宗政報告No.28(2012年3月15日)
 一年が過ぎました。それは、これまで迎えてきた60回を越す、その時々の一年とは、全く異なった意味と内容を持った一年でした。一年前の自分と、3.11以降の自分とは、全く違う自分でした。
 仙台教区の皆さんにおかれても、お一人おひとりの3.11があり、それぞれお一人おひとりの一年がお有りであった事と思います。しかし、等しくこの一年は辛く、哀しく、厳しい一年であったのではないでしょうか。

 そして同時に、この一年は様々な支援や援助をいただいた心暖まる一年でもありました。教区としても、宗派の見舞金、全国からの救援金や様々な支援物資、そして多くの教区から駆けつけて下さったボランティアの方たち等々。本当に心から感謝の一年でもありました。


◎第55回宗議会(臨時会)、開催

 相前後しましたが、この2月23日から27日の会期で宗議会(臨時会)が開催されました。当局は、この臨時会を、宗祖親鸞聖人750回ご遠忌総括議会として位置付け招集いたしました。
 しかし、仙台では教区のご遠忌法要は今年10月に予定しています。また、各ご寺院、あるいは組では、これからの執行を予定されているところも多いかと思います。
 「宗祖親鸞聖人750回ご遠忌」とは、寺院・組・教区そして本山で実施されるご遠忌法要、及び諸事業の総体を指すはずであります。ところが当局の理解は、本山でのご遠忌法要と事業をのみご遠忌と見ているかのように、ご遠忌は終わったと、その総括を試みようとしていました。
 したがって、そこでの総括は、本山でのご遠忌という事にならざるをえないでしょう。ところが、ご遠忌総括議会と銘打ったわりには、残念ながらご遠忌総括が審議の中心的課題とも、議員相互の大きな関心事にもなりませんでした。
 そこで、ご遠忌を総括する一つの視点として次の事柄を挙げたいと思います(これらのことは、ご遠忌を迎えるにあたって要望していたことでもあります)。お一人おひとりが、本山のご遠忌を総括して頂く一助となればと思います。

 1.ご遠忌が、同朋会運動の展開と確認の場たりえたか
 2.法要儀式が、これからの大谷派儀式のあり方を示唆し、可能性を開くものとなり得たか
 3.ご遠忌が、広く社会に浄土真宗を発信し、「親鸞」の名を手渡す機会となり得たか
 4.一人でも多くの人が直接参加する事の出来るご遠忌であったか

 一々についてのコメントは避けますが、どれも充分であったとは思えません。皆さんはどのようにご覧になるでしょうか。そのようななか、立派に修復された御影堂の他にも評価出来る事もありました。

 ひとつは、解放運動推進本部が主催しました「カフェあいあう」です。様々な人々がつどい、出遇う場を開いた事は、これからの宗門が果たすべき役割の可能性を示すものとして注目していきたいものです。
 また、第一期のご遠忌法要を中止し、「被災者支援のつどい」としたことは、被災教区だからではなく、英断であったと評価したいと思います。中止するにあたっては、さまざま意見があり、批判を覚悟の選択であったでしょう。そこには、被災した人たちと共に歩もうとする願いと姿勢があり、その後もご遠忌中の宗務役員の宗務執行体制が厳しい中、被災地に人員を派遣し続けてくれました。その数、のべ440名にのぼります。ある人が、支援とは、あらゆる人を同朋として見出す事が願われている同朋会運動の具体的な表現だと言っていました。被災教区のものとしては、大変力強く感じられたことです。


