2012年9月7日(金)
いよいよ明日から待ちに待った全日本アマチュア将棋名人戦の全国大会が行われる。今日はその前夜祭。明日の調整も兼ねて、誰かと将棋を指したいと思い、早めにゆうぽうとにチェックインすることに。受付を済ませた際に明日の全国大会の予選の抽選を引いた。「4組1番」ということだったが、同じ組に誰がいるかはこの時点ではまだわからない。一週間ほど前から将棋連盟のホームページにアップされていた「全国大会出場者一覧」を見ていたので、同じブロックに誰が入っても厳しい戦いになるとは思っていたので、ある意味覚悟も決まっていた・・・つもりだった。
一足先に自分の部屋に荷物を置いてくつろいでいると、隣の部屋から物音がしてきた。同じ神奈川県代表として出場する浅倉君が来たようだ。浅倉君は7月のアマ名人戦神奈川県大会で優勝し、神奈川代表の2枠目を獲得されたのだが、8月には平成最強者戦で優勝するなど、今やトップアマの一人として活躍している。一方の私は奇跡的に神奈川代表の1枠目を獲得したものの、平成最強者戦でもベスト16止まりで(これでも実力を考えれば頑張った方だとは思うが)、浅倉君の方が格上なのは明らか。前夜祭までの空き時間を有効に活用すべく、明日の試合に向けて教わるつもりで浅倉君と2局将棋を指した。結果は1勝1敗。感想戦もしっかりと行い、良い勉強になった。
夕方6時半からはいよいよ前夜祭。バイキング形式のため、美味しい料理が食べ放題というのも嬉しいことであるが、何よりもここに揃ったメンバーの顔ぶれがすごく、この場に自分がいることに違和感を感じてしまう。それでもこの檜舞台に立てたことは本当に嬉しい気持ちであった。
乾杯の前に、各都道府県代表選手1人1人が挨拶を行った。皆有名人ばかりなのに、「まずは予選突破」と謙虚な目標コメントを言われている方が非常に多くてびっくりした。自分もまた「予選突破」を目標とする挨拶をしたが、とにかく良い将棋を指して、1局でも多く強豪選手に教わりたいと思っていた。
バイキングの食べ放題も中盤にさしかかった頃、予選の組み合わせが発表になった。自分はゆうぽうとに早めにチェックインした関係で、抽選を引いた順番がかなり早かったため、予選の同じ組に誰がいるのか、全く知らなかったのだが、この予選組み合わせ発表が行われる少し前に、兵庫県代表の天野啓吾さんから「多分予選が同じ組だと思うので宜しく!」とお声かけいただいた。本来、この前夜祭で正式に予選組み合わせが発表になる前に、選手に予選組み合わせが知らされることはないはずなのだが、どうやら先に私が「4組1番」を引いていたことを、後から「4組4番」を引いた天野啓吾さんが受付の際に見てしまったらしい。それはともかく、全国的には全く無名の私に、高校選手権・高校竜王・学生名人等、数々の全国タイトルを獲得されている天野さんから気さくにお声かけいただけたのは非常に光栄だった。思えば自分が初めて出場した全国大会が高校1年の時の高校選手権で、その時個人戦で全国優勝されたのが天野啓吾さんであった。天野啓吾さんの全国優勝を間近で見たことがきっかけで、天野さんが決勝で使った「右玉戦法」を真似するようになり、その後の大会では「右玉戦法」のおかげで随分白星を稼ぐこともできたわけで、あの高校選手権は今でも忘れられない大会である。
・・・というわけで、予選組み合わせが発表になったのだが、自分のいた予選4組は
(1)私(神奈川県代表)
(2)武田 浩司氏(北海道代表)・・・元学生名人
(3)鈴木 勝裕氏(秋田県代表)・・・元高校準竜王
(4)天野 啓吾氏(兵庫県代表)・・・元学生名人、元高校竜王、元高校選手権者
となった。いずれも高校や大学時代に個人で全国優勝・全国準優勝経験のある強豪ばかりであり、この4人のうち2人しか予選を通過できないというのは中々厳しいブロックだとは思ったが、一般のアマ大会の全国大会という檜舞台であることを考えれば、これでも決して籤運が悪いとはいえないだろう。言い換えれば、それだけ出場者全体のレベルが高いということである。
