宗政報告No.32(2013年7月10日)
           第58回 宗 議 会 報 告


 参議院選挙がスタートしました。昨年12月の衆議院選挙では、原発が争点にならず、原発依存を隠さなかった自民党が圧倒的勝利を収めました。この参議院選挙でも、原発再稼働を堂々と公約に掲げる自民党が勝利を収めると予想されています。そうなれば、再稼働が国民の意思だといわんばかりの原発に関する積極的な対応を展開することでしょう。そのとき、福島を済んだ出来事として位置付けることが必要になるでしょう。なぜなら、福島の事故が進行形の真っ直中にあることは、再稼働を常態化させていく上からは大きなマイナス要因となるからです。
 その傾向は既に、感じられます。南海トラフ地震のことが、声高に言われれば言われるほど、もう済んだ福島のことは忘れて、何時来るかも知れない大地震に備えましょうと聞こえます。起こってしまった福島にこだわるより、これからの防災・減災に力と関心をそそぐべきでしょうと聞こえてしまいます。勿論、大地震に備える準備を、今回の震災から学ぶことの大きさは理解できるとしても、取り上げ方に意図的なものを感じるのは私だけでしょうか。
 これから、事故原因の究明もなされず、責任の所在も明確にされないまま、福島を特別な事例とし、過去の出来事とする忘却キャンペーンが、そのような事を微塵も感じさせないかたちで横行すると思われます。
 そんな中、今後とも多くの人々にご支援をお願いし続けていくことの必要性を、改めて感じています。 

 5月30日から6月11日の会期で、第58回宗議会が開催されました。今回の議会に臨むにあたって、二つのことに注目しようとしました。一つは、今後の震災に対する支援体制と具体的な支援事業についての確認であります。そして、いま一つは、憲法96条を改め、その先に恒久平和を願う9条の改定を狙っていることは、容易に想定されますが、その大きな山場となる参議院選挙を控えたいまこそ、真宗門徒としての明確な意思を社会に表明するために、憲法改正反対決議を議会として採択したいというものです。
これらのことは、改めて触れたいと思います。


 【 諸 施 策 に つ い て 】

1.復興支援事業について

 総長は、その演説で、今年度の宗務について説明するくだりで、第一の事業として支援事業を挙げられ、宗派として力強い支援を展開したい旨を述べられました。
 それを受け、一般質問で、支援体制と具体的な支援事業の展開について確認をしました。その内容を次に記したいと思います。

 @ 除染事業について

 福島の中通りを中心に8ヶ寺程、線量の高い所があります。本来、除染は国や自治体がやるべきものですが、自治体は中間貯蔵施設の用地確保が困難という理由でなかなか手を付けようとしませんし、実施されているところでも、公共施設、そして一般住宅の順に行い、寺院にまで順番が回ってこないというのが実状です。線量の高いところで寺族が生活をし、門徒の人たちが集っています。
 そこで、本堂の除染に対して宗派として支援をしようとするものです。除染にかかる経費については、東京電力が負担すべきものであり、「原子力損害賠償紛争解決センター」に除染を実施した寺院が申請をする支援体制を整えようとするものです。

 A 保養事業への助成強化

 各教区の教化委員会や有志の方々が、福島の子どもたちを放射能の心配のない所で思い切り遊ばせて元気を回復させようと「保養事業」をこれまで、20教区で、29回実施して下さり、およそ千名の方々を受け入れて下さいました。その事業に対する宗派としての助成は、一事業上限を50万円としていましたが、その助成とは別に参加者の旅費半額補助をしようとするものです。
 この事により、遠隔地の教区でも事業を展開し易くなるでしょうし、連続的に実施して頂いている教区でも、負担が少なくなり、息の長い支援が可能となります。

 B 支援体制について

 現在、支援事業を担当していますのは、災害救援本部と組織部ということになりますが、支援事業を中心に担当する職員が不在であるため、嘱託でもいいから専従者を配置してもらいたいと要望しましたが、かないませんでした。
 なお、現地災害救援本部としては、東北別院をボランテイアの拠点とし、原町別院を福島支援の拠点としたいということです。

 C 復興支援資金の確保に向けて

 昨年度一年間で、義援金として、本山に託されたのは、2,018万円でありました。震災直後からの一年間に全国から、7億円近い義援金を寄せて下さっていることを思うと、随分少なくなったと見る向きもあるかと思いますが、時間が経ちましても、こうして心に懸け、義援金を寄せて下さる方がおられることに心強いものを感じます。が、合わせて今後ともなる支援の要請を続ける必要のあることは申すまでもありません。
 なお、6月発行の災害救援本部通信は、救援金勧募のポスターとしても活用できるようになっています。

