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2002.119
省庁交渉 省庁交渉の記録



2001年度

アスベストの早期禁止の実現、健康被害の増加に対する対応及びアスベスト含有建材等の既存アスベスト対策の一層の強化に向けた要請

2001年度
(2002年6月) 

                                      2002年6月

関係大臣 殿

                  石綿対策全国連絡会議
                   代表委員 加藤 忠由 (全建総連委員長)
                   竹花 恭二 (自治労副委員長)
                   富山 洋子 (日本消費者連盟運営委員長)
                   広瀬 弘忠 (東京女子大学教授)

                   〒136-0071 東京都江東区亀戸7-10-1 Zビル5階
                   PHONE(03)3636-3882 FAX(03)3636-3881
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アスベストの早期禁止の実現、健康被害の増加に対する対応及びアスベスト含有建材等の既存アスベスト対策の一層の強化に向けた要請




日頃の貴職のご活躍に敬意を表します。

この間、私どもは毎年、「アスベストの早期禁止の実現およびアスベスト対策の一層の強化に向けた要請」を行い、貴省の担当者の皆様と意見交換を行わせていただいています

アスベストをめぐる最近における内外の情勢は、別添(石綿対策全国連絡会議第15回総会議案前文)のとおり、WTO(世界貿易機関)における国際貿易紛争にも決着がつき、すでにアスベスト禁止を導入ないし決定している諸国は30か国を越し、アスベスト禁止に向けた国際的な潮流はいまや揺るぎないものとなっております。そして、現に顕在化しつつあり、今後も増大が予想される健康被害にどう対処していくのか、労働者、住民、環境を守るための既存のアスベストに対する様々な側面からの対策の強化が図られつつある現状にあります。「国際貿易における一定の有害物質及び農薬の事前の情報に基づく同意(PIC)手続」等を定めたロッテルダム条約(日本は批准済)の対象物質にアスベストを追加することが検討され、国際労働機関(ILO)でも1986年採択の石綿条約・勧告が最新化の対象リストに掲載されたことも、最新の動向として加えることができます。

一方、日本のアスベスト輸入量は、2000年に98,595トンとようやく10万トン台を割り込み、昨(2001)年は79,463トンになったとはいうものの、いまだに世界第3位、先進国では唯一の突出した使用量になっています。昨年、私どもが実施した関係業界との話し合いやアンケート調査によっても、企業の自主的使用中止に頼って日本におけるアスベスト使用をなくすことはできないと言わざるを得ません。

また、わが国における建築物等にすでに使われてしまっている吹き付けアスベストやアスベスト含有建材等の既存のアスベストをめぐる問題の現状は、1999年に東京都文京区のる区立保育園の改修工事で、違法工事によって園児が大量のアスベストに曝露してしまった事件以降も、様々な解体・改修工事において、法令に定められた事前のアスベスト調査もされていないなど、野放し状態です。天井裏に吹き付けアスベストがある場合の天井板撤去や内装材撤去の際にも、高濃度のアスベスト粉じんが測定されるとの報告も、4月10日に神戸で開催された第75回日本産業衛生学会で行われており、アスベスト除去工事手順の現在のフローチャートの見直しも急務です。

また、わが国の現行法令では、「非飛散性」とされてしまっているアスベスト含有建材等は、粉じん防止対策をとらずに改修・解体、さらに安定型処分場への廃棄が可能なことから、建設労働者や近隣住民などのアスベスト曝露が懸念されます。最終処分場では、北海道旭川市の産業廃棄物処分場で、特別管理産業廃棄物の廃石綿が土中から掘り起こされ、ビニール袋の破れから飛散性アスベストが剥き出しになっているケースや、横浜市の処分場のように、業者が倒産して産業廃棄物が野積になっているようなケースが報告されるなど、アスベスト廃棄物からの環境曝露に対する抜本的な見直しが急がれます。