◎継続的な支援体制の確立にむけて

 この臨時会で提案された議案で注目すべきものが2つありました。一つは、被災地への継続的支援の確立と、宗門の資産管理のあり方についてであります。

 2012年1月31日現在、全国から本山に寄せられた東日本大震災の救援金は、総額で6億6千7百万円あまりです。その主な分配先は、仙台教区 2億5千万円(その他に宗派から1億3百万の給付を受けていますので、合計、3億5千3百万円を救援・見舞い金としていただきました)、東京教区 3千7百万円、6県73自治体へ1億7千6百万円、あしなが育英会へ1千万円です。  
 現在、救援金の残金、1億9千万円あまりが本山に預託されています。それを、東日本大震災復興支援資金として、宗派が行う復興支援のためにのみ使用する保管金とする特別措置条例が可決されました。そして今後、本山に預託される救援金はすべてこの資金に繰り入れられる事になります。これで、被災地への継続的な支援にむけての一定の体制が整えられたといえるでしょう。
 今年度は、そのうち5千万円を補正予算として組み、福島に対する支援として、食品・水・土壌の放射能測定器をそれぞれ、3台・1台・2台を購入、さらには福島の子供たちを疎開・保養させるプロジェクト、避難されている3ケ寺のご門徒への支援等が計画されています。
 実は、この特別措置条例、並びに補正予算は全会一致の可決ではありませんでした。反対された議員の見解は、救援金として拠出された方々の思いは、一刻も早く全てを被災地の現地に届けて欲しいという事であるはず。本山が、宗派の保管金として、そこからあたかも宗派事業であるかのように支出するのはおかしい。全額を被災地に届け、使途も現地に任せるべきだというものです。このご意見も、現地に思いをおいて下さってのもので、大変有難いと思いました。
  
 また、「一定の予算を確保して、より実効性のある支援施策を継続」するようにという建議(資料2)が議員から提案され、全会一致で可決されました。つまり、宗派の一般会計に支援のための経費を継続的に計上すべきであるという大変有難い議員諸氏の建議であります。
 建議というのは、議会が可決すると、当局はその内容を執行するよう務めねばならず、もし出来なかった時には、議会でその理由を報告しなければならないという重いものです。


◎宗門の資産管理のあり方について

 ここでは、はじめに大変ショッキングな事をお伝えせねばなりません。それは、当局が社債による資産運用に失敗して3750万円あまりの損失を出していたという事なのです。
 05年に、銀行等の金融機関への預金の1千万以上は、破綻した時には保護されないという、いわゆるペイオフが実施されてより、宗門の資産をより安全に管理することの必要性が求められてきました。そんななか、一部の議員には、資産をより活用して運用すべきではないかという意見があり、当局はその意見に後押しされるかたちで08年から社債による資産運用をはじめました。
 しかし、その運用にあたって当局は、何らの機関に諮る事もなくすすめ、ただ08年の決算で財産目録の一項目の備考に「野村ホールディングス社債他」という記述があったのですが、ほとんどの議員はその備考に注目することなく見過ごしてきました。そのうえからは、今回の責任は、議会にもあることは免れません。

 運用の内訳はこうです。それぞれ次の3社の社債、08年12月に野村ホールディングスを2億円、09年5月に富士電機ホールディングスを2億円、そしてその8月にウィルコムを1億円、
購入。ところが、ウィルコムが、翌10年2月に事実上倒産したため、6689万余円の損失となりました。ところで、野村・富士からは合計、2939万円余りの利益がありましたので、差し引き3750万余円の損失という事になりました。
 
 この臨時会で財務長は、責任者として損失を出した事を謝罪しました。しかし、謝罪すべきは、損失を出した事もさることながら、リスクのある資産運用をしたそのことであるべきです。
 そもそも、浄財としてご門徒の皆さんからお預かりしているお金は、一人でも多くの人に念仏の教えを伝え広めて欲しいとの願いがかけられているものであるはずです。決して、そのお金を巧く運用して殖やして欲しいと託されているわけではありません。まして、お預かりしているお金に損失をきたしたとなれば、どのようにご門徒にそのことを、お伝えする事が出来るでしょうか。
 宗門の資産管理は、諸法規上においても運用という概念はありません。あるのはどこまでも保管であります。

 今議会で会計条例を改正しようとするのは、宗門資産を社債などで運用する事が出来ないように改正しようとするものです。今回損失を出した事はご門徒に申し開きは出来ませんが、もしここで利益を出していたら、利殖のための運用に傾いていったのではないかと思うとぞっとします。