今回の予選組み合わせを見ると、一般のアマ大会の全国タイトルホルダーは、概ね別々の予選ブロックに分散した印象であった。後日掲載された週刊将棋にも同じことが書いてあったため、自分の感覚はずれていなかったと思う。ただ、翌日東京都代表の小林知直君から聞いた話によれば、アマチュアの全国タイトルホルダーが別々のブロックに分散した今回の組み合わせの中では、自分がいた予選4組はかなり厳しいブロックという評判だったらしい。まさか自分を高く評価していた人はいないであろうが、残る3人はたしかに強豪ばかりであり、かなり厳しいブロックという評判であったのもうなずける。
予選の組み合わせ表が発表になると、しばらくは皆予選組み合わせ表を真剣に見て、その話題で持ち切りだったが、その後は再び歓談に。天野啓吾さんと色々お話しさせていただくことができ、とても楽しかった。また、学生時代の同期で今やアマチュア将棋界bPとの呼び声が高い清水上君(埼玉県代表)や、早稲田のエース細川さん(東京都代表)等とも少しお話しすることができ、とても懐かしかった。その他、神奈川新聞の中山さんも取材のため、前夜祭からお見えになっていて、色々とお話しさせていただいたた。中山さんもアマ名人戦の神奈川県代表経験者として、神奈川県代表である浅倉君と私に、緊張をほぐすべく色々とアドバイスをしてくださったが、本当にありがたかった。
そんなこんなで楽しい前夜祭も終了し、いよいよ明日は全国大会の予選が始まる。
2012年9月8日(土)
今日は待ちに待ったアマ名人戦全国大会予選の日。昨夜は緊張のためか、ぐっすり眠ることができず、何度も起きたりして、結局まとまった睡眠を取ることができなかった。それでもトータル睡眠時間としては7時間近くあったと思うので、疲れは溜まってはいなかった。
朝食を取りにレストランに行くと、またもやバイキング形式。ここでは水谷創君(愛知県代表)と少し話をすることができた。水谷君は8月の平成最強者戦で準優勝されており、前年のアマ名人戦全国大会でも3位になる等、非常に勢いがある。彼は今回こそ優勝したい、という思いも強いようであった。
朝食を終えていよいよ試合会場へ。前日の前夜祭で田中寅彦九段から「明日は皆さん遅刻しないように。」と口を酸っぱく言われていたはずなのに、2名の遅刻者が出てしまったらしく、対局開始が少々遅れた。対局開始前に田中寅彦九段から「あなた方はただの将棋大会の出場者ではない。都道府県を代表する代表選手なのだから、皆の模範となるような行動を心掛けてもらいたい」と厳しい注意が出場選手全員に向けられた。後で聞いた話では、遅刻した選手は個別にお叱りを受けたり、という場面もあったらしい。高校時代、高校竜王戦の全国大会で大寝坊してしまい、他の都道府県代表選手を移動用のバスで待たせたこともあった私は、その時のことを思い出した。その時私は当然のように朝食を取れず、慌てて部屋を飛び出し靴下も履き損ねて裸足のまま靴を履いてしまい、試合会場へ行ったらスリッパに履き替えさせられ、一人裸足で恥ずかしい思いをするなど、痛い目にあった記憶はある。しかしながら、寝坊したことをそこまで強く怒られた記憶はない。勿論怒られるべき話であったのだろうが、一般のアマ大会の都道府県代表ともなると、行動規範等も含め、求められる水準は高く、それをしっかりと自覚しなければならない、ということなのだろう。これから気合を入れて試合に臨もうという時だったが、とにかく厳しい挨拶だったのが印象的だった。
さて、今日の初戦は元学生名人の武田浩司君(北海道代表)と。こちらの先手番となり、相矢倉の注文をつけた。丁度試したい作戦があったので、それをぶつける絶好の機会と思っていたが、武田君が左美濃から右四間模様に構えて来られたため、こちらは中央を手厚くする方針を取った。それでも右桂を使わなければ勝てないと思い、桂頭の傷を承知で右桂を跳ねたところ、数手後に武田君が桂頭攻めに来られた。もちろん、この桂頭攻めだけでつぶれるはずはなかったのだが、こちらはつぶれないようにするのが精一杯となってしまい、こちらから仕掛けられず作戦負けに。以下は無理な動きを強いられ、自分から崩れて最後は圧敗。50分30秒というアマチュアとしては長めの持ち時間だっただけに、序盤は慎重に時間を使ったつもりが、慎重に指し過ぎて仕掛け所を失ってしまった。初めて50分30秒の将棋を指したが、持ち時間が非常に長く、時間の使い方が難しかった。
