〜割合に穏やかなもの〜
AIA(国際石綿協会)が、フランスでの禁止の前年、反アスベスト団体を「手強い相手」といい、それに対して「あらゆる形態を利用し、反論を試みた」ように、(社)日本石綿協会も、日本国内での反アスベスト団体の動きには、常に厳しい目を向けていた。
1996年5月28日に開催された、(社)日本石綿協会の平成8年度通常総会で、音馬峻氏は会長挨拶の中で次のような話をしたという。
「それから、"アスベスト規制法をめざす会”については、先ほど申しましたように石綿の使用禁止の法令化に失敗をしたということで、法令の強化をするということで昨年度はそのような方向付けで動いていたわけでありますが、その後も活動はしております。驚くほど率直な敵対視である。
次はクリソタイルを禁止するんだという動向であります。半年に1回くらいに会を開いて講演会など集会をしており、注意を離すことができない存在であることは間違いないと考えます。」
((社)日本石綿協会「平成8年度総会議事録」〜会長挨拶 要旨より 抜粋〜)
でも驚くにはまだ早い。
この総会には、一人の来賓が出席していた。来賓:通商産業省生活産業局窯業建材課会長挨拶は、労働安全衛生法改正の話、業界の自主表示としてとりくんでいた”a”マークの話、阪神淡路大震後、解体工事による飛散防止のための環境庁との連携の話、とつづき、ILO条約の批准のための国内法整備の話に移っていた。
課長補佐 間庭 典之
「基本的にはクリソタイル石綿は使用を禁止するのではなく、適正に安全に使用するという方向で政府と労働者・使用者それぞれぞれが協力のうえに定めるということで、クリソタイル石綿を基本的に管理して使用して行こうということです。政府の方も基本的にアスベストは使用して行こうという態度をとっていることになるわけであります。」
「注意を離すことができない」云々は、こういった話に続いて出てくるから、来賓席に座って聞いていた通産省の担当者も、あまり違和感は感じなかったことだろう。
「管理して使用すれば安全」という、アスベスト輸出国やアスベスト企業と同じ政策を掲げている行政にとって、アスベストの危険性や代替化の必要性を求める団体や個人が、業界と「共通の敵」になっていたのは、むしろ当然かもしれない。
1998年度の総会議事録には、次の記載がある。「反アスベスト団体の動向については、石綿対策全国連絡会議がときどき気勢をあげるための集会を催したり、インターネットを使って宣伝活動をしている。最近、「アスベストについて考える会」から当協会に質問状がきている。「割合に穏やかなもの」といわれ、自分でも妙に納得したりしているところをみると、確かに「穏やかなもの」だろう。
内容としてはアスベストの使用量、使用の実態、労働環境、代替の方向と取り組み等の割合に穏やかなもので、これに対しては公表されている範囲で回答をしている。これから何を言ってくるか判らないので、注意が必要であると考えるが、一般的には大きな問題は起こってはいない。」
((社)日本石綿協会「平成10年度総会議事録」より 抜粋〜)
「代替化の促進」を政策にあげながら、アスベストの販売促進を図る業界団体に政策の片翼を担わせることに、国民の一人として疑問を感じていた。
そのことが、業界だけでなく、行政にとっても「敵」になってしまうことに、怒りを感じずにいられたのだから。
つづく (2006.1.4)K.OUCHI