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Osasco アスベスト世界会議報告−5−

世界アスベスト会議
―過去、現在、未来―

(第4日目)


第4日目: 2000年9月20日(水)


全体会議D: 社会・医学的側面 オザスコ市民シアター

09:00 座長: Dr Christine Oliver
発表:
@ アスベスト疾患
Dr. Gurnam Basran(イギリス)
A アスベスト被災者に対する医師の社会的および法的役割
Prof. Diogo Pupo Nogueira(ブラジル)
B 職業病としての胸膜肥厚の診断および認定上の問題点
Dr. Jefferson Freitas(ブラジル)
C 中皮腫プロジェクト 【録音@】
Mavis Robinson(イギリス)
D 曝露労働者に対する予防プログラム? 【録音A】
Prof. Benedetto Terracini(イタリア)
E 家族に対する支援 【録音B】
Rose Marie Vojakovic(オーストラリア)
F 公正な移行: 雇用喪失[no jobs]ではなく安全な労働[safe job] 【録音C】
Rory O’Neill(イギリス)
アスベストと利益
G ケース・スタディ(1): リンペット: 国際的な吹き付けの健康問題 【録音D】
Dr. Geoffrey Tweedale(イギリス)
H ケース・スタディ(2): 南アフリカにおけるアスベスト採掘: 鉱夫、資本および国家 【録音E】
Dr. Jock McCulloch(オーストラリア)

13:00 昼食

14:00-18:00 ポスター発表


4日目の午前中の全体会議は、「社会・医学的側面」と題した総論的なセッションでした。
@のイギリスのDr. Gurnam Basranは、石綿関連疾患について、極めてわかりやすいスライドを豊富に用いて疾患と診断を説明しました。また、イギリスの胸部学会が現在、中皮腫の診断と管理の「ガイドライン」として活用できるような文書を準備中であることを紹介しました。

AのブラジルのProf. Diogo Pupo Nogueiraは、被災者の治療や補償を潤滑に進めるには、「家庭医と呼吸器専門医の連携が必要」と語りました。

BのブラジルのDr. Jefferson Freitasは、胸部レントゲンで見えない胸膜肥厚斑が、CTでいかにみやすいのかをわかりやすく説明しました。また、ブラジル当局が胸膜肥厚を職業病として認めるのを拒否していることを報告しました。

Cのイギリス・リーズ市[イングランド北部]マクミランの看護婦Mavis Robinsonの「中皮腫プロジェクト」に関する発表は、参加者をうならせ、見習いたいと考えさせる内容でした。このプロジェクトは、@悪性中皮腫の様々な問題に関する患者、介護人、健康専門家に対する電話相談、A中皮腫についての教育訓練を受けた看護士のネットワークの構築、の2本柱。以前は、この病気の珍しさから、健康専門家のほとんどは知識をもっておらず、患者が短期間に亡くなってしまうため情報を得ることも困難だった。中皮腫の被災者の増加が、このプロジェクトに資金援助することを促した。電話相談は1999年7月から開始されて、週2日開設されている。最初の年には、518件の相談が寄せられ、そのうち203件が患者および介護人から、315件が専門家からのものだった。ほとんどの患者、介護人が、これまでに与えられてきた臨床情報以上の、もっとたくさんのくわしい情報を欲しがった。専門家からの相談の204件が、看護士からの、患者を助けるための情報の要請であった。専門の看護士のネットワークの構築については、現在34名の専門看護士がネットワークに登録され、トレーニングに参加した。彼ら全員が、この疾病とこれからのケアの改善に関する他の看護士たちの教育に関与している。地域の重要なセンターのほとんどがこのネットワークに加わっている。今後、資金さえ許せば、健康スタッフのための支援の入手先や患者のための情報をまとめたキットの作成も計画されているとのことです。

