2012年4月7日(土)

今日は神奈川新聞杯争奪王座戦に参加してきた。連日、仕事の忙しさはかなりのもので、平日はインターネット将棋を指す暇もなく、明らかに実戦不足であったが、逆に気楽な気持ちで将棋を楽しむつもりで参加した。いつものことではあるが、神奈川県大会はレベルが高く、有名強豪がたくさん参加されていて、そうした顔ぶれを見る度に気が引き締まる。今日の参加者は約60名くらいであったかと思うが、厳しい戦いになることは覚悟していた。当然ながら朝の時点では、この後奇跡を起こすことになるとは夢にも思っていなかった。

 今日も2勝通過2敗失格の予選からスタート。予選落ちも普通にありうる大会であるだけに気が抜けない。予選1回戦は相矢倉から▲4六角▲3六銀▲3七桂の形を作って作戦勝ちになったはずが、そこからスカな攻めをしてしまい、一時は敗勢に陥っていたような気がする。終盤もこちらの玉が詰むや詰まざるやという状況であったが、際どく詰まなかったようで辛勝。

 予選2回戦は今日の最大の反省点。何故か四間飛車を採用したところ、左美濃右四間から一方的にぶっ捌かれてしまった。相手は金銀3枚の堅陣なのに、こちらはあっという間に金1枚のあばら家で風前の灯に。多少は粘れそうな形であったので、それほど悲観まではしていなかったが、今見返すと相当こちらが苦しいとしか思えない。1点狙いで焦点の歩を放ち、自陣の最後の金を相手の角と刺し違えることに成功し、最後はきれいに即詰みに討ち取った。焦点の歩に対する対応を相手が間違えてくれたおかげで勝てたような将棋だったが、不慣れな作戦は自分の首を絞めるだけ、と猛反省させられた1局であった。

 ・・・何はともあれ、無事に2連勝で予選通過となり、一安心。大学の後輩森本も居飛車穴熊相手に大苦戦していたが、蓋を開ければ順当に2連勝で予選通過。慶應からは他に佐藤厚さん・関向さんも順当に予選通過していた。昼は森本とラーメン屋でつけ麺を食べたのだが、これが非常に重たいラーメンで苦戦を余儀なくされ、完食すると午後の対局に支障をきたすと思い、若干残すことに。森本は完食していたが、そのせいで午後の対局はかなり眠そうに指していた・・・ように見えたのは自分だけだろうか。


本戦1回戦:対小林太一君

 午後からは本戦のトーナメント。抽選の結果、相手は早稲田大学の現役レギュラー小林太一君に決まった。森本とは反対側のブロックを引いたこともあり、ほとんど冗談で「決勝で当たろう。そこまで来たらアシスト頼むね。」なんて言っていたのだが、森本には過去にもアシストを何度か依頼するも、一度も応えてくれたことはなく、いつも森本にやられていたので、全く期待してはいなかった(笑)。
 小林太一君との将棋は、小林君の中飛車対私の居飛車穴熊。中盤で金銀交換となり、こちらだけ一方的に銀を手放す羽目になり、振り飛車ペースとなってしまった。こちらも飛車を捌いて難解な終盤戦に突入する。

ここでは▲1四歩△同竜▲1五歩と竜を抑え込まれていたら完全に負けていただろう。本譜は▲2五桂とされたため、△1七竜で竜が抑え込まれずに済んだ。それでも難しいところが多々あったと思うが、最後は指運の泥仕合となり、際どくしのいで150手で辛勝。

 なお、この1回戦で森本ー佐藤厚戦の慶應対決があり、森本はしっかり勝ち切っていた。


本戦2回戦:対吉澤さん

 2回戦の相手は元アマ竜王の吉澤さん。1回戦では関向さんとの大激戦を制していた。以前アマ竜王戦で自分も吉澤さんと対戦したことがあるが、その時は惜しい将棋を逆転負けしてしまった。今日は直前に関向さんが負けたこともあり、気合を入れ直して挑むことにした。吉澤さんも早稲田卒のため、1回戦に続き、早稲田勢との対戦となった。
 吉澤さんとの将棋は、見たことのない大乱戦となった。序盤のこちらの駒組みがおかしかったようで、積極的に咎めに来られた。

