる肺がん・中皮腫の労災認定件数は42件と、6年間続いた20件台から大きく増加しましたが、「はじめに」で述べたように年2千件という推測数から比べれば氷山の一角にしかすぎません。
この間も地域安全センターや全建総連等の労働組合などによるアスベスト被害の掘り起こしと公正迅速な補償を求める取り組みが積み重ねられてきています。そのうちのいくつかは昨年11月19日の第13回総会時の現場報告会でも報告され、「アスベスト対策情報」No.27(2000.2.1)でくわしく紹介されていますので参照してください。
アメリカ海軍横須賀基地の元労働者・遺族16名による石綿じん肺損害賠償請求裁判は、原告本人の証人調べを終了し、正念場を迎えることになります。日米地位協定に基づく民事特別法による国に対する直接損害賠償請求の第2陣も、今年10月19日には、横須賀からバスを仕立てて請求者ら40名以上が防衛施設庁に乗り込んで交渉を行うなどして、近く何らかの回答が示される見込みです。
横須賀のじん肺・アスベスト被災者救済基金は、これらの取り組みを中心的に支援するほか、7月16-18日には、第4回目のじん肺・アスベスト健康被害ホットラインを実施し、31件の相談が寄せられました。このような取り組みを受けて、神奈川県の横須賀渉外労務管理事務所が3年がかりで実施した、健康管理手帳周知事業は画期的なものであり、「アスベスト対策情報」No.28(2000.9.30)で紹介しました。被災者らが神奈川労働局に要求していた、健康管理手帳の受診医療機関を横須賀への設置も実現しています。
最近の特徴的な労災認定事例のいくつかを紹介しておきます。
西宮市のAさんは、鉄工所で鉄の部材を図面のとおり切り出していくための「原寸」の仕事に約20年間従事し、その後10年以上たってから悪性胸膜中皮腫に罹患しました。仕事で使用していた「白い塗料」がアスベストを含有したタルク(滑石)だったのです。今年3月に西宮労基署が業務上と認定しました。
都内の東京電力の変電所の点検、清掃等の業務に18年間従事していたBさんも、悪性胸膜中皮腫に罹患しました(死亡)。遺族が元同僚等の協力を得て調べた結果、変電所内の天井・壁面にアスベストが吹き付けられており、それを吸った可能性が高いことがわかりました。今年3月に足立労基署が業務上と認定し、現在、会社と話し合いが行われています。
Cさんは、川崎の東芝の工場で40年間、工場内の変電所等の配線工事に従事していました。以前は、耐熱電線にはアスベストが被覆されており、電線切断や巻き付けたりするときに曝露したようです。川崎南労基署で判断できずに局にりん伺されてしまいましたが、今年4月に業務上と認定されています。

A 市民団体等の取り組み
昨年夏に起きた東京都文京区のさしがや保育園の違法改修工事・園児らのアスベスト曝露問題では、文京区が、その後のアスベスト除去工事に際して実施されたシミュレーションや関係者からの聞き取り等に基づいて実際の曝露量を推定し、さらに、曝露を受けた子供たちらの健康リスクを推定して、必要と考えられる対策を提言するための「文京区さしがや保育園アスベスト曝露による健康対策等検討委員会(委員長・内山巌雄国立公衆衛生院労働衛生部長)を設置しました。この委員会には、名取雄司運営委員、永倉冬史事務局次長、古谷杉郎事務局長の3名が父母からの推薦によって委員に選ばれ、現在、検討が進められています。
事件から1周年の今年7月16日には、さしがや保育園アスベスト被害を考える会やアスベスト根絶ネットワーク等により、「ノーモア・アスベスト 2000 in 文京」という集まりが開催され、石綿対策全国連も協賛しました。実態を示すビデオの上映、さしがや保育園父母の会会長の経過報告、情報公開による文京区有建築物の現状分析などの後、「シンポジウム―アスベストの環境曝露をなくすために」が行われました。シンポジストは以下のとおりです。マリ・クリスティーヌさん「市民として東京女学館と阪神大震災のアスベスト飛散」、大越慶二さん(アスベスト環境コンサルタント)「アスベスト含有建材撤去の現状」、村山武彦さん(早稲田大学理工学部助教授・リスク論)「アスベストの環境でのリスク」、被害を考える会。
以下、この間アスベスト根絶ネットワークに寄せられた相談のうちから、いくつかの事例を紹介します。
昨年10-11月に行われた東京都の中野裁判所の解体工事では、業者がアスベスト含有建材の使用実態を十分把握していないことが指摘され、住民、地元議員やアスベスト根絶ネットワーク立ち会いで現場でサンプルを採取。分析等の結果、吹き付けだけでなく、Pタイル、天井のフレキシブル板、吸音板、配管エルボー、ダクトパッキン等のほか、煙突内部にも大量に保温材が張りつけられていることも判明。昨年10月に住民と業者の間で、アスベスト粉じん濃度が0.5繊維/リットルを超えた場合にはただちに作業を中止し住民に知らせるなどとした協定書が締結されました。煙突は4分割されて、養生した作業場所に運び込まれて、アスベストを除去してから処理されました。
今年1-2月に、神奈川県厚木市にある県の施設「中央成年の家」解体工事についての住民説明会が開催されました。県総務部管財課の担当者は、大気汚染防止法は念頭にあったものの、特定化学物質等障害予防規則のことは考えておらず、また当初は、吹き付けアスベストはすでに除去してあるから手ばらしで解体する、散水するから粉じんの心配はないとしていました。住民からの要請によって、予算がつかないのでサンプル調査は行えないが、怪しいと思われるものはすべてアスベスト含有建材とみなして(Pタイル、天井の石綿セメント板、空調ダクトのパッキン、配管エルボー等)、吹き付け除去に準じて、全面ビニール養生、負圧で行うことになりました。県の担当者は、翌年度以降の同課の改修解体工事は今回と同等以上の工事をめざしたいとしているとのことです。
同じく2月には神奈川県相模原市新磯野における廃棄物中間処理施設の事業計画の住民説明会も行われています。計画では、運び込まれた産業廃棄物の中からプラスチックを選別、破砕して減容機にかけ燃料(RDF)を製造するというものですが、現行法令では中間処理施設にアスベスト含有建材が入ってくることを防げないことを危惧した住民の相談にアスベスト根絶ネットワークがのっています。事業者は、受け入れ段階と手選別の段階でアスベストは除去し、それでも除去できなかったものは破砕機にバグフィルターを付けて除去するとしていますが、住民側は十分な対策ではないとして交渉が続けられています。

