野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates


里山の家 
 まちに住む人たちが、シックハウスの心配のない家をつくることと、日本の森を守ることを同時に進める活動を始めた。
 今月3日、大阪で生活共同組合と4つのNPOメンバーらが「自然の住まい協議会」を設立し、『まちに森をつくる−日本の山の木で家をつくろう』 というシンポジウムを開いたのだ。
 私も企画に参加したこの催しのことを紹介しよう。
 まず大阪のNPO「国産材住宅促進協会」の北山康子代表が、20年間に550棟の市民参加型木造住宅をつくってきた経験から講演。マンションの床を新建材から杉板に張り替えたら子供が和やかになったこと、木の家はCО2を蓄え、まちに森をつくることになる、そして木材は輸入できるが、美しい豊かな森を輸入することはできない、と話した。


 
 後半のシンポジウムでは、コープ自然派の大川智恵子理事長が、この協議会の原点は吉野川であることを強調した。食の安全から始まった上下流の交わりが、住の安全を求めてのまちと森の交流へと広がったことを説明した。
  これを受けて、徳島のNPO「里山の風景をつくる会」の近藤こよ美代表が、木をつかうことで上流の森を保全することができる、木の家は1件、2件と建っていくことで美しい里山の風景がつくられると、スライドを上映しながら会の活動を報告した。
 高知から参加した「木と人出会い館」の塩田正興館長は、木の家を建てたい人と建築家の出会いをプロデュースし、3年間で74棟の契約を結んだとのこと。女優の日邑ともゑさんをイメ−ジキャラクターにし、テレビやラジオの建築探訪の番組で“土佐派の家”を広くアピールしていると話した。
 最後に吉野川源流、嶺北の森の田岡秀昭さんが、日本の木材自給率は18%、これまで山側からどんなに叫んでもまちまで声が届かなかったこと、しかし市民が森の大切さを知り、自分たちのこととして活動を始めることで、日本の林業の危機を救い、森を守ることができる、と結んだ。
 今回の取り組みは、日本の各地で苦しんでいる中山間地域の活性化の1つのモデルになるのではと思う。森とまちを結ぶ活動が、線から面へと広がっていくことを願っている。

 建築家 野口政司
 
2005年9月13日(火曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
まちに森をつくる