 今、3二の銀を△2三銀と上がったところ。こちらも歩得して、おまけに相手陣は壁銀の悪形。少なくとも棒銀で一直線にやられることだけはないはず、と思っていた。また、ここで▲5七歩は△3二飛が機敏な反撃となる。
 ところが、ここで吉澤さんが▲2四銀と棒銀で突進してこられた。ここはチャンスと思い、すかさず△2七歩▲同飛△4九角▲2六飛△5八角成▲同玉△5七金と角金交換の駒損ながら相手の壁銀を咎める猛攻を仕掛け、必勝形に。しかし必勝と思ってからが結構大変な将棋で、吉澤さんの粘りもすごかった。最後もまだ難しかったはずのところ、吉澤さんに致命的な受け損ないが出て、何とか70手で勝ち。最後こそ圧勝だったものの、勝ちきるまでの大変さを思い知った1局ではあった。難敵吉澤さんに勝つことができ、何よりも関向ブロックを勝ち抜くことができて、テンションが上がっていくのを感じていた。


準々決勝:対小林康広さん

 準々決勝はこれまた強豪小林康広さん。前年のアマチュア王将戦の北関東代表であり、同じく前年のレーティング選手権神奈川県大会でも対戦し、その時は小林さんの右四間からの攻めを受け切れず、敗れた。今日の対戦も楽しみにしていたが、前回は不甲斐ない将棋を指してしまったので、今日こそはいい将棋を指したいと思っていた。
 小林さんとの将棋は、前回見事にやられてしまった右四間かと思いきや、こちらの早めの▲5七銀を咎めて銀矢倉にしてこられた。どうもこちらの序盤センスが悪かったようで、組みあがった時点では作戦負けに。中盤、見事に角交換+飛車先の歩を切られ、苦しい展開になったが、小林さんの飛車の引き場所がイマイチだったようで、飛車を僻地に追いやることができ、難解な終盤となった。それでも小林さんの攻めの方が厳しく、一時は完全な負け形になった。

△7七歩の垂らしに▲6九桂と受けた局面だが、ここでは△9七銀とされたら明快に負けだった。▲同金は同飛成で受けなしだし、▲7七金も△同金▲同桂△8九飛成で先手玉は詰み。後手玉は▲2二桂成以下王手はかかるものの、4一の角が受けに利いていて詰みはない。
この局面の直前、端攻めから嫌味嫌味と相手玉に迫ったのが功を奏したのか、秒読みに追われた小林さんが突如乱れ始めた。ここから△6五金と取った手は疑問だったと思う。▲7七桂で嫌味な垂れ歩を取り払い、続く△2三玉に▲6五桂となっては、完全に逆転した。しかしその後、こちらも13手詰を逃した挙句、危険な寄せをしてしまい、最後は先手玉が詰むや詰まざるやというところまで追い込まれてしまったが、際どく逃れ、217手で辛勝。何回逆転したか分からないような将棋だったが、こういう将棋を拾えたのは幸運だったと思う。

 横では森本が山内祥敬君相手にど負けの将棋を大逆転勝ちしたらしく、山内君はかなり悔しがっていた。眠そうなそぶりを見せていた森本だが、やはりこの男の終盤は強い。


準決勝:対浅倉君

 いよいよベスト4。この時点で既に来年の同大会の予選免除のシード権は確定していたが、ここまで勝ち進んだ以上は優勝したいと思っていた。しかし、相手は強豪浅倉君。アマ竜王戦全国3位の実績があり、直接対決でもまだ勝ったことがなく、厳しい戦いになることは避けられない。浅倉君も早稲田大学に入学したばかりの1年生で、1回戦・2回戦に続き、早稲田勢との対戦となった。
 浅倉君との将棋は角換わりとなり、こちらは得意の右玉に。そういえば浅倉君も右玉が得意だったようなイメージがあるが、今日はこちらに右玉を譲ってくれた。中盤あきらかに無理と思われる仕掛けをしてきたため、一瞬角得となる瞬間があったが、そこからの浅倉君の立て直しも中々で、いつの間にかこちらが駒損になって苦しくなっていった。必死に相手玉に嫌味をつけるも、浅倉君の攻めは厳しく、いよいよこちらの玉に受けはなくなった。浅倉君の玉はぱっと見は詰まなさそうで、自分の快進撃もここまでかと思っていたが・・・。