8. 宣伝・広報活動

「アスベスト対策情報」は今期、No.27(2000.2.1)およびNo.28(2000.9.30)の2号発行しました。
No.27では、第13回総会議案、PRTRの対象化学物質等の案に対するパブリック・コメント(2.項参照)、および、第13回総会後に実施した各地の様々な取り組みの報告の内容を紹介しました。
No.28では、6.23 アスベスト問題を考える集い(6.項参照)における矢野栄二、高橋謙両教授の講演記録、日本産業衛生学会許容濃度委員会のアスベストに関する「許容濃度」の提案理由、6月に実施した関係6省庁交渉の記録(4.項参照)について紹介しました。
また、「はじめに」で述べた内外情勢に関する資料として、日本における中皮腫による死亡件数、EUの新しいアスベスト指令本文と「詳細な解説」(以上No.27)、WTOパネルがカナダの提訴を却下する報告、ICFTUがアスベスト禁止に向けた労働組合の世界的キャンペーンを開始、および、神奈川県が行ったアメリカ海軍横須賀基地退職者への健康管理手帳周知事業の報告等を紹介しました。

U 2000年度活動方針案


1. 集会および宣伝・広報活動

国際アスベスト会議の教訓と成果を共有し、「はじめに」で述べたような内外のアスベスト問題に関する情勢に対する理解を深化させるために、12月4日の第14回総会において、世界アスベスト会議報告会を開催します。
また、日本における早期禁止実現の必要性および内外情勢の進展等について、あらゆる機会をとらえて宣伝・広報していくとともに、国際的なキャンペーンの動向をふまえながら、アスベスト製品のボイコット・キャンペーンの実施について検討していきます。
また、アスベスト含有建材の危険性をひろく周知徹底することに努め、そのために、環境への飛散状況等の調査・研究等も進めていきます。

2. 行政・業界等への働きかけ

日本におけるアスベスト関連業界・業者に対して、アスベスト使用の中止を申し入れるとともに、その見解を質していきたいと思います。
同時に、日本におけるアスベスト禁止の早期実現を全面に掲げながら、政府・関係省庁に対する働きかけを強化します。
また、政党・政治家、労働組合、学会、地方自治体等に対して働きかけを行っていきます。
全建総連に協力して、アスベスト全面禁止の早期実現、アスベスト被災者の公正迅速な補償の実現を求める署名活動に取り組みます。

3. 被災者、市民等の取り組みの支援

アスベスト問題への注意喚起、禁止の実現と既存のアスベスト対策を強化していくためにも、各地における様々な取り組みを支援していくことが重要です。参加団体の協力を得ながら、取り組んでいきます。

4. 組織の拡大・強化

石綿対策全国連絡会議の会員の拡大を図っていきます。

5. 会費等について

会費は、従来どおり、団体会員の中央単産等が年間10,000円、その他団体会員が年間5,000円、個人会員は年間2,000円とします。会費には、「アスベスト対策情報」1部の代金を含みます。


V 2000年度役員体制案


代表委員 加 藤 忠 由 (全建総連委員長)
佐 藤 晴 男 (自治労副委員長)
富 山 洋 子 (日本消費者連盟運営委員長)
広 瀬 弘 忠 (東京女子大学教授)
事務局長 古 谷 杉 郎 (全国安全センター)
同次長 老 田 靖 雄 (全建総連)
草 野 義 男 (全港湾)
永 倉 冬 史 (アスベスト根絶ネットワーク)
運営委員 吉 澤 伸 夫 (自治労)
島 修 身 (日教組)
水 口 欣 也 [新](全造船機械)
西 雅 史 (全建総連)
吉 村 栄 二 (日本消費者連盟)
西 田 隆 重 (神奈川労災職業病センター)
鈴 木 剛 (全国じん肺弁護団連絡会議)
信 太 忠 二 (個人)
名 取 雄 司 (労働者住民医療機関連絡会議)
[新](じん肺・アスベスト被災者救済基金)
会計監査 仁 木 由紀子 (個人)
平 野 敏 夫 (東京労働安全衛生センター)


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