「コントロールドユース(管理して使用すれば安全に使用できる)」の考え方が現在も続いている。今年の2月に行われた(社)日本石綿協会と石綿対策全国連絡会議との会合でも、協会のスタンスとして、アスベストは管理して使用すれば安全という立場と説明された。
国も、管理して使用すれば安全という立場をとっている。今年の7月に行われた国土交通省(旧建設省)との会合でも、担当者は冒頭、アスベストは建材で固められており通常の使用では危険性はないと説明した。 (WTOは、ここでいう通常ではない状況で発生する被害者の発生を防止するために、フランスが唯一の方法として採用した禁止という措置を国際協定に合致する措置として認めた。このような国際社会の流れがあるのに、「通常の使用」という言葉で片付けてしまう姿勢に問題がある。同会合では、昨年と全く同じような文言で回答が始められたため、昨年の文面をそのまま使ったのではないかという疑問まで出たほどだった。)
他国で行われている、被害の発生を防止するための手段がほとんどとられていない。
(外国の例)
アメリカ:アスベストのホームページを作って、常時情報を提供している。 EPA's Asbestos Home Page(http://www.epa.gov/asbestos/index.htm) イギリス:アスベストのページhttp://www.hse.gov.uk/pubns/asbindex.htm アスベストによる被害を受ける人に対する情報提供を目的とした冊子をインターネットで販売"Introduction to asbestos essentials" "Asbestos Essentials: Task Manual"(2001.3.30) HSE Books-http://www.hsebooks.co.uk/index2.html
(Asbestos Essentials: Task Manualの表紙には、「アスベストによって、イギリス国内では現在、年間数千人もの死者が発生しています。アスベスト関連の疾病には治療方法が見つかっていません。」と書かれている。)
−アスベストをめぐる各省の対応−
石綿対策全国連絡会議は、今年の6月25日と7月9日に、アスベスト問題について各省の担当者との話合いを行った。
石綿対策全国連絡会議HP:アスベスト対策情報
http://homepage2.nifty.com/banjan/index.html*環境省
PRTR法に基づいて国が行うことになっている情報提供や人材の確保は、アスベストに関する限りほとんど行われていない。有害物質の情報提供を担当する職員が不足。提供しようとする意欲もみられない(自分たちの仕事という認識はないように見受けられる)。
*経済産業省
担当者は「自分たちは特に何も行ってこなかったのに、最近になって、大手企業がアスベストの使用を止める方針を明らかにしたのを知って喜んでいる」という内容の発言をしていた。旧通産省は(社)日本石綿協会に対して、アスベストに関連する調査研究を委託してきたが、担当者は、同協会はアスベスト輸入業者に対して輸入量に従った会費を割り当てていて、それが同協会の収入の大きな割合を占めていると説明している。
*国土交通省
管理して使用すれば安全という、政策の基本的な柱がWTOという国際舞台で否定された結果となっているのに、昨年と同じような内容の回答文書を読み上げ、通常の使用方法では安全などと説明している。
*厚生労働省
アスベストに関する情報の提供はほとんど行われていない(むしろ情報を秘匿している状態)。 旧労働省では、1996年頃からの委託調査の結果を「繊維状物質関連情報データベース」にまとめているが、これは産業医科大学の研究室が管理するページとなっており、一般の人を対象にしたものにはなっていない。今年の省庁交渉では、このデータベースを一般の人を対象にしたものとして広く公表するように要望した。 (繊維状物質関連情報データベース http://peanuts.med.uoeh-u.ac.jp/)
旧労働省ではこれまでアスベストに関するたくさんの委託調査を行ってきたが、報告書を公表していない(これまでは調査名も公表していなかったから、今までより前進したと担当者は言っているそうだ)。今回も、旧労働省関連の委託調査報告書は情報公開により請求することとされた。そのため多額のコピー料金の負担を強いられることになり、大きな問題となっている(経済産業省分は配布及び貸し出し、旧厚生省分は図書館で貸し出し、他の省もこのような対応はしていない)。
一昨年、文京区のさしがや保育園で、改修工事による園児のアスベスト暴露が問題となった。厚生労働省では全国で保育園の改修工事を進めているが、アスベストの飛散防止の対策は不十分で、中には、保護者への十分な周知も行わないまま、ほぼ1年間もの長期間工事を行い、その間部屋を移動しながらゼロ歳児も含めた園児全員の保育を続けている例も出てきている。厚生労働省には、全国の保育園の管理者に、アスベストの対策の徹底と保護者への周知を促す内容の文書を出すように求めているが、今のところ、出すのは難しいと言っている。
今後、ビルメンテナンスを行う作業員の健康被害が増加する可能性があることから、ビル管理団体と連絡をとって、アスベストによる被害防止のための対策を検討すべきだという提案を行っているが、現在検討中ということで、今のところ具体的な話にはなっていない。
*各省とも
今回の省庁交渉では各担当者に、WTOの裁定(小委員会と上訴機関の報告書)を読んでいるかどうか確認したが、厚生労働省の担当者一人が、要約の翻訳を読んでいると言っただけで、他の誰も報告書に目を通していなかった。日本のアスベスト問題の担当者が、アスベストをめぐる世界的な紛争の経過や結果に対して、ほとんど関心を持っていないという現状がうかがえる。
参照:WTOの裁定(9)-WTOで問われていること
※2001年7月に、石綿対策全国連絡会議が行った、各省との会合の詳しい内容は、
石綿対策全国連絡会議HP 『アスベスト対策情報』
http://homepage2.nifty.com/banjan/
「2000年度省庁交渉の記録」
http://homepage2.nifty.com/banjan/html/shotyo.htm
に掲載されています。