 D 原発問題を教学的課題として明確にし、同時に各教区での研修会の実施促進について
  
 原発問題を仙台教区だけの問題とせず、宗門的課題とする上からは、各教区で研修会を実施して頂くことが肝要であります。そのために、本山としては学習のための資料提供もさる事ながら、もっとも必要なことは、原発問題を通して、そこにある人間の普遍的課題を念仏の教えに問い返していく作業、つまり教学的課題として明確にする事であると思われます。
 教学研究所では、11月発行の「教化研究」155号で「震災と原発」の特集を組む予定であるということです。その内容に期待したいと思います。

 E ご依頼額減免について

 当教区への減免措置は、11年度が5,600万円、12年度が4,000万円。
 そして、今年度は、1,500万円という事です。減免措置というのは、本山が教区を支えようとしているということを表す、最も分かり易い支援形態といえます。仙台教区を支援するということを形のうえで示すことからも、今年度、昨年同額の減免を要請しましたが、復興状況等を勘案して決めたこととの答弁でした。

 F 宗議会議員選挙・教区会議員選挙における投票所の変更と郵便投票を認める
  臨時措置条例

 上記選挙の投票所が、施行条規により、浜組の場合、浪江と定められていますが、原発事故によって設置できないため、教区の選管が別の場所に投票所を設置することが出来るという措置と、震災の影響で直接投票や不在者投票が困難な選挙人に対して郵便投票を認める措置の条例が可決されました。

2.真宗教化センター

寺院において、あるいは組や教区で教化活動を展開していく上で、必要とされる情報を求めに応じて発信していくことが真宗教化センターの大きな任務の一つです。たとえば、講師や教化資料、テキストについて、あるいは、寺院や組に於いての具体的事例の紹介等であります。
また、課題を共にしている人たちが一堂に会して、情報交換や相互研鑽を果たせる場を提供し、人の交流をはかるということも大事な任務です。
あるいは、宗門が有する書籍や教化資料を整理、管理する総合資料室、さらには、今まで問い合わせや相談に対して、対応する部署が明確にされていなかったということがありましたが、その窓口業務を真宗教化センターが担うというものです。
 その他にも、宗門挙げて教化事業を展開していくうえで、必要な事項や業務を担当する部署として、この教化センターには、今後の大谷派の命運がかかっていると大いに期待するところであります。
今後は、その教化センターが、期待に応えうる機能を果たしているかどうか、注視していく必要があるでしょう。
その建物を、宗務所の北側、大谷婦人会館の場所に、16億6千7百万円の予算で教化総合施設として、来年の2月から工事に入り、再来年4月には竣工したいという提案が当局からありました。
なお、原発反対を具体的なかたちとして示していく上からも、教化総合施設の屋根部に広範囲にソーラーパネルを設置することが望まれましたが、京都市の景観条例で、それが適わず、外観からは見えない屋根の一部に設ける事になったことは残念です。 

3.親鸞仏教センター

「親鸞仏教センター」は、東京都文京区本郷に、首都圏の学事施設として、2001年に開設されました。10年余りにわたり、大事な仕事を果たしているという事は認めつつも、地元の東京教区と殆ど没交渉であったり、教学研究所との連携ということも全く試行さえされていなかったり、あるいは、原発や憲法問題等の現代社会が抱える諸問題に如何に応答してきたかということが問われてもいます。
 今回、蓮如上人500回ご遠忌に際して設けられた教学振興事業推進資金のうち、親鸞仏教センター資金として確保されていた9億円を一般会計臨時部に計上して、施設の拡充をはかりたいという提案がなされました。
 しかし、その9億円の計上が、余りにも乱暴と言わざるを得ません。予算計上というのは、こういう事業を展開する、あるいはこれを購入したいということがまずあって、それを元に予算が立てられるものでしょうが、ここでは、親鸞仏教センター資金として9億円が確保されているから、それをそのまま、何をどうしたいということが明確でないまま計上したものです。そこにあるのは、新しい施設が欲しいという事だけです。算出根拠を示さず、後は我々に任せて欲しいという丸飲みを要求するような計上の仕方に合点が行きません。
 施設を拡充する前に、12年経って、今まで通りの業務内容でいいのかどうか、関係者の方々では常に検討されてはいるのでしょうが、宗門レベルで協議、検討を加えることがなされるべきではないでしょうか。

4.教化伝道研修

2011年度で終了した教化特別研修生制度の願いを継承するかたちで実施されるということです。次世代の宗門を担う人の誕生を期して、研修科二年、実習科一年とし、研修科は教区教化委員長の推薦により、一期30名以内とし、本山での三泊四日の研修六回が中心です。課程修了者には、修了書を交付し、教区での教化活動に積極的に参画することを要請するというものです。また、実習科は、研修科修了者で試験に合格した若干名を対象とし、同朋会館補導実習、法話研修等を受講し、修了者には修了書を交付するということです。ともに、教学研究所が実施する事業であります。
 人が育てられ、生み出される大きな機縁となることを期待したいものです。ただ、修了書の交付というものが必要なのか、エリート養成に成りはしないかが気がかりなところではあります。

