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「社会保障・税一体改革」関連8法案の成立に当たって(談話)

2012年8月10日

「社会保障・税一体改革」関連8法案の成立に当たって(談話)


社会民主党幹事長 重野安正

1.本日の参議院本会議で、民自公の3党合意に基づき修正された、消費税増税をはじめとする「社会保障・税一体改革」関連8法案が採決され、民自公3党などの賛成で可決・成立した。社民党は、一体改革とは名ばかりの増税ありきの消費税増税法案は、その内容と手続きから廃案にすべきとの立場で反対した。社民党は、参議院段階において、3党合意の問題点、国民の暮らしへの影響、消費税増税の問題点、あるべき税制改革などについて政府及び民自公3党を追及した。しかし、3党修正に対する3党の答弁がばらばらであり、逆進性対策や中小企業の転嫁対策、累進性強化など残された課題の方向性についてもはっきりしないなど、関連法案自体の審議が十分とはいえるものではなかった。そこで増税法案の採決阻止を求めて、参議院野党7会派で野田首相問責決議案を提出した。しかし、密室談合ともいうべき民自公3党の党首会談の合意に基づき、すべての案件に優先して処理すべき問責決議案が3党の党利党略でたなざらしにされたまま、今日の締めくくり総括質疑・討論・採決の日程が強行された。民自公3党に大いなる怒りを持って抗議する。

2.各種の世論調査でも、社会保障の充実を求める国民の期待や願いは大きく、憲法25条の理念を踏まえて、安心の社会保障のビジョンを示し、国会論議を通じて国民的合意を図るべきことが求められていた。その上で、それを賄う財源がどの程度必要で、どう負担するのが公正・公平なのかを論じるべきであった。しかし、「社会保障・税一体改革」は、消費税増税13.5兆円を実現するために、2.7兆円の社会保障の充実の「薄皮」をまとったものにすぎなかった。しかも、民自公3党の修正によって、後期高齢者医療制度の廃止や最低保障年金の棚上げ、パートなど短時間労働者の厚生年金・健康保険適用の縮小など、社会保障分野の先送り・後退が相次ぎ、また税制の抜本改革についても、所得税の最高税率引上げ規定や資産課税の改正規定が削除・先送りされ、結局、「薄皮」すら剥がされ、逆進性の強い消費税増税だけが残るものとなった。

3.本来、一体改革というのであれば、医療崩壊や介護難民、待機児童の解消、老後のくらしの不安の払拭、子どもの貧困の根絶、ワーキングプアの若者やシングルマザーやリストラ・賃金カットに晒されている中高年層への支援、障がい者福祉の充実など、人生それぞれのステージに応じて、またどんなリスクに直面しても必ず支えてくれるという安心の社会保障制度を築き上げるためのものであるべきである。しかし、今回の一体改革は、財政再建が強調される一方、危機に陥っている社会の持続可能性そのものをさらに悪化させるものとなってしまっている。負担だけが先行し、社会保障の全体像もバランスも全く見えてこない。「改革が矮小化されてきた、あるいは、増税のための口実なのではないかという受けとめが広がっても不思議ではない」、「社会保障の機能強化なのか削減なのかも判然としない」(宮本太郎北海道大学教授)などの受け止めも広がっている。

4.2009年の政権交代の原動力は、自公政権の進めてきた、大企業中心・アメリカ依存の構造改革路線からの転換を求める声であり、民主党に対して、「長きにわたり既得権益構造の上に座り、官僚支配を許してきた自民党政治を根底から転換し、政策を根本から改める」ことを託したはずである。そして、鳩山連立政権の三党合意は、税金のムダづかいの一掃と家計に対する支援を最重点にすると位置づけ、国民の可処分所得を増やすことを打ち出し、任期中の消費税率の引き上げは行わないとしていた。可処分所得を増加させ、国民生活を立て直すのが先なのに、消費税増税で負担増をおしつけるのは公約違反そのものである。

5.厚労省の「2011年国民生活基礎調査」によれば、1世帯当たりの平均所得は、ピークの1994年から100万円以上も落ち込み、生活について「苦しい」と答えたのは全世帯のうちの6割を超えて過去最高となっている。加えて、年少扶養控除の廃止と成年扶養控除の縮小、健康保険や厚生年金の保険料の引き上げ、復興特別増税など、負担増のメニューはメジロ押しであり、こうしたところに、消費税増税13.5兆円という戦後最大級の増税が襲いかかることによって、個人消費が落ち込み、国民生活や家計が破壊されることは明らかであるし、内需が低迷し、デフレ脱却どころか景気のさらなる悪化をもたらすことになる。また、不要・不急の事業、原発関連予算や「思いやり予算」などの歳出の徹底的な見直しも不十分である。この間の税収減の大きな要因となっている、高額所得者や金融資産家、富裕層や大企業への優遇税制をはじめとする不公平税制の抜本是正もなされていない。逆進性対策もはっきりしないうえ、輸出大企業は輸出戻し税で還付の一方、中小企業は転嫁対策が十分でないなど、消費税の欠陥是正もない。こうした中、低所得者ほど重い負担となり、中小零細事業者に大きな影響を与える消費税?税は認めることができない。

6.3党の修正で、成長戦略や防災・減災対策にも資金を重点的に配分するとされ、公共投資の拡大につながる附則18条2項が税法に盛り込まれた。自民党は10年200兆円の国土強靱化を提唱し、公明党も10年100兆円の減災・防災ニューディールを提起している。消費税増税で社会保障分の赤字国債が浮くからその分建設国債の増発を、では財政再建もまやかしになりかねない。また、自民党案を基にした、社会保障制度改革推進法案は、社会保障の理念に関して、社会による支え合いではなく、自立を家族相互、国民相互の助け合いという「自助」・「家族」が前面に出たものに転換された。そして、社会保障給付の重点化、制度運営の効率化、介護サービスの効率化および重点化、医療保険制度の適正化、最後のセーフティネットである生活保護制度の改悪など、社会保障サービス切り下げの方向性があらわになっている。

7.国会内において圧倒的多数で増税にひた走る民自公3党と、消費税率引き上げに反対の国民とのねじれも大きくなっている。自民党との同化に進む野田内閣は、消費税増税のみならず、原発再稼働、TPP、沖縄・辺野古新基地建設、オスプレイ配備など、対米追随の国民生活破壊にひた走り、国民の期待を裏切り続けている。直近の共同通信の世論調査では、消費税増税賛成は12.8%にすぎず、今国会での法案成立についてもしない方がよいが57.9%を占め、した方がよいを20%も上回っている。そして、野田内閣を「支持する」が28.1%だったのに対し、「支持しない」が60%に達している。いわゆる「危険水域」を遙かに超え、野田政権が国民の支持を失っていることは明々白々である。「命をかける」というのなら、「近いうちに」ではなく堂々と解散総選挙に踏み切り、国民の信を問うべきである。社民党は、野田内閣に対し燎原の火のごとく広がる国民の怒りの声の受け皿として、弱き者、小さき者の代弁者として、失われた政治への信頼を取り戻し、憲法の保障する諸権利を実現するため、全力で奮闘する決意である。

以上