DのイタリアのProf. Benedetto Terraciniは、過去にアスベストに曝露した労働者への予防プログラムとして、「健診、タバコや他の発がん物質の曝露を避けること、補償を受ける権利があること」の3点を伝えることが重要と説明し、ヨーロッパでの今後の石綿関連疾患発生リスクの推定値について発表しました(イタリア677千人、ドイツ160千人、フランス138千人、イギリス95千人、スペイン57千人、ポルトガル16千人、オーストリア15千人、オランダ14千人、ベルギー11千人、デンマーク9千人、フィンランド7千人―欧州全体1,198千人)。

Eの前出のオーストラリアのアスベスト疾患協会(ADS)の看護士であるRose Marie Vojakovicは、ADSが5名の専従スタッフで、緩和ケアや被災者の死ぬ際のメッセージへの援助に心理学者やソーシャルワーカーの手助けを借りていること。補償問題は患者家族のストレスとなるが、残された家族の援助として重要でサポートしていること。若くして配偶者や親を亡くす子どもへのクリスマスや行事を通じての支援していることなどを紹介しました。

Fの国際ジャーナリスト労連(IFJ)のRory O'Neill(イギリス)は、「アスベスト工場労働者も子どもたちのことを考え、『死ぬ仕事』はイヤだと言い始めており、『アスベストか失業か』ではなく、『アスベストか安全な仕事か』の選択を求めている」と発言し、会場から大拍手を受けました。

Gの『奇蹟の鉱物から殺人粉じんへ』という本の著者でもあるというイギリスのDr. Geoffrey Tweedaleは、イギリスで1931年にJ.W. Robertsがクロシドライトの会社を創設した翌年1932年には、著明な医学誌ランセットに石綿肺の報告がすでに掲載されており、危険を知りながら販売された吹き付けアスベストのリンペットが1940年以降の被害を増大させた、と指摘しました。リオデジャネイロの映画館に吹き付けられたリンペットの除去工事が、最近地元のマスコミで大きく取り上げられたということです。

H最後に、Dr. Jock McCullochが、南アフリカの鉱山の報告を行っています。

全体会議E: 将 来 オザスコ市民シアター

14:00 座長: Eng. Fernanda Giannasi
発表:
@ アスベストのない世界: 将来
Eng. Fernanda Giannasi(ブラジル)
A 早期にアスベストを禁止した後の北欧の経験 【録音F】
Lars Vedsmand(デンマーク、NFBWW)
B 世界貿易機関(WTO)の意味: 公衆衛生と国際貿易に関する判断 【録音G】
Dr. Barry Castleman(アメリカ)
15:00 全体討論
16:30 休憩
16:45 表彰式
18:00 閉会
18:30 "Familia Negritue and 100% COHAB"によるパフォーマンス


@のブラジルのフェルナンダ・ギアナージさんは、「1993年にエターニトパイプのオザスコ工場は廃止されたが、ブラジル国内では採掘も生産も続き、一例ではイラクにアスベスト管の輸出が続いていること、今後いかにアスベストのない未来を作れるのか」と問いかけました。彼女は、ブラジル連邦および州議会に禁止法令を支持させるためのABREAの計画を説明し、また、すべての参加者が自分の国に帰ってからこの災厄を終わらせようと訴えました。彼女は、「オザスコ市長はアスベスト禁止を決意した。他も彼に続くべきときなのではないか? 次はアメリカ? 日本? それともカナダか?」と、問いかけています。

A次に「早期にアスベストを禁止したスカンジナビア諸国の経験」と題して、デンマークの建築労働組合の安全衛生担当のLars Vedsmand氏の報告がありました。「1940年代には科学者は危険を知り、1952年には労働組合もアスベストの危険の対策を考えはじめ、大会等で論議が始まった。1972年には断熱材としての使用を禁止し、1986年にデンマーク最高裁は、『エターニト社は50年前からアスベストの危険を知っていた』と会社敗訴判決を下した」。「使用禁止後に、デンマーク建築研究所は写真や使用方法を書いたわかりやすいアスベスト建材の本を出版、疫学者も中皮腫マップを作り、過去の被害を明らかにしてきた。しかし、建築での違法工事はあり、施主も建築業者もリスクを理解していない場合がまだ多いとのことでした。労働組合で、数日のアスベスト工事主任研修を独自に作り、アスベスト含有建材の把握、正しい工法と守るべきガイドライン、作業主任者をおく内容で、きちんとした改築解体業者を育てているが国は公式な制度と認めない」とのことで、大変参考になりました。法律での禁止の後も残存するアスベストへの実質的な対策が重要である点は共通です。

