野口建築事務所 |
Noguchi Architect & Associates |
建築家のフランク・ロイド・ライトは、幼児のころに母親から木の積み木を与えられ、それで遊んでいるうちに、彼独特の造型感覚を身につけたと自伝で述べている。 確かにライトの設計した建築、例えば明治村に移築された「帝国ホテル」や芦屋市に現存する「山邑(やまむら)邸」はマヤやインカの宮殿のようだが、よく眺めると、積み木を積み重ねた造型物に見えてくる。 ライトは大地と響き合う有機的な建築を提唱し、数多くの名建築を残しているが、それは彼の育ったアメリカの雄大な自然とそして彼の母が贈った木の積み木から生まれたのではないだろうか。 |
さて私も建築設計者の1人として仕事をしているが、住宅の設計をするときは、まず子供も含む家族全員に集まってもらい打ち合わせをする。 しかし幼児や小学生はなかなかじっとしていられないので、私は“源流キッズ”と名付けた木の積み木を出してやる。そうすると子供たちは夢中になって遊び始め、塔や橋、そして住宅や電車など思いもしなかった形のものを作り出すのだ。子供たちには建築家としての遺伝子が生まれながらにして宿っているのでは、と思うくらいである。 この“源流キッズ”は、吉野川源流の森の杉の原木から柱や梁材を製材したときに残った端材や間伐材を使って作る。木を無駄なく利用しようとの考えからだが、できるだけシンプルな形にしてあるので、逆に子供たちの造型感覚を刺激するようだ。 やわらかい杉の手ざわりと色あい、そしてその香りがとても好評で、クリスマスプレゼント用にと20セットほど注文があり、嶺北の森の田岡秀昭さんから送ってもらった。その一つ一つの積み木に仕上げのペーパーで磨きを入れながら、私の思いは源流の森へと還っていく。杉の木の軽やかな響きに私自身の心も和んでいくのが分かる。 新聞で報道される家族の悲しい事件を読むにつけ、しみじみと思う。この冬、クリスマスやお正月のプレゼントとして、お子さんやお孫さんに木の積み木を贈りませんか。 建築家 野口政司 2004年11月29日(月曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より |
建築家と積み木 |