野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates



作・絵 シェル・シルヴァスタイン出版社 篠崎書林
  「むかし りんごのきがあって・・・かわいい ちびっこと なかよし。 まいにち ちびっこは やってきて きのはを あつめ かんむり こしらえて もりの おおさまきどり。・・」
 ちびっこは幹に登ったり、枝にぶらさがり、りんごを食べたりと木のことが大好き。だから木もとてもうれしかった。
 やがて子供は成長し、少女に恋をしたりしながら、しだいに木のことを忘れてしまう。
 久しぶりに訪ねてきた少年が、おこづかいをねだると、木はりんごの実を町でお金にするように勧めた。青年になって家が欲しいと言うと、枝をすべて与え家を建てさせた。そして大人になって船に乗って遠くへ行きたいと望むと、木は自分の幹を切らせて船を造らせたのだった。木は切り株だけになってしまった。「きは それで うれしかった・・・だけど それは ほんとかな。」

 シェル・シルヴァスタインの絵本 『おおきな木』 (原題 THE GIVING TREE 『与える木』)は、読み終えた後に深い印象を残す。りんごの実をかみ砕いて食べたつもりが、おなかの中でりんごの実がそのまま存在しているような、そんな気分だ。
 母親が子供に無垢(むく)の愛を与え続ける物語のようでもあるし、自然環境を傷め続ける人間のエゴを描いているようにも思える。
 長い年月がたって、老人となった男が木のもとに帰ってくる最後のシーンは、シルヴァスタインの絵の魅力があふれている。これ以上哀しく、また美しい物語はないのではないだろうか。
 10月16日、日邑ともゑさんの朗読とポルトガルギターデュオ “マリオネット”の演奏によって、神山森林公園の野外ステージでこの 『おおきな木』 が上演される。オリジナル曲を現在作曲中で、今回が初演である。
 前日の15日には、建築家の安藤忠雄氏の講演もある。紅葉の始まりかけた神山森林公園で開かれる「四国の森づくりシンポジウム」に、今年の秋をみつけに来られませんか。

建築家 野口政司
2005年9月30日(金曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
おおきな木