野口建築事務所
Noguchi Architect & Associates



坂本龍馬
  三年前の参議院選挙の公開討論会でのこと。コーディネータ―を頼まれた私は、政党の方針をそのまま発表するのでは単に記憶力しか分からないと思い、あえて候補者の人柄や考え方の特徴がにじみ出る質問をと知恵を絞った。
  「
徳島の風景でどこが好きですが?」。吉野川や県南の海岸を挙げる人が多かった。政治家になっても美しい徳島の風景を忘れないで、という思いを込めた質問だ。
  「カラオケの十八番は?」。えっ、あなたがこんな歌を、というのがあったが、最もユニークな答えは、「カラオケには行った ことがない」だった。
  「歴史上の人物であなたが最も尊敬する人は?」。四人の候補者のうち唯一の女性候補は「山川菊栄」。ウーンナルホド。
男性の三人はと見ると、何とこんなことが・・・。私は一瞬言葉を失った。自民党、民主党、共産党、日本を代表する政党の三人の候補者が書いたのは同じ人物の名前だった。その人は「坂本龍馬」。

 
年代や洋の東西も自由だし、同じ明治維新でも大久保通利や大村益次郎、久坂玄瑞だっているじゃないか、と少し意外な気もしが、それ程龍馬の人気が飛び抜けているのだろう。
 そんな坂本龍馬の本領がよく表れているのが「船中八策」。実質的に徳川幕府の命脈を断つことになる薩長同盟を実現させた龍馬は、翌1867年、長崎から京都に向かう船の中で新しい国家のグランド・デザインを描く。それが「船中八策」だ。
 その中で世界史でもなれな大政奉還という無血革命を提案し、新しい憲法の制定と上下院議会の開設をうたっている。この下院には庶民が議員として参加することがイメージされているのがすごい。「船中八策」起草から4ヶ月後に大政奉還、その1ヶ月後、坂本龍馬暗殺、翌年が明治元年となる。
 しかし、明治憲法が発布されるのは23年後、普通選挙(と言っても25歳以上男性のみ)が実施されるのに61年かかっている。さらに女性にも投票権が認められるには、山川菊栄の女性解放運動や市川房枝の婦選運動を経た上で、実に78年もの年月が必要であった。


建築家  野口政司
2004年7月8日(木曜日) 徳島新聞夕刊 「ぞめき」より
船中八策