野口建築事務所 |
Noguchi Architect & Associates |
さだまさしさんが3冊目の小説を書いた。題名は『眉山』。「大好きな人」の故郷、徳島で一生を終えようとする母と、それを見守る娘の物語だ。 徳島の風物がたくさん出てくる。中でも阿波踊りのシーンはとても魅力的だ。このコラムの愛称でもある「ぞめき」について、阿波踊りは日本一の庶民の祭りで、「体の芯が粟立つような、いても立ってもいられないような静かな興奮のことをね、そういうんだよ」と母は娘に教える。 この小説のテーマは、人の生と死の輝きではないかと思う。 母親のお龍さんの若い医者への言葉は、死にゆく者の潔さと愛情にあふれている。 |
さて、さださんの歌で私の好きな曲は『風に立つライオン』だ。 日本を離れ、アフリカのケニアで働く若き医師が、かつての恋人に思いを綴る。 診療所に集まる人々は病気だけれど 少なくとも心は僕より健康なのですよ 僕たちの国は残念だけれど何か 大切な処で道を間違えたようですね ・・・・ キリマンジャロの白い雪 それを支える紺碧(こんぺき)の空 僕は風に向かって立つライオンでありたい その若き医師の思いを、白く輝くキリマンジャロではなく、南国徳島の明るい光の中で描いたのが、さださんの小説『眉山』だと思う。そして、南十字星、満天の星の下ではじける祈りにも似たアフリカのリズムは、小説の阿波踊りの中にも響きつづけているのだ。 新緑のころには色鮮やかに、台風の後の澄みわたった空にはどっしりと、私たちのいろんな思いを受けとめながら、眉山は今日も穏やかな姿で目の前に横たわっている。 建築家 野口政司 2005年2月22日(火曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より |
眉 山 |