5.男女平等参画

 宗務審議会「男女共同参画推進に関する委員会」が、男女共同参画推進に向けて、基本条例制定の必要性を答申しました。当局は、その答申を受け、常設の男女共同参画推進会議の立ちあげを表明していますが、その時期、及び今後の基本条例制定に向けてのロードマップについては、一切言及していません。
 日本は、性による格差の度合いは、世界135ヶ国中、101位という酷さだと2012年のジェンダーギャップレポートは伝えています。その中でも、わが宗門は、さらにその格差が大きいのではないでしょうか。同朋社会を標榜する宗門として、一日も早い、男女共同参画推進基本条例の制定を目指すべく活動致します。

6.教区及び組の改編について

  皆さんの大変関心の強いことの一つに、教区及び組の改編ということがおありかと思います。中央改編委員会は、当初全国を15教区に改編する試案を掲げ、ご遠忌後3年を目途にすすめたいというものでありました。ところが、現場の声の聴き取りを重ねていく中で、さまざまな課題が明らかになりました。そこで、提案している15教区試案の修正をはかることと、タイムスケジュールにしても、全国一律の期限を設定しないということを中間報告として中央改編委員会は提出し、合わせて教区改編に関する手続きを定める条例の必要性を指摘しています。
 当局は、その報告を受けて、複数の教区を統括する統括教務所長の任命、また新教区準備委員会の設置等の改編に向けての手続きを定めた改正条例案を提出しました。
 この件に関しては、今後とも当事者間の充分な協議が欠かせません。

7.選挙時間、2時間延長

 宗議会議員選挙において、選挙権を有する人が出来るだけ選挙権を行使できるようにするための第一歩として、選挙時間を2時間延長して、午前7時から午後7時(これまでは、午前8時から午後6時)までとする条例が可決されました。
 今後は、所属寺院から遠く離れて居住する人に対しての配慮や郵便投票の拡大等についても検討を加えていく必要があると思われます。

8.請願委員会

 国や自治体の議会に認められている請願制度が当議会にもあります。それは、申すまでもありませんが、議席を持たない人が、意見や要望を直接議会に届けることの出来るものです。請願を提出される方々は、宗門に対して、深い関心を以て宗門を荷負せんという意欲を持っておられる方と見るべきではないでしょうか。従って、その請願に対しては、現況の中で出来るだけ応えることが肝要であると思います。また、取り上げない場合には、請願者が納得できる理由を示す必要があると思われます。今議会では、請願委員長を勤めることとなりましたので、この委員会について、少しお伝えしようと思います。
 今回、提出された請願は、3種類、6件の請願でありました。内容としては、教区会議員選挙の選挙権・被選挙権に関する請願が4件、御影堂から見真額を降ろすことを求める請願が1件、宗議会において憲法改正反対決議を採択することを求めるものが1件でありました。そのうち、仙台教区の有志6名が、教区会議員選挙に関する請願を提出されました。
 見真額については委員会で否決され、憲法改正反対決議は採択されましたので、途中でこの件に関する請願は取り下げられました。ここでは、教区会議員選挙に関する請願について報告したいと思います。
 ここで少し、仕組みを説明しますと、議長に提出された請願は、請願委員会に回付され、その委員会で議会にかけることが相応しい事案であるかどうかを審議し、議会でその請願が採択されると、請願内容によって議会で対応するか、内局が措置するかがはかられます。内局が措置した場合には、次回の議会にその内容を報告しなければならなりません。
 教区会議員選挙の選挙権・被選挙権は、現在の条例では共に住職にしかありません。それを、教師資格を有する人にまで拡大しようという請願です。その理由として挙げられているのは、教区の諸活動は、住職だけではなく、多くの教師が関わり担っている現状のなか、議決機関である教区会に於いても、教師が参画できる道を開くことが、教区の活性化に欠くことが出来ない要件であるからというものです。もっともな請願であると思います。
 で、請願委員会での審議でありますが、そのことに反対の委員はいませんでした。ただ、これを議会に付する事が妥当かどうかということになると、3対5で否決されました。
 その否決理由は、教区会には組長議員という課題もある、そのことと合わせて問題にすべきであり、選挙資格だけを取り上げることは反対。あるいは、今、宗門は教区改編や財政課題を抱えている、それらの問題と合わせて考えるべきでこれだけを取り上げる事は反対。極めつけは、宗門には、様々な問題があり、抜本的にそれらの問題を課題化していく中で取り上げるべきで、これだけを今取り上げることは反対。概ね5名の委員の方々の反対意見は、これらに収斂されます。問題はあるけれども、それを改正していくことには賛成できないという事なのでしょう。問題があるなら、議会が改めずに、どこがその仕事を果たせるというのでしょうか。