◎原発廃止決議を採択

 昨年6月の議会で、脱原発の議会決議を出したかったのでありますが、与党から脱原発という明確な表現を取りたくないという主張があり、合意に達する事が出来ず出せなかったという経緯があります。その後、宗門内から議会決議を出さなかったことへの厳しい批判があり、今回は早くから話し合いと摺り合わせを行い合意形成を図りました。

 社会情勢の変化という事もありますが、昨年6月の決議案より、さらに踏み込んだ内容にする事が出来ました。そして、この決議を出す事にこだわったのには、批判があった事もさることながら、次の3点の思いがあったからです。一つは、放射能の恐怖のなかで生きている福島の人たちにとって支援という意味を持つものであること。次に、宗教教団として社会に対して態度を鮮明に表明し、宗門の立ち位置を明確にする事。そして、宗門内に原発に対する学びの場が開かれるきっかけとなる事であります。
  
 3月14日の新聞で、福井県の大飯原発3・4号機の再稼働を認める方向で政府は作業に入ったという報道がなされていました。いまなお、福島の事故の検証も充分になされず、原子炉内の状況すら把握されないままであるにも関わらず、であります。暫定的な安全基準さえも示せないで、経済的停滞は許されないという事情だけを優先させて、再稼働を認めようとしています。大飯原発を先鞭として、各地の原発の再稼働の動きが加速されるのではないかと心配です。
 原発の稼働が日常化する時、福島は確実に忘れ去れる事でしょう。そうなれば、福島は、特別な不幸な、そして不運な例として記憶されるでしょうが、ふるさとを奪われ、家族を引き裂かれ、誇りと生き甲斐を奪われて生きざるをえない福島の人々が、その時にも、この日本にいるということをリアリティをもって共感できる人々は、ほんのわずかしかいなくなっているでしょう。
 しかし、たとえ日本中が忘れ去っても、宗門は福島の人々と共にありたいというメッセージが、この議会決議であります。
 
また、命の尊厳を課題とする宗教者にとって、原発は看過出来る問題ではありません。キリスト教では、カトリック系もプロテスタント系も時期の違いはありましたが、ともに原発の廃止を求める声明を出しています。
 仏教教団では、昨年9月、臨済宗妙心寺派が、そして12月には、全日仏(会長が妙心寺派管長であるためか)がともに、内容的には似通った「原発に依存しない社会の実現」を目指す宣言をしています。しかし、そこには原発に対しての明確な見解を示す事は避けられています。
 そのようななか、大谷派が原発の停止、廃炉を求める議会決議をした事の意味は大変大きいと思われます。もっとも、ここに初めて原発反対の声を挙げたのではなく、すでに02年にブックレット「いのちを奪う原発」で、宗派としての原発に対する態度表明は明確にされていたのですが、あたかもそれを忘失していたように、昨年6月は迷走したという事です。

 《 あ と が き 》

 この議会では、当局からは今後の支援方針が示され、また議員の皆さんからは継続的な支援を要望していただき、これまでの力強い、心暖まる様々な支援と合わせ、機会ある毎に心からなる御礼と、今後さらなる息の長い支援をお願いする事、頻りでありました。
 これからは、教区として、実効性のある持続可能な支援をどう組み立てていくのかが求められています。どうか、皆さんのご協力をお願い致します。