アスベスト被害の指標疾患とも言われる悪性中皮腫によるわが国の死亡者数は、2000年は710人で、前年比1割増、1995年の500人から6年間で1.5倍に急増しています。加えて、前述の第75回日本産業衛生学会において、早稲田大学理工学部(社会工学)村山武彦教授らによって、「わが国における悪性胸膜中皮腫死亡数の将来予測」という研究発表が行われ、わが国において初めて、「アスベスト被害の将来予測」とも言える研究成果が公表されました。この研究報告によると、疫学的な統計手法で分析した結果、2000年から2039年の40年間に、悪性胸膜中皮腫の男性死亡者数を約10万人以上、1990年から1999年までの10年間の死亡者数の約49倍と予測しています。欧米とは異なり、いまも大量のアスベストを輸入し、使用し続けているわが国の現状では、予測されたシナリオが今後一層悪化することすら懸念されます。

この将来予測は、私たちがこれまで警告してきた事態を科学的に裏付けるものであると同時に、一層危惧を深めさせるものでもあります。アスベスト対策の抜本的強化は、もはや待ったなしのところにきていると言わざるをえません。大きな被害が予測された後、速やかに対策をとるのかどうか、が問われています。行政の不作為が許されないことは、HIVや狂牛病を持ち出すまでもなく明らかでしょう。

禁止に向けた論議の過程では、実はコストのみが問題であるのに代替化が困難との意見が出されたり、長年技術開発を怠ってきた「つけ」を長期の性能がまだ確認されていないというかたちで表明されることもあるものと思われます。真に代替化が困難なものがごく一部にあるだろうことは想定しますが、アスベストをすでに禁止した諸国の代替技術に学べば、多くの問題は解決されるでしょう。何よりも人命を尊重していただきたいと考えます。

4月28日付けの毎日新聞は、一面トップで「厚労省 石綿の全面禁止検討 関係省と協議」と報じました。私たちは、このニュースを歓迎し、協議の内容および今後の見通しを確認すべく、先日、厚生労働省の担当者と話し合いの機会を持ちました。私たちの期待に反して、正式な協議と言えるようなものはなされていないとのことでしたが、私たちは、関係各省のイニシアティブにより一日も早くそのような動きが現実のものになることを切に希望するものです。その際には、ぜひとも私たちとの議論を役立てていただきたいと考えます。

あらめて、アスベスト早期禁止の実現、健康被害の増加に対する対応及びアスベスト含有建材等の既存アスベスト対策の一層の強化を要請させていただく次第です。



別添資料: アスベストをめぐる内外情勢

石綿対策全国連絡会議第15回総会議案「はじめに」(2000年12月3日)


● アスベスト禁止国は30か国以上に

アスベスト禁止に向けた世界の流れは、昨(2000)年9月17-20日にブラジルで開催された「世界アスベスト会議」以来、ますます揺るぎないものとなっています。

自国民の健康と環境を守るためにアスベストを禁止することは、自由貿易を侵害する技術的貿易障壁なのか? 注目されていたフランス・EU対カナダのアスベストをめぐる貿易紛争に関して、世界貿易機関(WTO)の上訴機関は今(2001)年3月12日、昨年のパネル(紛争解決処理小委員会)の結論と同じく、1997年に実行したアスベスト禁止措置を支持するという最終決定を下しました。これは、WTOの紛争解決ルールが開始されて以来、貿易を制限する何らかの措置をWTOが容認した、初めての画期的なケースでした。

アスベスト禁止をめぐる国際貿易紛争が決着をみたことにより、いまや各国が禁止措置を導入するうえでの障害はなくなりました。

今(2001)年1月13日、チリは、180日以内にあらゆる種類のアスベストおよびアスベスト含有製品の生産、輸入、供給、販売、使用を禁止する法令を公布しました(例外は、建材以外(建材は完全禁止)で、代替品がないことや安全な管理対策を立証して個別に認可を受けたもののみ)。カナダの政府とアスベスト業界等から猛烈な巻き返しの圧力とNGOや労働組合による干渉反対の運動、内外からの注目のなかで、禁止は7月12日に無事実施されました。同じ7月31日にはアルゼンチンが、過去数年間にわたる専門家、労使団体、NGO等との検討・協議を踏まえて、2003年1月1日までに(クリソタイル)アスベストとその含有製品の製造、輸入、流通を禁止する法令を公布しました(例外は、代替不可能と証明して認可を受けたもの)。

