野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates


愛知万国博覧会 サツキとメイの家
サツキとメイが暮らす昭和30年代の家を森の中に再現

 宮崎駿監督のアニメにはいろいろな乗り物が出てくる。『千と千尋の神隠し』では、最初のシーン、家族で新居に向かうとき乗っていて、後ろの席で千尋がだだをこねているのはアウディのA4である。
 同じ引越しのシーンから始まる『となりのトトロ』では、設定が50年前、昭和30年ごろの話なので、サツキとメイが荷物に囲まれて乗っているのは、オート三輪のトラックであった。乗り物を見れば時代背景がよく分かるのだ。
 宮崎アニメのほかの主人公たちも、ユニークな愛車(機)で登場する。『風の谷のナウシカ』の゛メーヴェ”は、ハングライダーとサーフボードの兄弟のような軽飛行機で、風の友だちナウシカは、それに乗って広大な森・腐海の上を飛び回る。
 
 また、『魔女の宅急便』ではホーキが主人公キキの乗り物だ。松任谷由美さんの「ルージュの伝言」を聴きながら夜空を飛ぶのは、本当に気持ちがよさそうだ。
 そんな中で、私が一番乗ってみたいのは『トトロ』に出てくる゛ネコバス"だ。夕暮れの土手や田んぼ、池の上を12本の足で滑るように走る。シートは本皮に毛のクッションだし、何といってもナビゲーション付きなのだ。どこでも好きな所へ連れていってくれる。
 サツキとメイをお母さんの入院している療養所へ運んでくれる場面では、見ている私たちもうれしくなって手をたたく。宮崎アニメの乗り物は、夢を運ぶ道具でもあるのだ。
 さて、愛知万博「愛・地球博」がきょう25日から始まった。総合博覧会としては大阪万博以来35年ぶりだそうだ。
 大阪万博は、建築博覧会とも言われ、近未来的な建築デザインを競ったパビリオンが立ち並んでいた。かくいう私も、今は“人と環境に優しい住まいづくり”に取り組んでいるが、かつては大阪万博を見て建築に進んだのだった。
 今回の愛知万博のテーマは"自然の叡智(えいち)”である。宮崎駿さんのアニメの世界としっかり重なっている。長久手会場の森林体験ゾーンに再現された「サツキとメイの家」は、入場予約がいっぱいとのことだ。
 昭和初期の工法で建てられたその家には、トトロやススワタリが住んでいるのだろうか。大人になってしまった者には見えない、そんな"もののけ”たちに会えるのだろうか。最近すっかり 『紅の豚』 状態の私には、少し心配である。

建築家 野口政司
2005年3月25日(金曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
トトロと万国博覧会