野口建築事務所 |
Noguchi Architect & Associates |
この道の下で うじ虫の湧いて死んで行った 母を焼いた思い出につき刺されて 息子がひていじゅう(1日中) つくなんで(しゃがみこんで) おりますけえ ほいじゃけえ 今、広島を歩く人々よ どうぞいきいきしづかァに こころして歩いてつかァさい」 (水野潤一 『しづかに歩いてつかあさい』) 11年前の夏、地人会によって上演された朗読劇「この子たちの夏−1945・ヒロシマ ナガサキ」が、徳島の人たちの手で再演された。11年前は6人の女優さんによってであったが、今回は35人の市民たちによるリレー朗読だ。 「決して演じてはいけない、その人の気持ちになり切って語ること、つたなくとも真心からの語り部になろうと努力していますので、どうぞ聞きにきてください」との八木正江さんからのお誘いに、7月21日、県郷土文化会館大ホールへ足を運んだ。 |
出演者はみんな麦わら帽子を身につけている。子供のときはかぶり、お母さんの朗読では背中にかけている。この帽子だけが共通の舞台衣装であり、小道具でもある。そしてこの麦わら帽子は、60年前のあの夏に私たちをつれ戻してくれる。 いよいよ後半の大詰めにさしかかった。 「女夜叉になって おまえたちを殺したものを 憎んで憎んで憎み殺してやりたいが 今は 母さんは空になって おまえたちのために鳩を飛ばそう まめつぶになって消えてゆくまで とばしつづけよう しょうじよう やすしよう・・・」 (山田数子 『慟哭』) いつも優しい笑顔が魅力の八木正江さんの顔が、一瞬夜叉になったように思えた。 朗読が終わり、藍場浜公園に出た。35人の朗読をした人たち会場いっぱいにつめかけた市民、そしてこの公園で阿波踊りの練習に汗を流す娘さんや子供たち、この人たちを夜叉にするようなことは、決してしてはならないのだと、ぞめきの響く夜の公園を歩きながら私は思った。 建築家 野口政司 2005年7月29日(金曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より |
この子たちの夏 |