ラテンアメリカでは、すでに1980年代半ばにエルサルバドルがアスベストを禁止しているほか、ブラジル国内のアスベスト市場の70%以上をカバーする、オザスコ市、サンカエタノドスル州、モギミリム市とマトグラッソ州、リオデジャネイロ州、サンパウロ州が、昨年の「世界アスベスト会議」以降アスベスト禁止を導入、ブラジル連邦議会でもこの問題が検討されています(カナダのアスベスト業界は禁止反対の意見書を提出しています)。このようななかで、アルゼンチン政府は、今年10月にブエノスアイレスで「ラテンアメリカ・アスベスト会議」を開催することを呼びかけました。

オーストラリアでは、原料アスベストの輸入は年間わずか1,500トンにすぎませんが、全国労働安全衛生委員会(NOSHC)が2001年3月14日に、2003年12月31日までに(クリソタイル)アスベストの使用を禁止するという提案についてパブリック・コメントを求め、10月17日に禁止を決定しました(例外は、航空機・ヘリコプターと一部中古自動車用摩擦材)。NOSHCでは提案にあたって、代替品の性能・健康影響面の評価、禁止の経済的影響について独自の分析結果を示していますが、約95%を使用しているヴィクトリア州の自動車用摩擦材製造企業等と州政府、関係労働組合が上記期限までに使用を禁止するという協定を締結したことが、禁止実施時期を早めさせたようです。(ニュージーランドは、1999年に、繊維の形状でのクロシドライト、アモサイト、クリソタイルの輸入を禁止しています)。

2005年までに加盟諸国にアスベスト禁止(例外は、既存の電解装置用隔膜について2008年まで)を実施することを求めた、委員会指令1999/77/ECを1999年7月26日に採択した欧州連合(EU)では、加盟15か国中すでに10か国(1986年デンマーク、スウェーデン、1990年オーストリア、1991年オランダ、1992年フィンランド、イタリア、1993年ドイツ、1996年フランス、1998年ベルギー、1999年イギリス)が禁止措置を導入していますが、2001年7月、禁止反対勢力の一角であったスペインが、2002年までに禁止することを決定したとの情報がもたらされています(EU加盟諸国で残る、アイルランド[2000年に導入]、ルクセンブルグ[2002年の予定]、ギリシャ、ポルトガルも2005年までに禁止を実施することになります)。

ヨーロッパでは他にも、1983年アイスランド、1984年ノルウェー、1985年スイスがすでにアスベスト禁止を導入しており、また、EU加盟をめざす東欧・中欧諸国も、2005年までにアスベスト禁止を実施する計画をすでに建てているか、検討中と伝えられています(チェコ(?)、スロヴェニア(?)、1998年ポーランド、2001年ラトビア、スロヴァキア(2002年までに禁止)、リトアニア(1998年決定、2004年までに全面禁止)、ハンガリー(2005年までに禁止)等)。

また、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、バーレーン、クウェート、カタール、オマーンの(ペルシャ)湾岸協力会議の6か国(2000年8月に方針発表→未確認)、シリア(水道管用アスベスト・セメント管の禁止)、南アフリカやアンゴラでも禁止を検討中、そして、アジアでもシンガポールが、すでに1989年以降、建築物へのアスベスト使用を禁止しているなどの情報も伝えられているところです。

こうして(情報の精度に濃淡はありますが)、ここにあげられた国々だけでも、すでにアスベスト禁止を導入または決定していると考えられるものが34か国にのぼっています。

1970年代に年間使用量80万超トンと世界最大の使用量を誇ったアメリカでは、環境保護庁(EPA)が1989年に制定したアスベストの段階的禁止規則が、1992年に連邦高等裁判所によって、手続不備(費用対効果、代替品使用のリスクの評価不足等)を理由に無効とされました。したがって、アメリカではいまだにアスベストの使用が合法とされている製品があるわけですが、実際の年間使用量はもはや1万トンを割っているものと思われます。さらに一昨年末頃から、モンタナ州リビーにあるバーミキュライト鉱山(アスベストが混入。園芸用等に使用されている)跡地の元労働者・住民に恐るべき被害が顕在化していることがマスコミ等でも取り上げられ、2001年7月には、上院の小委員会で公聴会が開催され、被災者や専門家がアメリカにおいても禁止を全面禁止を導入するよう訴えると言った事態にもなっています。9月11日のニューヨークの世界貿易センタービル等へのハイジャック飛行機による前代未聞のテロ攻撃の被災現場における、アスベスト汚染とその影響に対しても関心が集まっています。