【 資料ー1 】

 
           すべての原発の運転停止と廃炉を通して、
          原子力発電に依存しない社会の実現を求める決議

 2011年3月11日に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故では、原発の周辺はもとより、広い範囲に放射能汚染が拡がり、多くの人々が故郷や家族、仕事という生活基盤を奪われ、農林漁業の未来をも根底から揺るがす事態となっています。そして、何よりも子どもたちのいのちへの不安と恐怖が深刻化し、かつて経験したことのない甚大な核災害の様相を呈しています。昨年末に政府は事故の収束宣言を行いましたが、未だ原子炉内部の状況も不明であり、放射性物質の拡散は食い止められず、除染の目処もつかない厳しい状況が続いています。
 大地震にいつ襲われるともしれない狭い日本の国土に、54基もの原発が作られ、電力供給を原子力発電に依存する生活を私たちは営んできました。一旦、大事故が起これば、生きとし生けるものすべてのいのちを奪う深刻な放射線被曝によって、取り返しのつかない事態となる危険性のあることに目を伏せ、日本の原発は安全であり、原発なしでは電力の安定供給ができないという、いわゆる「安全神話」と「必要神話」を安易に信じ込み、エネルギーと物の大量消費を限りなく続けていくことが「豊かさ」であると私たちは思い込んできたのです。
 原発の危険性を電力の大消費地である大都市から離れた立地地域に押し付け、また、放射線被曝の危険に絶えずさらされている原発作業員、ことに社会的に弱い立場に置かれる下請け労働者の問題にも目をそらして来ました。さらには、原発を運転し続けることで必然的に発生し、半減期が何万年にも及ぶものさえある膨大な放射性廃棄物を安全に管理することは、人間の能力を遥かに超えています。
 この度の事故によって、原子力発電を続けるなら、現在のみならず未来のいのちをも脅かす放射線被曝を避け得ないことが明らかになった今、原発に依存しない社会の実現が何よりも急がれています。すべてのいのちを摂めとって捨てない仏の本願を仰いで生きんとする私たちは、仏智によって照らし出される無明の闇と事故の厳しい現実から眼をそらしてはなりません。そして、私たちの豊かさの内実を見直すと同時に、国策として推進される原子力発電を傍観者的に受け容れてきた私たちの社会と国家の在り方を問い返し、すべての原発の運転停止と廃炉を通して、原子力発電に依存しない社会の実現に向け、歩みを進めることをここに表明し、決議といたします。
                      2012年2月27日
                              真宗大谷派宗議会


【 資料ー2 】

        
東日本大震災に関し、継続的な支援施策を求める建議

 広い範囲に激甚な被害をもたらした東日本大震災は、発生以来、一年を迎えようとしています。被災地では復興に向けて懸命の努力が重ねられていますが、被害の規模があまりにも大きく、様々な問題から、その進捗は順調であるとはとても言えません。中でも、東京電力福島第一原子力発電所の事故では、広い範囲に渡って放射能汚染が拡がり、汚染の激しい地域では今後長期間、居住すらもできない状況が続くと思われます。
 大震災の発生以来、大谷派宗門は、宗祖御遠忌の第一期法要を被災者支援の集いとしてお勤めし、全国から寄せられた救援金や支援物資を被災教区・関係自治体等に届けるなどして支援を行ってきました。この間、多くの教区から有志によるボランティア活動も盛んに行われ、被災地に派遣された宗務役員は述べ440人に達しました。また、福島原発関係では被災地からの要請に基づき、放射線被曝からの子どもたちの一時避難として、北海道教区の青少年研修センター及び高田教区の池の平青少年センターなどが施設の提供を行い、宗門としてその経費の助成を行いました。本臨宗にも、食品の放射能汚染を測定する機器購入や北海道教区と望洋大谷学園で実施予定の一時避難経費などが盛り込まれた2011年度補正予算が当局より提案されています。
 しかしながら、東日本大震災のもたらした災禍からの復興への道は険しく長く、ことに原発事故による被災については、放射性物質の除染に相当な年数を要し、その間、被災地では放射線被曝に怯えながら生活せざるを得ません。その意味でも、宗門の行う支援は単発的なもので終わることなく、息長く継続的になされていくことが強く望まれます。宗議会に身を置く私たちは、真宗大谷派に相応しい支援のあり方を学び問い続け、それが有効なものとして実施されることに力を注いでいく決意であります。当局におかれても、2012年度以降、一定の予算を確保し、より実効性のある支援施策を継続していただくよう、ここに建議するものであります。最後に、宗門各位におかれても、震災被災地に思いを馳せ、継続的な支援を行っていくためのご協力を心よりお願い申し上げます。
                         2012年2月27日
                               真宗大谷派宗議会一同