B発表の最後は、「公衆衛生と世界貿易のための世界貿易機構(WTO)の意味するもの」と題したバリー・キャッスルマンさんの報告でした。世界会議初日の9月18日に世界貿易機関(WTO)は、カナダのクリソタイルに対するフランスの輸入禁止措置を支持するという紛争解決パネルの裁定を公表しています。バリー・キャッスルマンは、WTOがこの決定に至るまでのプロセスについて、透明性の欠如、科学専門家選抜の秘密主義、意思決定過程における容認しがたい官僚主義といった問題点を指摘しました。「このケースでWTOのシステムは公衆衛生措置を保護するのにかろうじて機能したにすぎないという理由から、他の多くのケースにおいてもそうであろうと期待することはできない」と警告しています。

この後全体討論で、インド、マレーシア、ブラジル、南アフリカ、オーストラリア、イギリス、アメリカ、日本(名取雄司医師―写真)等々の参加者が発言しましたが、世界規模でのアスベスト全面禁止の早期実現と、それが実現したとしてもなお長期にわたり残る様々な課題の解決をめざすこと、そのためにも今回のような会議の継続を含め国際的なネットワークを強化していくことが強調されました。労働組合のラウンドテーブルのでまとめられた声明(原案、18頁)やABREAの提案(15頁)もこの場で報告されています。


私たちはここで会場を後にしなければならなかったため、この後の模様は見ていません。世界会議の名において3つの賞の表彰が行われたということですが、これは、ローリー・カザンアレンさんの報告を以下に紹介します。なお、閉会にあたっては、会議の名誉議長であるオザスコ市長(次頁写真)が、別掲のような宣言を行ったということが後日伝えられています。

● Ray Sentes賞
Ray Sentes賞は、Rayの年下の娘Kyla Sentesから贈呈された。彼女のスピーチは多くの参加者の涙を誘いました。彼女は、彼女の父のこと、2000年4月13日に命を奪うまでの彼の石綿肺との闘いについて感動的に話しました。偶然の一致だが、この贈呈の日はRayの57歳の誕生日になるはずでした。Kylaは、「ここにいる家族全員にとって、父の生涯と仕事をこの賞と一緒に祝福できることほど、父の記憶にとって名誉なことはありません。そして、父が非常に尊敬していただけでなく、友人と呼べることを喜ぶに違いないバリー・キャッスルマンさん以上にふさわしい受賞者は考えられません」、と語りました。
バリーは、大学院生の時に彼の著書『アスベスト: 医学的・法的側面』の執筆を開始しました。この本はいまでは第4版と版を重ね、運動の中で反アスベスト・キャンペーンのバイブルと信じられるようになっています。バリーは、確固としたアスベスト被災者の擁護者であり、アメリカ全土で何千名ものアスベスト被災者が補償を獲得するのを助けてきました。彼は、多くの国に出かけてはアスベスト被災者グループの代表たちと会い、アドバイスをしてきました。フランスのクリソタイル禁止を防衛する欧州連合(EU)の法律チームの重要なメンバーでもあります。(次頁写真はバリー・キャッスルマンさん(中央)と、左から永倉冬史、古谷杉郎、中地重晴、名取雄司の各氏)

● June Hancock賞
Mavis Robinsonが、巨大多国籍企業を相手に闘った、気取らず、威厳のあるヨークシャー出身の女性であったいまは亡きJune Hancockの思い出を語りました。Juneはその母と同様に、ターナー&ニューアル社のアスベスト工場の近くに住んでいて、中皮腫に罹患した。裁判で勝利したときに、彼女は、「どんなに小さな者であっても闘うことができるし、どんなに大きな企業でも負けることがある」とレポーターに語っている。8月30日に、June Hancock賞は、ブラジルまでの長距離旅行ができなかったフランスのHenri Pezeratに贈られました。
25年以上にわたってHenriは、「荒れ野で呼ばわる者の声」[マタイ伝]であり続けてきました。毒物学者として彼は、フランス政府や労働組合、人々が無視している真実に直面した。Henriは献身的な科学者であり、また、アスベスト被災者の補償の実現とこの致死的な繊維から社会を守るための努力の中で問題を確認し、主張し続けるキャンペイナーです。