● 世界的禁止の攻防の焦点はアジアに

一方で、カナダを先頭としたアスベスト生産=輸出国による、禁止措置が世界中に広がることを妨害しようとする動きも止まってはいません。前述のように、チリやブラジルでは猛烈な圧力をかけ続けていますし、アルゼンチンに対しても同様な行動に出るだろうと考えられています。ヨーロッパ・セミナー等を通じて、この間、東中欧でも動めいていることも判明しています。

もっとも注目されたのは、インド労働衛生学会(IAOH)が、2001年2月にニューデリーで開催する年次総会で、「インドにおけるアスベスト禁止」をテーマにしたワークショップを開催しようとしたことに対する、インドと国外(とくにカナダ)のアスベスト業界から加えられた恫喝です。結局、同学会は脅しに屈せずに、ワークショップを実行しましたが、最後まで政治的・経済的圧力がかけられたようです。

少し古いデータですが、カナダのアスベスト研究所によると、1994年の世界のクリソタイル消費国の順位は、@CIS(ロシア等)700,000トン、A中国220,000トン、B日本195,000トン、Cブラジル190,000トン、Dタイ164,000トン、Eインド123,000トン、F韓国85,000トン、Gイラン65,000トン、Hフランス44,000トン、Iインドネシア43,000トン、Jメキシコ38,000トン、Kコロンビア30,000トン、Lスペイン29,000トン、Mアメリカ29,000トン、Nターキー25,000トン、Oマレーシア21,000トン、P南アフリカ20,000トン、となっています。(国別データがないのですが、1998年では、世界消費量合計177万7千トンのうち、極東が70万トン、中東・インド亜大陸が20万トン、となっています。)

アスベスト産業にとってアジアがいかに重要なシェアを占めているか、一目瞭然でしょう。好むと好まざるとを問わず、アジアの動向が焦点化してくることは間違いありません。マレーシアでは、有力なNGOであるペナン消費者組合や労働組合がアスベスト禁止を求めるキャンペーンを開始し、後述のように労働現場の濃度基準を強化した韓国では、昨年、労働安全衛生規制に違反したアスベスト企業が刑事罰を受けたり、とくに今年になってから地下鉄公社で勤務する溶接工、ボイラー配管工など4名が肺がん等で労災認定を受けて、アスベストによる職業病認定を受けたものが1993年からの合計で17名になるなど、社会問題化しそうな気配も感じられます。

● 既存アスベスト対策も着々と進展


ブラジル「世界アスベスト会議」の成功を受けたかたちで、ヨーロッパでは今年6月、イギリス、ベルギー、オランダ、スコットランドで一連のアスベスト連続行動が取り組まれています。その中核はブリュッセルのEU議会で、東中欧諸国を含む21か国の代表が参加した「ヨーロッパ・アスベスト・セミナー」でした。ここでは、ヨーロッパ全体でのアスベスト全面禁止を確実にするということだけでなく、予防戦略、被災者の権利、新たな調査研究の優先順位、ダブル・スタンダード(ヨーロッパの企業の海外における活動)といった幅広い問題が取り上げられています。

そして、EU議会と理事会は今年7月20日、「労働におけるアスベスト曝露に関連したリスクからの労働者の防護に関する理事会指令83/477/EEC」について、パブリックコメントを求める改正提案を発表しました。ここでは、労働現場の曝露限界値(8時間過重平均値)を、クリソタイルについては0.6f/cm3、その他のアスベストについては0.3f/cm3という現行規制から、0.1f/cm3に一本化して厳しくするとされているほか、規制対象範囲の拡大、解体等作業前にアスベストと検査を実施する使用者の責任の強化、より徹底的な教育トレーニングの導入等を提案しています。また、これに対して、労働組合やNGOなどはさらに、下請けで作業する自営業者も対象にすることや建築物のアスベスト登録、解体等のアスベスト作業のライセンス化等も盛り込むように要求しているところです。

