野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates

13歳のハローワーク
出版 
幻冬舎
  4月は新しいスタートの季節だ。希望の学校や会社に入り、さあこれからという人もいれば、夢かなわず、無念再起を期すという人も中にはいることだろう。
 作家村上龍氏が書いた「13歳のハローワーク」がよく読まれているそうだ。
 村上氏によると、この世の中には2種類の人間、大人しかいない。それは「自分の好きな仕事、自分に向いている仕事で生活の糧を得ている人と、そうでない人」だ。そして自分は何が好きか、自分の才能は何に向いているか、を考えるための重要な武器が好奇心であり、その好奇心を将来の仕事に結びつけるための本が「13歳のハローワーク」だと言う。
 例えば、ダンスが好きな子にはバレリーナ、チアリーダー、舞妓、などの仕事が詳しく紹介されている。そして各章の最後に村上氏のエッセーが添えられていて、これがまた読ませるのだ。
 ダンスの章には「死ぬまで踊り続ける」が載っている。村上氏の監督した映画「KYOKO」のダンス指導・振り付けをしたキューバ人、アナ・ルイーサは根っからのダンサーだ。ぜんそくの持病を押して踊り続け、結局ダンスの途中で心臓発作で亡くなっている。
 
  この本は仕事の紹介のガイドブックであるとともに、村上氏がこれまでに出会った仕事師たちの伝記でもある。
 さて、この本にはユニークな職業、こんな仕事ってあったの、というものも紹介されていて面白い。
 花が好きな子には「プラントハンター」、虫が好きな子には「ミミズによる廃棄物処理」、アウトドアライフが好きな子には「マダギ」といった具合だ。人の役に立つのが好きな子には、政治家や公務員が挙げられている。この本は議会や役所にも1冊づつ置いておくべきであろう。
 何も好きなことが出ていない子のための特別編というのがあって、エッチなことが好きな子には「本当は人のからだに興味があるだけということもある。だから優秀な医師になる可能性がある。しかし当たり前のことだが、エッチなことが好きというだけでは医師にはなれない」と、いかにも親切、かつユーモラスに述べている。
 村上氏は、この本の最後にNPOの可能性と重要性に注目している。これまでの「成功」のイメージであった、大会社に入って出世し、金を稼ぎ大きな家に住むというのが変り、仕事に充実感を持つことができ、社会的に価値が認められ、豊かな人的ネットワークを持つことが、これからの成功の基準となる、と書いている。そして日本のNPOは、その無限の可能性を秘めているのだと。
 さあ、若葉が萌え出す新緑の季節、あなたはどのような人生の目標に向かって歩き出すのであろうか。

 建築家 野口政司
 
2006年4月28日(金曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
13歳のハローワーク