● Hendrik Africa賞
Hendrik Afrikaは、アスベスト関連疾患が当たり前のことになっている南アフリカのプリースカで暮らしています。Hendricはオザスコにやってくることを希望し、チケットが手配され、パスポートも用意されました。しかし残念ながら、Hendrikの健康は悪化し、旅行できなくなってしまいました。この賞にHendrikの名を選んだことは象徴的なものです。Hendrikという名前は、ケープ社に対する3,000名の集団訴訟の原告名の最初にあがっている名前です。プリースカで操業していたイギリスのアスベスト企業で、現在プリースカの住民たちが、この企業が引き起こした職業上・環境上の損害の賠償を求めて提訴しています。(プリースカが位置する)北ケープ州の環境大臣Thabo Makweyaは、すべてのアスベスト被災者を記念する黙祷を求め、すばらしいスピーチを行いました。
Hendrik Africa賞は同大臣から、ABREAの初代会長で、自身もアスベスト被災者であるFernando Jose Chiericiに贈られました(写真、右がFernando)。大臣は、「私たち全員にとっての同志であるFernando Jos Chiericiとあなたの国の鋼鉄の意志を持った男女たちは、私たちの誇りです。すべてのアスベスト被災者の代表として、本会議は、あなたにこの名誉と尊敬の賞を贈ります。あなたの不屈さ、忍耐、勇気、生命力があなたを不滅にするでしょう」と宣言しました。

なお、私たちは9月23日にサンパウロ市内で地元の日系新聞に記者会見を行い、25日付けの「サンパウロ新聞」に、今回の世界会議の意義と日本からも参加があったことが報道されました(次頁)。

帰国後、参加者からの提案を受けて、会議の副議長であるフェルナンダ・ギアナージさんの名前で、世界労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)、Organizacion Pan-Americana della Salud(汎米労働機関、OPAS)に宛てた手紙が出されています(前頁参照)。ILO、WHO、OPASのスタッフで知っている人がいたら、ぜひこのメッセージを伝えてほしいと呼びかけられています。

なお、今回の世界会議参加にあたっては、ブラジル在住の宮坂四郎さん、海老根盛人さんに、公私両面にわたって大変お世話になりました。末筆ながら、紙面を借りて御礼申し上げます。
あたかも今回の世界会議に対抗するかのように、11月22-24日にはインド・ニューデリーにおいて、「クリソタイル・アスベストに関する国際会議」が開催されました。これは、インドのアスベスト・セメント製造業協会とアスベスト情報センター、国際アスベスト協会(アメリカ)、アスベスト研究所(カナダ)の主催によるもので、「責任ある使用の強化」をテーマに掲げています。
日本も含めたアジア等の市場を守り、拡大しようという国際的なアスベスト産業の決意の表明とも言えるものでしょう。世界の潮流が確実にアスベスト禁止に向かっているからと言って、放っておいても日本も禁止するだろうと楽観するわけにはいかないのです。
本世界会議の成果を日本でのこれからの取り組みに生かしていきたいと考えます。



【私たちが確認できた本世界会議への参加国―33か国】
アメリカ ブラジル、チリ、アルゼンチン、メキシコ、トリニダードトバゴ、ペルー、パナマ、アメリカ、カナダ
ヨーロッパ イギリス、フランス、オランダ、イタリア、スロヴェニア、スペイン、クロアチア、アイルランド、スイス、デンマーク、フィンランド、ベルギー、ドイツ、ポルトガル
オセアニア オーストラリア、ニュージーランド
アフリカ 南アフリカ、アンゴラ
アジア 日本、韓国、香港、フィリピン、マレーシア、インド




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