予選1回戦が無残にも圧敗となり、少々元気をなくしていたが、気を取り直して昼食へ。昼食は昼食券を渡されており、寿司屋・洋食屋・和食屋等、3店か4店の中から選べる方式であったが、自分は細川さん(東京都代表)・天野啓吾さん(兵庫県代表)・伊藤君(千葉県代表)・小林知直君(東京都代表)とともに寿司屋に行くことに。このメンバーの中で予選1回戦を負けたのは私だけで、1人ブルーになっていたが、皆の1回戦の将棋を携帯で棋譜並べして色々と勉強させてもらうことができ、とても良かった。
昼食後、2回戦は高校竜王戦全国準優勝の実績を持つ鈴木勝裕氏(秋田県代表)と。1回戦では天野啓吾さん(兵庫県代表)と何故か相振り飛車をやっていたので、飛車を振ってくる可能性もあるかな、と思っていたが、私との将棋では鈴木氏が左美濃右四間をやって来られた。こちらも得意の仕掛け(早めの▲3五歩突き捨て)で3四に空間を作ってペースを掴んだつもりだった。その後の対応がおかしかったようで、明治大OBの齋藤D君からは「もっと普通に指せば良いのに」とのご指摘をいただいたが、それでも終盤の入口はこちらのペースだったと思う。ところが、優勢を意識した直後、決めに行くつもりで馬を見切って金銀両取りをかけたのがやや甘かったようで、急転直下負け筋に陥った。しかし、鈴木氏も明快な寄せを逃し、最後にチャンスが巡ってきた。

ここから▲3三桂成△同桂▲2二金△4二玉▲5四桂△同金▲4三銀△同玉▲3二角△4四玉と進んだ。双方とも持ち時間50分という長い持ち時間を使い切り、既に1手30秒の秒読みになっていたが、△4四玉と進んだ局面で思わぬ落とし穴が。ここでは普通に▲5四角成△同玉▲5五銀としていれば、以下△4五玉▲5四角△3四玉▲4三角成△同玉▲4四金△5二玉▲5三金△4一玉▲4二銀で後手玉は即詰みだった。
ところが、△4四玉の局面で私は▲3四金△同玉▲4三角打の順が目に映って▲3四金と指してしまった。以下は△5三玉▲5四角成△同玉▲7二角△6四玉▲6五銀△7三玉▲6三金▲8四玉で後手玉は詰まず、無念の投了。意外と手が広かったため、間違えてしまった。不運という言い方もできなくはないが、23手詰という長手数とはいえ、それほど難しい即詰みではなかったはずであり、これを逃した自分の実力のなさを反省しなくてはなるまい。
・・・ということで、4月に県代表の座を獲得してから5ヶ月間待ちに待った全日本アマチュア将棋名人戦の全国大会は、あっという間に2連敗で予選落ちとなってしまった。ブロック的に厳しかった感も否めなくはないが、50分30秒の将棋の経験不足をはじめ、自分の土俵に引きずり込んで戦えなかったこと、等、負けた原因は挙げればキリがない。残念な結果に終わってしまい、高校時代から憧れていた天野啓吾さんと同じブロックに入ったのに天野さんと対戦できなかったことも悔しかったが、今の自分の実力では今日の結果も仕方ないかもしれない。次回、県代表の座を掴めるのはいつになるか全く分からないが、今日の経験を活かして、今後も精進し続けたいと思う。
2012年9月9日(日)
昨日、アマ名全国大会の予選であっけなく2連敗散ってしまい、ホテルの宿泊権利も失ってしまった。予選で1勝2敗となって予選敗退になった選手は帰る時間が遅くなるためなのか、ホテルの宿泊権利が失われることはないが、2連敗した選手は容赦なくホテルの宿泊権利を失う。何だかあまりにも厳しすぎる気がしたが、これもまた厳しい勝負の世界所以か。昔、高校竜王戦の全国大会に出場した時は、初日にベスト4まで決めてしまうため、ほとんどの選手は初日敗退となるが、初日に帰ることは許されておらず、準決勝・決勝と最後までしっかり観戦して勉強していくように、という空気があったように思う。実際、高校竜王戦の全国大会の時は、前夜祭の日から大会2日目まで3泊して、大会がすべて終わった翌日に帰る、というのが一般的な日程だった。一般のアマ大会ならば尚更最後まで残って勉強していくように、という考え方があっても良さそうだが、残念ながら宿泊の権利を失ったため、昨夜は実家に帰ることに。
今日は勉強のため本戦トーナメントを観戦しに実家から試合会場へ行った。予選通過されているだけあって、更にレベルが高くなっているのは当然といえば当然だが、どの将棋も観ていて本当に勉強になる。1回戦で昨年の優勝者である今泉さん・朝日アマ名人の清水上君等、バリバリの優勝候補が次々と姿を消し、びっくりしたが、これも全国大会のレベルの高さを示しているということだろうか。
