野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates


嶺北の森、源流杉伐採の様子
  
 高知県土佐町、吉野川源流の嶺北の森で杉の木を育てながら、自給自足の生活をしている筒井順一朗さんが私のアトリエを訪ねて来てくれた。お願いしてあった源流杉のプランターを届けてくれたのだ。地元で山の達人と呼ばれている筒井さんは、いつも顔がつやつやと輝いている。素朴な山の生活がもたらしたものであろうか。
 筒井さんに初めて会ったのは昨年の秋、源流の伐採ツアーのときだ。根元で直径1mもある90年生の杉の伐採に立ち会うために、徳島から30人ほどで吉野川源流の森を訪れた。この森の木で家づくりや家具づくりをしているNPO「里山の風景をつくる会」の人たちと一緒だった。
 伐採の後、筒井さんの森で間伐体験をした。高校生が2人参加していたので、彼らが代表して18年生の杉を切り倒した。自分と同じ年齢の木を切った浩子ちゃんは少し人生観が変ったそうだ。
 筒井さんによると、杉の方から、自分はもうこれくらいでいいから切っておくれ、と語りかけてくるという。
 昼食は筒井さんの農園でいただいた。アイガモ農法で米をつくり、
山の畑で野菜を育てている筒井さんは塩などの一部の調味料を除いて食べ物は自給自足しているそうだ。私たちのためにカモを1羽つぶしてカモ鍋をごちそうしてくれた。秋の穏やかな日差しを受けて山の紅葉が輝いていた。
  杉でつくった筒井さんのプランターはとても好評だったが、今回届けてくれた分で今年はおしまいという。木には切旬があり、秋から冬にかけて伐採する。そのまま山で葉付乾燥させてから製材し、もう1度天日乾燥させた木でプランターをつくっている。家だって昔からそうやって時間をかけて建てたでしょう、その時間のぜいたくを私たちは忘れてしまったんじゃないでしょうか、と筒井さん。
  山の古老が子供たちのためにつくってやるというヨシの葉で折ったバッタをお土産にいただいた。ゆっくりと流れる山の時間の豊かさを感じた。

建築家 野口政司 
2004年8月24日(火曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
杣  人(そまびと)