0.1f/cm3という労働現場の濃度規制レベルは、すでにアメリカやフランス等で実行されているところですが、EU全体で採用されることになれば、もはや世界標準になったと言ってよいでしょう。

日本と同じく、クリソタイルについて2f/cm3という濃度規制をとっていた韓国が、2001年10月10日に、2003年1月1日からこれを0.1f/cm3に引き下げることを決定しました。

日本でも、日本産業衛生学会が、「日本人のアスベスト曝露による肺がんと悪性中皮腫の合計生涯リスク評価値として、曝露がクリソタイルのみのとき、10-3リスクを0.15f/cm3(10-4、0.15f/cm3)、曝露がクリソタイル以外のアスベスト繊維を含むときは10-3リスクを0.03f/cm3(10-4、0.003f/cm3)」とすることを2000年4月に提案、2001年4月には、正式な評価値に格上げされました。これを受けて、(社)日本石綿協会は、今年5月の総会で、「クリソタイル粉じん自主基準(管理濃度)」を、1f/cm3(曝露濃度(8時間加重平均)だと0.5f/cm3に相当するとしています)から0.5f/cm3(同じく今度は0.15f/cm3に相当するとしています)に引き下げています。

● 日本での被害は予想どおりの増加傾向


企業や行政が重い腰をあげようとしないうちに、日本におけるアスベスト被害は、「予想どおり」の増加傾向を示しています。ほとんどがアスベストが原因と言われる独特のがんである中皮腫による死亡者数が、2000年には710人で、前年比1割増、1995年の500人から6年間で1.5倍に急増していることが明らかになりました(6年間の合計は、3,600人)。アスベストによる肺がん死が中皮腫の2倍あるとすれば、肺がんと中皮腫を合わせたアスベスト死は、日本でもすでに、毎年2千人以上、6年間で1万人以上にのぼっていることになります。

中皮腫は、はじめてアスベストに曝露してから発病するまでの潜伏期間が、40〜50年間と言われています。1950年の日本のアスベスト輸入量は6,639トン、1960年は77,056トンでした。したがって、現在現われている被害は、日本のアスベスト使用量が、1976年のピーク325,346トンに向けて、まさに「飛躍」しようとし始めていたときの曝露を反映しているものと考えてよいでしょう。今後、何十年間かの日本のアスベスト被害はどうなるのでしょうか? さらに、このまま日本が「世界最大級のアスベスト使用大国」であり続けるとしたら、被害はどこまで拡大するのでしょうか?

現在の日本の中皮腫による死亡者数は人口100万人当たり年6人程度ですが、欧米工業国の数字と比べると、高い方のオーストリアやイギリス等はその4倍程度、低い方のドイツやノルウェーでもその2倍近い数字になっています。日本では欧米より遅れてアスベストの使用が本格化してきたこと、長年にわたる蓄積効果の影響なども考慮されるべき要素でしょう。

現在のアスベスト健康被害の多くは、アスベストへの職業曝露に起因するものだと考えられます。被災者が労働者として職業上アスベストに曝露して肺がんまたは中皮腫になったのであるとすれば、それは当然、労災補償の対象となります。1999年度の中皮腫の労災認定件数は25件で、2000年の中皮腫による死亡件数647人に占める割合は、わずか3.9%。1999年度の中皮腫と肺がんを合わせた労災認定件数は42件で、肺がんを中皮腫の2倍と仮定して肺がん中皮腫を合わせた推定死亡者数647人×3=1,941人に占める割合を計算してみると、わずか2.2%。あまりにも少ない「救済率」であると言わざるを得ません。被災者本人も家族も、医療関係者も、企業も行政も、アスベスト被害の補償に無知・無理解であることの反映と考えざるを得ません。労働者以外の被災者への補償制度が確立できていないことも言うまでもありません。

欧米でも、中皮腫「流行」の当初は、この病気の被災者が「あれよあれよ」と言う間に、あまりにも早く亡くなってしまうため、経験の蓄積も体制の整備もままなりませんでした。混乱の時期がようやくすぎて、いかにして専門家の養成やネットワークづくりを進めていくか、被災者と家族(遺族)に精神的ケアも含めてどのように向き合っていたらよいか、という取り組みが開始されているという話が伝わってきています。

いずれにしろ、日本でこの問題に立ち向かうのに遅すぎるということはありません。対処すべき課題は多々あるわけですが、やはり、将来への禍根を立ちきるための禁止の導入が必要であることは間違いありません。

● 自主的使用中止でアスベストがなくなるか?