更に印象的だったのが、出場者ではなくても、将棋の勉強のために観戦に来られている方が非常に多いということである。自分は今回が初出場で、大会の空気も含めて何もかもが非常に新鮮だったが、熱心に勉強に来られている方は自分の何倍もこのアマ名の全国大会を熟知されているのだろう。それに比べれば、自分の努力はまだまだ全然足りない、ということも痛感させられた。それと今日観戦していて思ったのは、また近い将来、この全国大会の檜舞台に選手として出場したい、ということである。昨日予選敗退した直後は精神的にも落ち込んでいたので、次の全国大会のことなどとても考えられなかったが、1日経って改めてこの全国大会が素晴らしい檜舞台であると、当たり前のことながら、強くそう実感した。今の自分の実力では、次に全国大会に出られるのはいつになるのかは全く分からないが、挑戦なくして結果は出せないので、とにかく諦めずに何度も何度もチャレンジを続けたいと思う。
明日はいよいよ準決勝以降の試合が行われ、今年度のアマ名人も決定する。しっかりと観戦して勉強し、より多くのものを吸収できればと思っている。
2012年9月10日(月)
今日はアマ名人戦全国大会最終日。今日は月曜日だが、何かの間違いで準決勝まで勝ち残った場合に備え、この日までを夏季休暇とするよう、休みを取っていた。なので、今日も迷わず試合会場へ足を運び、全日本アマチュア将棋名人戦を最後まで観戦して、しっかり勉強しようと思っていた。朝寝坊してしまい、準決勝の将棋を見そびれたが、決勝戦は初手からしっかり観戦することができた。決勝のカードは早咲誠和氏(支部名人)VS井上輝彦氏(愛知県代表)。井上氏得意の振り穴対早咲氏の引き角戦法となった。井上氏が得意の角交換型振り穴風に銀を3三へ早めに繰り出す構想を見せたが、早咲さんはこれを見て角を6六に上がって相手の飛銀の動きを牽制し、作戦勝ちに。中盤、井上氏が意表の角ぶつけから角交換となり、うまく馬を自陣に成り返って長期戦に持ち込めばまだ難しい将棋であったかと思われるが、本譜は井上氏が角を成り返った直後に馬飛交換されてしまい、振り穴側の傷(無理矢理角交換した関係で8三にあるべき歩が8四にあり)のため、4七角・3八角打と二枚角を打たれると受けがなくなるため、やむを得ず自陣飛車を放たざるを得なくなってしまった。終始、振り穴側だけが陣形がバラバラで収拾がつかず、最後はボロボロに駒を取られ、大差となって井上氏投了。ここまで強い将棋で安定して勝ち上がってきた井上氏だったが、決勝は早咲さんの構想に圧倒された格好となった。
今日の決勝の将棋は、途中から控室での検討を中心に勉強させていただいたのだが、検討陣も塚田九段を筆頭に、今回全国3位となった古作さん、奨励会三段の黒澤氏、元学生名人の天野啓吾さんなど、超豪華メンバーで、最後の感想戦にも出てこなかった水面下での変化等、大変勉強になった。
また、今日は甲州支部の天位さんとお話しさせていただき、最近のアマ棋界関連のこともいくつか教えていただいた。1月の小平の大会で対戦した佐野さんも同じく甲州支部の方で、佐野さんも昨日会場にいらっしゃっていて、ご挨拶しそびれてしまったのだが、お二人とも本当に将棋が好きで熱心な方であり、自分ももっと見習わなくてはと思った。
今回のアマ名人戦は、自分としては実力不足で不完全燃焼に終わってしまい、残念であったが、トップアマとの実力差を思い知ることができたし、新たな目標もできた。もっともっと頑張らなくてはならないこともよく分かったし、多くの将棋を観て勉強になったし、色々な点で大きな収穫だったと思う。次にこのような檜舞台に立てるチャンスがいつ訪れるかは分からないが、とにかくチャレンジし続けたいと思う。
今回の全日本アマチュア将棋名人戦全国大会は、後日週刊将棋・将棋世界(月刊)・将棋年鑑にも掲載されたし、NHKの将棋講座の特集コーナーでも放送された。個人的には初めて全国TV放送に数回映ったりして、ちょっと刺激的であった。チラ見程度で数回一瞬映っただけのもので、何より悔しい思いをした大会でもあったので、複雑な気持ちではあったが、それでも自分の中では貴重な放送だと思っている。
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