9.ご遠忌決算が確定

 2003年度から2011年度の9ヶ年に亙ったご遠忌総計画書の決算が確定しました。総額は、336億円。そのうち、ご依頼総額は、当初予算198億円に対し、決算額は222億円と、率にして12パーセント以上の超過のご協力をいただくことが出来ました。果たして、ご門徒の皆さんの期待と負託に充分応えるご遠忌であったのかどうか、今後とも検証されなければなりません。
 多くの余剰が出たたため、真宗本廟奉仕施設(同朋会館他)整備積立金に20億円、両堂等修復積立金に22億4千万円等、計52億4千万円を今後の事業展開のための資金として繰り入れたということです。

10.両堂並びに御影堂門修復工事経費と工期について

 A.御影堂工事
   経費 94億8千万円
   工期 2004年3月〜2009年8月
 B.阿弥陀堂工事
経費 48億6千万円
   工期  2012年2月から2015年12月
 C.御影堂門工事
   経費 20億1千万円
   工期 2012年2月から2015年12月
 D.仮設素屋根工事
   経費 17億9千万円
 
  【 「憲法改正反対」決議を宗議会・参議会で採択 】

今議会の大きな責務のひとつとして見定めていたことに、「憲法改正反対」を決議し、大谷派議会としての意思を社会に対して明確にしたいということがありました。
 合わせて、宗務総長名で宗派としての声明、並びに、政府与党への、憲法堅持の要望書の提出をお願いしましたが、検討するという答弁にとどまり、未だ宗派声明はだされていません。
議会では、参議会とともに全会一致で、「憲法改正反対」決議(資料)が採択されました。この度の「改正」の目論見は、96条改正という改憲要件を容易にし、その先には恒久平和を謳っている9条を改め、日本を再び戦争する国に変えようとする危険性を孕んだものであります。私たち大谷派議会は、1995年「不戦決議」を採択し、いのちを軽んじ、人を殺して愧じない戦闘行為を否定し、これらの惨事を未然に防ぐ努力を惜しまないと誓いました。平和を願求する念仏者として、その意思を明らかにすることは、今の時代だからこそ、非常に大事であると思います。参議会と共に、全会一致で採択できたことの意義は大きいと思われます。

《 あとがき 》

 昨年10月に誕生した里雄内局にとっては、最初の議会であります。里雄総長は就任以来、よくよく話し合って方向を決めていきたいと語っておられました。そんなこともあり、今議会は宗憲に則った熟議の宗議会となることを期待していたのですが、期待はずれに終わりました。
 宗議会という場は、宗憲を拠り所として、宗憲に照らして、具体的な施策や条例の妥当性を審議するところであると了解して頂いているかと思います。しかし、宗議会の審議は、宗憲を拠り所とするより、世間の常識や弊習が根拠とされていることが多くあります。宗憲に則った議論と審議という極めて基本的なことが成り立たない所という想いを改めて深めています。

 − 資料 −
【 日本国憲法「改正」反対決議 】
 政府与党は、日本国憲法第96条の「改正」を表明しております。これは国会における改憲発議要件を3分の2以上から2分の1以上に緩和することにより、憲法「改正」を容易にしようとするものです。本来、憲法は、国民からの負託によって、国民に代わって行政権を執行する政府を規制する国の最高法規であります。それ故、他国においても同様に、その改正にはあえて厳しい制約が定められています。
 言うまでもなく、「国民主権」「基本的人権の尊重」「戦争の放棄」の三大原則を謳う現日本国憲法は、政府が先頭に立ってそれを遵守し、憲法に基づく施策を具現化していく義務を持つものであり、その具体的実践により、初めて日本国憲法は世界に誇りうる憲法となります。
 「国豊かに民安し。兵戈用いることなし」と説く『仏説無量寿経』を正依の経典とする私たち真宗大谷派宗門は、宗祖親鸞聖人の開顕せられた念仏の教えと、そこに流れる御同朋・御同行の精神のもとに歩んでまいりました。しかし、私たちは、過去に戦争においてその教えを歪め、無数のかけがえのない命を戦場に送り込むという痛恨の過ちを犯してしまいました。その慚愧に立って、1995年宗会において「不戦決議」を行った私たちは、今こそ念仏者として、恒久平和を願う現日本国憲法を守らねばなりません。
 よって真宗大谷派宗議会は、日本国憲法第96条「改正」反対をここに決議致します。