私たちは2001年2月9日、久しぶりに(社)日本石綿協会との話し合いを持ち、業界として使用中止の決定を下すよう求めましたが、「協会としては、管理して使用すれば安全というポジションに変更はなく、(使用中止については)検討もしていない」、という返事でした。

その約1か月後に新聞報道されたように(3月9日付け朝日新聞夕刊等)、住宅屋根材製造の大手2社―クボタと松下電工がアスベストの使用中止を決定していることがわかりました。

日本の原料アスベスト輸入量は、2000年にはじめて10万トンの大台を割って、98,595トンになりました(1999年は117,143トン)。「大手2社使用中止を決定済み」の報道は、経済産業省にとっても「寝耳に水」だったそうですが、この2社だけで、日本のアスベスト輸入量の約4割を使用しているとのことです(2社の使用中止の影響が貿易統計の数字に現われてくるのは、来(2002)年分の数字からではないか、とのことです)。

私たちは、こうした動きを歓迎し、使用中止の動きが加速してさらに激減することを期待してはいますが、未来を各企業の自主的使用中止に任せて楽観しているわけにはいきません。

なぜなら、前述の(社)日本石綿協会の公式発言に加え、同協会でも動向を把握できない「アウトサイダー」も存在していること。協会との話し合いでも、また経済産業省の話でも、「波形スレートや中小では(技術力、資本力等から)難しい」と言われていること。経済産業省の委託で(社)日本石綿協会が実施したアンケート調査に対しても、「今後も安心してアスベストを使用できるようにすることを望む」という回答もみられていることなどがあげられます。

技術力については、すでに禁止を導入ないし決定している30か国以上で可能なことが、日本で不可能なはずはありえないでしょう。私たちが実施した(社)日本石綿協会加盟各社宛ての「今後のアスベスト使用等に関する緊急質問」に対しては、回答をよこした企業の数は少なかったものの、「使用中止のためには法規制が必要」と答えている企業も少なくありません。経済産業省の委託で(社)日本石綿協会が実施した海外調査の「まとめ」でも、「すでに無石綿化に移行している国では、国として無石綿の方針を徹底することにより、アスベストフリーの製品が市場価値を有することとなり、その普及も容易になった」と総括されています。

2003年末のアスベスト禁止を決定したオーストラリアの原料アスベストの年間輸入量はわずか1,500トン、イギリスは約5千トン、フランスは約5万5千トンの使用のなかで、禁止を決定していることも銘記しておきたいことです。

今年度、私たちは、日本における「原料アスベスト」以外のアスベスト含有製品の輸出入の実態についても調査しました。その結果、アスベストを含有しているものも含むと考えられる製品の輸入量が、2000年に、「セメント製品」―5,810トン、「石綿紡織品」―2,333トン、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」―3,272トン、合計11,416トンあることがわかりました。輸出の方は、2000年に、「原料アスベスト」は0(過去10年間では20〜160トン輸出している年があります)ですが、「セメント製品」―218トン、「石綿紡織品」―517トン、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」―7,264トン、合計8,000トンです(「セメント製品」には、石綿セメント製品だけでなく、セルロースファイバーセメント製品等も含むこと、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」には、石綿以外のその他鉱物性材料または繊維素をもととしたものを含みます。「セメント製品」の輸入は減少傾向にあるものの、「石綿紡織製品」の輸入は減っておらず、「ブレーキ・クラッチ等の摩擦材製品」の輸入は増加しています)。

やはり、アスベストの使用禁止のためには、法規制による禁止の導入が不可欠であり、一日も早くそれを実現するための重要な山場を迎えつつあると考えます。

環境省
国土交通省
経済産業省



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