ここから△8八金▲同金上△6九飛▲7九金打△8八歩成▲同玉△7九飛成▲同玉△6八金▲同金△同と▲同玉△7六桂▲6七玉△6八金▲6六玉△8八角▲7六玉△7七金▲6六玉△6七金寄で浅倉君投了。全然読み切れないまま王手ラッシュをしていったら、奇跡的にぴったり詰んでいた。詰まないと思っていた玉が23手という長手数で詰んでおり、辛勝。最後に詰みを読み切ったのは終了わずか5手前の△8八角と指した局面だったか。準々決勝に続き、174手もの大熱戦だったが、こういう将棋を拾えたのは幸運としかいいようがない。

 もう一方の準決勝は森本が神奈川大のエース岩泉君にしっかりと勝ち切っていた。


決勝:対森本

 いよいよ決勝。神奈川県大会の決勝に残ったのは、代表枠が2名ある関東アマ名の1ブロックの決勝以外には初めてのことだった。お昼過ぎに抽選を引いた直後、ほとんど冗談で森本に「決勝でのアシスト」をお願いしていたのだが、「決勝まで勝ち残れたら、勝ちを譲るなんてありえません」ときっぱり断られた(笑)。その森本と本当に決勝戦をするとは思いもしなかった。森本は昨年7月にもアマ名の神奈川県大会で優勝しており、今回の決勝進出も十分あり得ると思っていたが、自分が決勝まで勝ち残れるとは思っていなかったためである。
 森本とは社団戦では同じ慶應OBチームとして共にチームを組んで戦っており、チームメイトとしては最も安定して勝ち星を期待できる頼もしい存在なのだが、こうして個人戦の対戦相手として戦う際は、先輩に対して花を持たせる配慮も皆無であり(笑)、過去一度も勝たせてもらったことがなく、特に終盤力が非常に強いため、敵に回すと最も嫌な対戦相手の一人といえる。

 その決勝戦は私の先手で▲7六歩としたら森本は△3二飛!。はぁ・・・と思わずため息をついてしまったが、気を取り直して得意の左玉に構えることにした。実は森本とは昨年7月のアマ名人戦神奈川県大会では予選・本戦と立て続けに対戦しており、いずれも得意の左玉で挑んだものの、2局とも森本の速攻作戦でボロボロにされていた。その時の印象が強く、正直自信はなかったものの、結局懲りずに三度左玉を採用した。やはり県大会の決勝という大舞台で不慣れな作戦は使えない。こちらの左玉に対し、今回も森本特有の速攻作戦で来たのだが、今日の森本の構想はあまりにも単調だった。

 この局面の直前、△2四角と打ったのが単調な構想で、ほとんど敗着といって良いほど罪が重かった。△2四飛と回る筋すらなくなったため、安心して3八の金を▲4七金右と上がることができ、後手の速攻は失敗に終わった。既にこの局面は大差で作戦勝ちになっている。ここから▲1六角と打ったのが会心の一手。以下△3五飛▲3六歩△1五飛▲3七桂と進み、森本の飛車を僻地に追いやることに成功。駒の損得こそなかったものの、陣形が違いすぎて大差で必勝形になった。その後、一瞬角を飛び出したところ、その角を素抜かれそうになるが、反省して元の位置まで引き返したのが良い辛抱だったと思う。ずっと大差だったこともあり、森本は既に諦めていたようで、最後もこちらの攻めが綺麗に決まって101手で望外の圧勝。今日は苦しい戦いが多かったが、決勝戦だけは気持ち良すぎるくらい綺麗に攻めが決まった。森本との終盤のねじり合いにさせなかったことが勝因だったと思う。


・・・ということで、朝の時点では気楽に参加することしか考えていなかったところ、まさかの優勝となり、全日本アマチュア将棋名人戦の全国大会の出場も決まった。これまで何度も惜しいところで神奈川県代表の座を掴むことができず、悔しい思いもしたが、ようやく県代表の座を獲得することができ、素直にとても嬉しかった。


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将棋関係(中学時代)