野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates

  台風が立て続けにやってくる。特に先の台風16号は強烈であった。徳島市で最大風速54.1メートルを記録。看板やカーポートの屋根が吹き飛んだり、大きな立ち木が倒れているのをいたる所で目にした。
 私の家でも庭木にたたかれ瓦が2枚割れた。知り合いの瓦屋さんに電話すると、朝から100本ほどの電話があり、職人さんは修理に飛び回っているとのことであった。
 1ヵ月前の台風10号の方は雨がすごかった。記録的な豪雨で山林の崩壊や土砂崩れにより民家がおしつぶされ、道路が寸断された。どんなに科学技術が進んでも、自然の力を侮ることはできないようだ。
 さて、日本の風水害を調べてみると、意外なようだが、森林との関係が深いことが分かる。江戸末期から明治維新にかけてと第二次世界大戦時の2回の森林乱伐の後に、大水害が多発しているのだ。どちらも混乱期に当たり、十分森の手入れができなかったのだろう。 

放置された森
地表に光が届かない為、草も生えず、固い土で覆われている 

 そして現在、森は3回目の危機を迎えている。今回は前の2回と異なり、「緑の砂漠」という危機である。戦後の拡大造林政策によって、山のてっぺんまで植えられたスギ・ヒノキの人工林の間伐(択伐)が進まないのだ。安い外国産材におされ日本の木材自給率は18パーセント。木材価格は50年前のレベルで山林家の経営意欲が著しく落ちている。さらに追いうちをかけるように山林労働者が急激に減少しているのだ。
 このため約半分の森が放置されたままとなっている。モヤシのような細い木が密集し、地表には日の光が届かず、保水力のない硬い土が足元をおおっている。今回の台風による被害もこのような森の現状を反映しているのではないだろうか。
 5日に「第十堰と緑のダム」というシンポジウムがあった(吉野川みんなの会主催)。可動堰に代わる市民代替案として、原堰は自然石による補修をし、堤防の補強と上流の森の整備による緑のダム構想が提案されている。
 私たちの飲み水−コップ一杯の選択から始まった市民活動が、やっと上流の森に目が向くようになった。道は単純ではないだろうが、どのようにして保水力のある豊かな森を実現させるか、やりがいのあるテーマである。

建築家 野口政司 
2004年9月8日(水曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
森の力